最終部「未来への誓い -A Vow to the Future-」
午後12時00分、東京都・東京湾岸・埋立地。
崩壊する『都市型総合情報処理センター』の地下トンネルを抜けたユズリハは、外の光を浴びた。新鮮な空気が肺を満たし、彼女は大きく息を吸い込んだ。咲を腕に抱えたまま、瓦礫と化した建物の残骸を見つめる。アダムの最後の拠点、彼の「秩序」の心臓部は、今やただの廃墟と化した。
その時、遠くからヘリコプターの音が聞こえてきた。ユズリハは顔を上げた。そこには、《シデン》のマークが描かれたヘリコプターが、彼女たちに向かって降下してくるのが見えた。
ヘリコプターが着陸すると、詩音と、そして車椅子のシラカバが降りてきた。シラカバの顔には、疲労の色が濃く出ていたが、その瞳には達成感の光が宿っている。
「ユズリハ!咲!無事だったのね!」詩音は、駆け寄ってきてユズリハと咲を抱きしめた。その声には、安堵と喜びが溢れている。
「詩音司令…シラカバ…」ユズリハは、かすれた声で言った。「ありがとう…」
「シラカバ、データは?」詩音は、シラカバに視線を向けた。
「ええ。アダムの『都市型総合情報処理センター』のコアシステムから、全ての情報を回収することに成功しました」シラカバは、タブレットの画面を詩音に見せた。「アダムが残した**『闇の残響』、彼の『概念情報操作』**の全ての記録、そして、これまでの彼の協力者たちの情報も全て…」
その言葉に、ユズリハは安堵のため息をついた。これで、アダムの「秩序」が、二度とこの世界に現れることはない。
咲は、ユズリハの腕の中でゆっくりと目を開けた。彼女の左腕の痣は、依然として黒い模様のままだが、その表情は穏やかで、澄み切った瞳は、空を見上げていた。
「終わった…」咲が、小さな声で呟いた。
「ええ、終わったわ。咲。あなたは、この世界の未来を救ったのよ」詩音は、咲の頭を優しく撫でた。
シラカバは、咲の左腕の痣を注意深く観察した。「咲の『紫電』の力は、一時的に休眠状態に入ったようです。アダムの残滓を完全に浄化したことで、彼女の身体が、その力を完全に制御するための最終調整を行っているのでしょう。やがて、彼女は、これまでの力を超えた、新たな力と共に目覚めるはずです」
ユズリハは、空を見上げた。青空が広がり、白い雲が流れていく。この空の下で、アダムは、全ての人々を支配しようとしていたのだ。しかし、彼らはそれを食い止めた。
「これで…本当に終わりなんですか?」ユズリハは、静かに詩音に尋ねた。
詩音は、首を横に振った。「いいえ、ユズリハ。アダムの『秩序』は消滅したけれど、彼の残した影響は、すぐに消え去るものではないわ。彼が操っていた組織、彼に協力していた者たち、そして、彼の『概念情報操作』によって歪められた人々の認識…それらを元に戻すには、まだ時間がかかる」
「それに、今回の件で、アダムの『秩序』の背後に、より巨大な組織、あるいは個人が関与していた可能性が浮上しました」シラカバが付け加えた。「アダムは、ある意味で、彼らがこの世界を『管理』するための**『実験体』**だったのかもしれないわ」
その言葉に、ユズリハは再び身構えた。アダムの戦いが終わっても、まだ見えない「敵」が潜んでいるというのか。
「しかし、我々には、アダムの残した全てのデータがある。彼らが、どのような目的でアダムを利用していたのか、必ず突き止めてみせるわ」詩音の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。「そして、二度と、アダムのような『秩序』がこの世界に現れないよう、我々は常に監視を続ける」
ユズリハは、咲を抱きしめた。彼女の「撃つ意味」は、まだ終わらない。詩音とシラカバと共に、彼女は、この世界の真実を守り、未来へと繋ぐための戦いを続けるだろう。
ヘリコプターのプロペラが、ゆっくりと回転を始める。彼らは、新たな戦いの地へと向かう準備をしていた。
『シデン』の戦いは、終わらない。それは、この世界の『真実』と『自由』を守るための、永遠の誓いなのだ。




