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第69部「深淵への降下 -Descent into the Abyss-」

午前11時00分、東京都・東京湾岸・埋立地。


東京湾の波が打ち寄せる埋立地に、詩音、ユズリハ、咲、そしてシラカバの姿があった。周囲は、錆びたコンテナや廃棄された資材が山積みにされ、異様な雰囲気を醸し出している。その中心に、一見するとただの巨大な物流倉庫に見えるが、内部にアダムの最後の「心臓」たる『都市型総合情報処理センター』を隠し持つ建造物がそびえ立っていた。


「ここが、アダムの最後の拠点…」ユズリハは、MCX Virtus Patrolを構え、警戒しながら周囲を見回した。潮風が、彼女の髪を揺らす。


咲の左腕の痣は、淡い青紫色に輝き、その瞳は、この建造物の奥深くから聞こえてくる、アダムの最後の「囁き」を捉えていた。彼女は、まるで都市そのものと一体になったかのように、周囲の電磁波の情報を読み取っている。


「アダムの『残滓』は、このセンターを通じて、都市全体を自動的に支配しようとしているわ。彼が消滅した後も、彼の『秩序』は継続する…」詩音の声は、静かだが、その奥には強い決意が宿っていた。「我々が、この『心臓』を破壊しなければ、アダムの『秩序』は永遠にこの都市に影響を与え続けることになる」


シラカバは、車椅子に座りながら、タブレットを操作していた。「センターの外部は、非常に複雑な自動防衛システムによって守られています。物理的な侵入は、ほぼ不可能に近いわ。私の方で、システムに一時的な干渉を試みますが、時間制限がある」


「咲、何か感じる?」ユズリハが尋ねた。


咲は、目を閉じて集中した。「たくさんの『目』が…この建物を守っている…でも…その奥に…深くて…暗い…アダムの…最後の『意識』が…眠っている」


その言葉に、ユズリハはゾッとした。アダムの「残滓」は、単なる自動システムではなく、いまだ彼の意識の一部が残っているというのか。


「シラカバ、侵入経路は?」詩音が指示した。


「この建物の地下には、廃液処理用の古い配管システムが張り巡らされています。その一部が、センターの最深部へと繋がっている可能性があります」シラカバが、タブレットに建物の設計図を表示させた。「ただし、廃液処理システムは、現在も稼働中。侵入は極めて危険です」


「危険でも、行くしかない」ユズリハは、きっぱりと言った。


その時、建物の周囲に設置された監視カメラのレンズが、一斉にユズリハたちの方へと向き始めた。赤いランプが点滅し、機械的な音声が響き渡る。


「警告!未登録の侵入者を確認しました!直ちに退去してください!」


「まずい!セキュリティシステムが反応したわ!」シラカバが叫んだ。「今、建物の外壁から、複数の武装ドローンが展開を開始した!数は…少なくとも20機以上よ!」


ユズリハは、すぐにP320を構え、上空に現れた武装ドローンに銃口を向けた。

ダダダダダダッ!


ドローンから、レーザーと銃弾が雨のように降り注ぐ。ユズリハは、コンテナの影に身を隠し、反撃を開始した。


「咲、シラカバ、詩音司令、みんな、安全な場所へ!」ユズリハが叫んだ。


「大丈夫!私とシラカバは、この場でシステムへの干渉を続けるわ!咲、あなたの力が必要よ!」詩音が指示した。


咲は、自身の左腕の、淡い青紫色に輝く痣に力を集中させた。彼女は、この場所の「都市の鼓動」を読み取り、廃液処理システムの最も安全な侵入経路を特定しようとする。


『…ゼロ…ゼロ…ゴ…排除…』


再び、アダムの冷たい声が、咲の脳内に直接響いた。それは、このセンター全体を支配するアダムの「残滓」が、咲の存在を明確に認識し、その排除に乗り出した証拠だった。


「来るわ…!アダムが…私を狙っている…!」咲が、苦痛に顔を歪ませた。


上空からは、武装ドローンが容赦なくレーザーを放ち、地上からは、物流倉庫の内部から、重い金属音を立てて警備ロボットが姿を現し始めた。彼らは、ユズリハたちを確実に排除しようと、一糸乱れぬ動きで迫ってくる。


「シラカバ、侵入経路は!?」ユズリハが叫んだ。彼女は、警備ドローンの猛攻をかわしながら、P320のトリガーを引く。


「廃液処理システムの地下入り口に、一時的にロックが解除された!今よ、ユズリハ!咲を連れて、そこから侵入して!」シラカバが叫んだ。


ユズリハは、咲を抱きかかえ、シラカバが指示した地下入り口へと駆け出した。背後からは、警備ドローンと警備ロボットの猛追が迫る。


廃液処理システムの地下入り口は、巨大な鋼鉄製のハッチだった。ハッチの隙間からは、錆びた水の匂いが漂ってくる。ユズリハは、咲を抱えたまま、ハッチの中へと飛び込んだ。


ハッチが、重々しい音を立てて閉まる。外部からの光が遮断され、内部は完全な闇に包まれた。耳を澄ませると、錆びた配管の中を流れる水の音が、不気味に響いている。


「ここは…」ユズリハは、暗闇の中でP320のライトを点灯させた。ライトが照らし出したのは、狭く、暗い、錆びた配管の迷路だった。配管の壁には、緑色の苔が生え、足元には、汚れた水が溜まっている。


「咲、大丈夫か?」ユズリハが尋ねた。


咲は、その左腕の淡い青紫色の痣を光らせながら、顔を上げた。「うん…この奥に…アダムの…最後の『心臓』が…脈打っている…」


咲は、暗闇の奥深くへと続く配管の道を指差した。その道は、まるで深淵へと続くかのように、暗く、先が見えない。


アダムの「闇の残響」との最終決戦が、今、深淵の底へと降下しようとしていた。

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