嫌われていても仕事はきちんとやり遂げます
「……アークさん。この木の実が『幻惑の実』、そっちの葉が『痺れの葉』で合っていますか?私、粉末や液体、錠剤に加工された物しかほとんど見た事なくて」
その問いかけに置かれた素材を確認する。すぐにその問いに答える。
「はい。合ってますよナナカさん。しかし凄いですね。流通している資料や辞典に載っている物と現物は若干色も形も違うのに……流石、超一流の薬師ですね」
自分の言葉に一瞬嬉しそうな顔になるものの、すぐにつんとした表情に戻って彼女が口を開く。
「……お世辞とかいらないっすから。所詮自分は『いらない子』っす。アークさんと違って」
そう言って自分に背を向け黙々とまた素材採取に戻る彼女。その背中を見てやれやれと思いながら心の中でため息を吐く。
(……やれやれ。師匠からのお願いとはいえ、何ともやり辛いな)
師匠からのお願い。それは今目の前にいる彼女……ナナカさんに同行し、彼女の求める素材採取のサポート及び護衛であった。師匠の言葉を脳内で振り返る。
『君がボクの愛しの愛弟子なら、彼女は所謂「自称ボクの弟子』って奴だ。エルフの村時代からずっと懐かれていてね……優秀なのは間違いないんだが、色々と他のところで残念なところがあってね。ま、共に行動していれば君にもおのずと伝わるはずさ。悪いけど今回は彼女に付き合っておくれ』
ナナカ=クラタ。師匠と同じく人間とエルフの間に生まれたハーフエルフである。師匠と同じく人目を引くほどの美人ではあるのだが、師匠とは違いエルフの血の方が色濃く出ているのが特徴である。見た目は美しい少女にしか見えないが、エルフのため実年齢は自分より年上だろう。
褐色の肌が特徴のダークエルフとは異なり、純粋なエルフ特有の長耳で雪のように白い肌とエメラルドの様な髪と瞳。師匠とは違い背格好は少女のように華奢でスレンダーな体型が特徴的だ。
(……しかし、顔合わせの時から何となく察してはいたけどどうにも自分は嫌われているみたいだな。ま、それでも質問や要望をしっかり伝えてくれるだけまだマシか)
今でこそ人間とエルフの関係は良好とはいえ、旧式の考えに囚われ未だに確執がある者も一定数存在する。師匠のように完全に人間社会に溶け込んでいるエルフもいれば、未だに人間に対して距離を置くか心に壁を作るエルフも少なくない。
(ナナカさんはどちらかと言えば後者なんだろうけど、師匠の手前やむなく俺と行動しているって感じだな。ま、完全に拒絶するような人なら師匠が俺にこんな話を持ってくる訳はないからそれは救いだな)
師匠の事を尊敬している故、人間である自分の同行を渋々ながら受け入れているという感じではあるが、今回ナナカさんがとある筋より依頼のあった素材を採取する際に素材の鑑定と万一の際の護衛を兼ねてこうして付き添っている次第である。
(まぁ、師匠があらかじめ言ってくれた通りきちんと最低限の会話は交わしてくれるし質問の内容も的を射たものばかりだ。和気藹々とはいかないだろうがこのまま順調にいけば採取自体は問題なく終わるだろう。だけど……)
こちらに背を向け黙々とメモを取りながら採取に励むナナカさん。その姿を見て思わず心の中で叫ぶ。
(……この人!露出が!ヤバい!)
ナナカさんの背中を見ればほぼ素肌が剥き出しである。白い肌に反するように身に纏っている漆黒の黒衣は彼女のスレンダーなボディーラインにぴったりと張り付くような形で巻かれている。それだけならまだしも、謎に背中はほぼ露出するような形であり、何故かお腹まわりやおへそも剥き出しである。
(……目のやり場に困るな。しかしまた何でこんな格好なのか)
それだけならまだ良い。こちらに何か質問を投げかけてくる際にはきちんとこちらの目をしっかりと見つめて近くに寄って話しかけてくるのだ。それがまたたちが悪い。
「えぇと……採取の際は草むらや荒れた岩場にも足を踏み入れる事もあるけれど、その格好で大丈夫ですか……?」
顔合わせの際、その格好に面食らってしまい思わずそう言った。だがナナカさんは意にも介さずといった様子で言う。
「ご心配には及ばないっす。この布はエルフに伝わる特殊な技法で編まれたものっす。面積が少ないのは動きやすいための機動性を重視したものですし、素肌の部分も含めて特殊な加護に包まれてるので多少の斬撃、砂漠の熱や雪山の寒さにも耐えられるっす」
そう返されたらこちらも黙るしかなかった。結果、それ以上触れる事なく最低限の会話を交わしつつ素材の採取を進めているという次第である。
(これ以上こんな人間のおっさんに身なりをあれこれ言われてもうざったいだけだろうしな。心を無にして早く作業を終わらせよう)
そう考え、余計な事は言わずナナカさんの目的の素材や興味を持った素材の解説役や注意点を教える指南役に徹する事にした。
「……えぇと、これで目的の素材の七割は問題なく確保した感じっすね。念のためにアークさんに確認をお願いしたいっす」
一通り採取を済ませ、ナナカさんにそう言われて素材袋とリストを確認する。綺麗な字でまとめられた項目と採取した袋の中の素材を照らし合わせてから口を開く。
「はい。問題ないですね。ここに書かれたリストで線を引かれた素材はきちんと全て集まっています。……えぇと、残りの素材はここから少し先に進んで岩地の辺りに行く必要がありますので、少しここで休んでから向かいたいと思いますがどうでしょう?」
そうナナカさんに言うと、態度には出していなかったもののナナカさんも疲れていたようですぐに答えが返ってくる。
「そうっすね……実は私も少し休憩したかったっす。じゃあ、ここで休んでから向かいましょう」
素直にそう答えてくれるナナカさん。その言葉に頷き、その場で火を起こして砂糖と生姜を入れた薬膳湯をカップに注ぎ、事前に作っておいた携帯食を片手にしばし休息を取る事にした。
「熱っ……でも美味しいです。アークさん、料理スキルも一級なんすね。クルスさんが一家に一台アーク=ペンレッドと言うのも納得っす」
そんな二つ名はいらないです、と突っ込みたくなったが、あえて触れずに会話を続ける。
「あはは……薬膳湯って体に良くてもそのままだと苦くて中々飲めたもんじゃないですからね。砂糖で甘みを足して生姜でクセを取るとすんなり飲めますよね。あ、お代わりあるんで良ければ言ってくださいね」
そう声をかけると、カップを両手で握り締めたナナカさんが自分の顔を見て口を開く。
「……アークさん。自分、質問良いっすか?」
自分の目を真っ直ぐ見つめてナナカさんが言った。




