切り札は最後の最後に見せるようです
(これは……爆薬!?しかも相当な火力だ。あの程度の量でここまでの爆発が起こせるのか!?)
顔を上げると同時、自分の想像以上の威力の爆発で砕けた大岩と周囲の炎が視界に広がる。驚きつつも周りは岩場のため周囲に延焼の恐れはないだろうと瞬時に判断する。突然の爆発に回避が間に合わず巻き込まれたのか、既に絶命している先程まで気配を発していたと思われる者たちの亡骸が見える。爆発の煙が収まり、そこでようやく正体が判明した。
「あれは……刃鱗獣!刃鱗獣の群れか!」
刃鱗獣。身体中に生える鱗や体毛を硬化して刃のような鋭さで相手を切りつけたり硬化した鱗を飛ばして相手を狙う類の野獣である。その鋭さは個体差があるものの、並の防具ならそれごと容易に貫通して切り裂く鋭さを持っている。それ故に守りも堅く、ハンターなら最低でもCランク級の腕前がなければ対応は難しいだろう。
(そんな連中をあの爆破一つで簡単に仕留められるという事は、ナナカさんはハンターとしても相当な腕前という訳か……だが、今の一撃で群れの全てを殲滅出来た訳じゃない。あくまで仕留めたのは岩の近くにいた連中だけだ。まだ決して安心は出来ない。気配がまだ消えないのがその証拠だ)
自分の予想通り、岩の爆発に巻き込まれた数体は間違いなく絶命しているものの、少し離れた場所にいた刃鱗獣が臨戦態勢に入った状態で物陰から姿を現す。
「うーん。今の一撃で大半を殲滅出来れば大分楽だったんすけど、流石にそう上手くはいかなかったっすね。ま、想定内っす」
次々に殺気を放ちながら現れる刃鱗獣を見て平然とそう言うナナカさん。既にその手にはナイフが握られている。先程放った物とは違い、普通の投げナイフのようだ。
「……いったい、どんな配合をしたらあんな大爆発が起こせるんですか?あの規模の爆発を起こすなら少なくともあの数倍の火薬が必要だと思うんですが」
自分の問いにナナカさんがにっこりと笑って答える。
「エルフの知識と一流の薬師のスキルを舐めちゃ駄目っす。書物に伝わる配合なんて所詮ただのマニュアルにしか過ぎないっすよアークさん」
おそらく自分では想像もつかない精密な配合や秘術によりあの火力を出したのだろう。呆気に取られているとナナカさんが続ける。
「あ、申し訳ないんすけどまだアークさんはこのまま今の位置をキープしたままでしばらくこっちに向かってくる連中を迎撃する事に専念して欲しいっす。三分……いえ、五分ほどの我慢っすね。よろしくお願いします」
片手で剣を構えていた自分にナナカさんが言う。今なら爆発の衝撃で耳をやられている魔獣がいる中、攻め時であるにも関わらずあえてこちらから攻めずに防御に徹しろと言う。だが、その判断がおそらく最善手なのだと本能で察する。
「……分かりました。ただ、俺の左手がこの有様なのでナナカさんの方まで完全には庇いきれないと思いますが大丈夫ですか?」
自分の問いにナナカさんがまた頷きながら言う。
「大丈夫っすよ。何時間も耐えろって言われたら厳しいっすけど、五分程度ならどうとでもなるっす。それじゃ……よろしく頼むっす!」
言いながらナナカさんがこちらに飛び掛かってきた刃鱗獣の群れを次々に投げナイフで貫く。刃鱗獣が硬化出来ない眉間に眼球、それと口内という弱点部位を正確に貫いていく。
(流石の腕前だ。これならひとまずは自分の方に専念出来る……なっ!)
物陰から飛び掛かってきた一体の刃鱗獣の一撃を回避し、横に薙ぎ払う形で両目を切り裂く。視力を失った刃鱗獣が地面に転がると同時に間髪入れずに眉間へ剣を突き刺す。
「流石っすねアークさん!もう少しその調子でお願いするっす!」
言いながらまたナイフを刃鱗獣に向かって投げ放つナナカさん。その様子を見て思う。
(……ナナカさん、連中を仕留めようとはしていない?あくまで牽制しているだけのようだ)
狙いをこちらに向けてくる連中だけに絞り、牽制によって後ろに下がった魔獣からは狙いを外す。仕留めにかかるのはあくまでこちらに近付いてきたものだけに照準を定めている。
(どういった狙いかはまだよく分からない。が、ナナカさんの判断に従った方がここは間違いなさそうだ)
ナナカさんに習い、自分もこちらに向かってくる連中だけに狙いを定めて迎撃に徹する。程なくしてナナカさんが手に持っていたナイフをすっと下ろしながら言う。
「……はい、時間っすね。予定より三十秒ほど遅かったっすね」
ナナカさんがそう言った直後、目の前にいた刃鱗獣の群れが次々にその場にうずくまり動きを止める。皆意識はあるものの、体が硬直し動けないようだ。その様子を見てようやくナナカさんの仕掛けに気付いた。
「……なるほど。『痺れ粉』のトラップですか。しかも強力な」
自分のつぶやきにナナカさんがにっこりと笑って言う。
「はい。ご明察の通りっす。エルフの秘薬を混ぜた超強力な即効性と持続性マシマシの奴っす。爆風で狙った範囲だけに広がるよう計算したっすけど大成功っすね」
ナナカさんがそう言い終えたと同時、目の前の刃鱗獣は一頭残らずその場に倒れ込んでいた。




