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第67部「共鳴する軌道 -Resonating Tracks-」

午前11時12分、東京都・都内主要駅・地下機械室。


咲が指差すメインコントローラーの最奥には、かすかに脈動する「目と歯車のシンボル」が輝いていた。それが、アダムの「人間行動予測システム」の中核、この駅の「目」だった。しかし、シンボルの周囲からは、唸り声を上げる警備ドローン、そして重々しい金属音を立てる警備ロボットが、次々と姿を現し、ユズリハと咲の行く手を阻む。


「シラカバ、敵の数は!?」ユズリハは、P320 XCarry Legionを構えながら叫んだ。


「ドローンは最低5機、警備ロボットは3体確認!メインコントローラーの防衛システムを最大限に起動させたわ!咲、急いで!」シラカバの声が、緊迫感に満ちて響いた。


ユズリハは、迷わず警備ドローンに銃口を向けた。

パン!パン!パン!


彼女の正確な射撃が、ドローンのセンサーやプロペラを次々と破壊していく。火花を散らし、コントロールを失ったドローンが、機械室の床に落下した。しかし、残りのドローンは、レーザー照準をユズリハに向け、一斉に発射した。


ゴオオオオオオオオッ!


ユズリハは、辛うじてレーザーをかわし、警備ロボットの背後に身を隠した。ロボットたちは、ユズリハを排除しようと、重い足取りで迫ってくる。


「咲、大丈夫か!?」ユズリハは、背後を振り返った。


咲は、メインコントローラーのシンボルに手をかざし、目を閉じていた。彼女の左腕の痣は、かつてないほど激しい青紫色の光を放ち、その光がシンボルへと吸収されていく。


『…ゼロ…ゼロ…ゴ…干渉…許さぬ…秩序…を…守る…』


アダムの冷たい声が、咲の脳内に直接響いた。それは、メインコントローラー内部から放たれる、強烈な情報エネルギーの反発だった。咲の顔に、苦痛の表情が浮かぶ。彼女の身体が、微かに震え始めた。


「咲!無理するな!」ユズリハは、警備ロボットの攻撃をかわしながら叫んだ。


「大丈夫…!でも…アダムが…私を…飲み込もうと…」咲の声は、かすかに震えていた。彼女の精神が、アダムの「残滓」と直接対峙しているのだ。


その時、咲の周囲の空気から、微細な電磁波の波紋が広がっていくのが感じられた。それは、咲の「都市の鼓動」を感じ取る能力が、機械室全体へと共鳴し始めている証拠だった。


シラカバの声が、通信機から興奮気味に響いた。「すごいわ、咲!あなたの『紫電』が、メインコントローラー全体と共鳴している!アダムの『残滓』がシステムに送り込む情報エネルギーの経路を、感知しているのよ!」


咲は、目を閉じたまま、メインコントローラーのシンボルへと、さらに深く意識を集中させた。彼女の脳裏には、無数の情報が、光の粒子となって飛び交うビジョンが浮かび上がる。それは、この駅の乗降客のデータ、列車の運行状況、監視カメラの映像…それら全てが、アダムの「人間行動予測システム」へと吸い上げられていく様だった。


**『…この都市は…私の…もの…』**アダムの声が、咲の意識の奥底で、さらに強く響いた。


咲は、その声に屈しない。彼女の心には、ユズリハや詩音、シラカバ、そして、この都市に暮らす人々の、自由な未来を守るという強い意志があった。


「違う…!この都市は…誰のものでも…ない…!」咲は、心の中で叫んだ。


その瞬間、咲の左腕の痣から、光が一点に集中し、まるでレーザービームのように、メインコントローラーの「目と歯車のシンボル」へと放たれた。


ズドオオオオオオオオンッ!!!


強烈な電磁の閃光が、機械室全体を包み込んだ。シンボルから、激しい火花と青白いスパークが散り、メインコントローラーのシステムが、制御を失ったかのように激しく点滅し始めた。


「成功よ!咲!メインコントローラーの『目』を破壊したわ!」シラカバの声が、歓喜に満ちた響きで伝わってきた。「これで、この駅からの『概念情報操作』と『人間行動予測』は、完全に停止したはずよ!」


しかし、その歓声も束の間、機械室全体が、激しい音を立てて軋み始めた。天井から瓦礫が落ち、床に亀裂が走る。


「まずい!駅のシステム全体が暴走を始めたわ!アダムの『残滓』が、システム停止による自己破壊プログラムを起動させたのよ!」シラカバが警告した。「咲の力の覚醒が、予想以上にアダムの残滓を刺激したのかもしれない!」


「詩音司令、脱出経路は!?」ユズリハが叫んだ。


「メインコントローラーの奥に、地下鉄の線路へと繋がる緊急扉があるはずよ!そこから、隣の駅まで移動すれば…!」詩音が指示した。


ユズリハは、崩壊する機械室の中を、咲を抱きかかえ、緊急扉へと駆け出した。警備ロボットたちは、システムが暴走したことで、動きが鈍くなっているが、それでもなお、重い足取りでユズリハたちを追ってくる。


ガガガガガ…!


緊急扉は、重々しい金属製で、その脇には、緊急解除用のレバーが設置されている。ユズリハは、迷わずそのレバーを引いた。


ギーィィィィ…!


重々しい音を立てて、扉がゆっくりと開かれ始めた。その奥には、薄暗い地下鉄の線路が広がっていた。線路の向こうには、隣の駅へと続くトンネルが見える。


「シラカバ、脱出は可能か!?」ユズリハが叫んだ。


「その線路は、現在、運行が停止している時間帯よ!そこからなら、外部へと脱出できるはずよ!私は、このメインコントローラーから、アダムの残滓に関する情報を最大限回収するわ!」シラカバが言った。


「シラカバ、危険よ!」ユズリハは、再び通信機に叫んだ。


「大丈夫!私には、私の『撃つ意味』があるから!」シラカバの声は、決意に満ちていた。「あなたたちは、生きて、この真実を世に知らしめるのよ!」


ユズリハは、咲を抱きかかえ、線路へと飛び降りた。背後からは、機械室の崩壊音と、シラカバのデータ回収作業を示す電子音が聞こえる。


地下鉄のトンネルの中は、冷たく、闇に包まれていた。ユズリハは、咲を抱きかかえたまま、線路の上をひたすらに走り続けた。トンネルの奥から、微かな光が見えてくる。それは、隣の駅の光だった。


咲の「紫電」は、都市の神経系統を巡る情報戦において、決定的な武器となった。しかし、アダムの「闇の残響」は、都市の鼓動の奥深くに、まだ潜んでいる。この戦いは、まだ終わらない。


ユズリハは、光へと向かって走り続けた。彼女たちの新たな戦いは、都市の奥深く、地下鉄の軌道の上で、静かに、しかし確実に続いていた。

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