第六部「矛盾の銃声」
その夜、都内・東品川の埠頭地区では、不穏な“武器取引”が行われていた。
情報によれば、《ルカ・アーク》の武装支部が、某東欧ルートから違法に輸入した軍用小銃と拳銃の受け渡しを行っているという。
「使用銃器の情報を確認。主武装はFN SCAR-L(5.56mm)、副武装はCZ P-09(9×19mm)。精密で、反動制御に優れた装備だ」
シラカバの冷静な声が、イヤーピース越しに届く。
「つまり、“素人”ではないってことね」
ユズリハはビルの屋上から、望遠スコープで様子を見ていた。
貨物コンテナが積み上げられた中、10人以上の武装集団が規則的に配置されている。
その中に、一人だけ異質な雰囲気を持つ男がいた。
金属義手を右腕に装着し、軍用戦闘服に身を包んだ男──コードネーム《バルザス》。元G.I.S.D.重火器主任。
「ユズリハ、注意しろ。そいつ……かつて対人制圧用の“感圧起爆弾”の設計に関わっていた。近接戦闘において、躊躇がないタイプだ」
「了解。目標は……《武器そのもの》じゃなく、《バルザス》ね」
ユズリハは拳銃を確認した。
装備しているのはSIG SAUER P320。
予備マガジン3本、弾種は147grホローポイント。
室内戦を想定した低反動・高停止力仕様だ。
「セラフ、動作確認」
『接続良好。感情同期率72%。問題ありません』
「じゃあ……始めようか」
**
倉庫街の外周から、ユズリハは静かに侵入する。
2人組の敵兵が背後を通過しようとした瞬間、
パン、パン!
サイレンサー付きの二発が即座に頭部を貫く。
1人はCZ P-09を抜こうとしたが、その前に倒れた。
P-09──チェコ製のポリマー拳銃。低照準線、シングル/ダブルアクション。訓練を積んだ者には扱いやすい。
「いい銃を持ってる……でも、“撃つ理由”がない者には、意味がない」
**
倉庫内部。
《バルザス》はユズリハの接近を察知していた。
彼の手には、FN社のSCAR-L(Mk16 Mod 0)。
20インチの長銃身、ピカティニーレールにはAN/PEQ-15とEOTechのホロサイトが装備されている。
「この銃はいい。手首が吹き飛ぼうが、最後の一発まで正確に飛ぶ」
ユズリハは遮蔽物を転がり、左右に射線を交わしながら距離を詰める。
SCARの火力は圧倒的だった。
ドン、ドドドン!
5.56mm×45 NATO弾が鉄板を貫通し、火花を上げる。
「近接戦に入られたら不利なの、分かってるよね?」
バルザスは冷笑を浮かべ、マグチェンジ。
「それを防ぐのが“グレネードランチャー”ってやつだ」
SCARのアンダーバレルに装着された**FN40GL(40mm)**が火を噴いた。
小型HE弾がユズリハの頭上の梁を吹き飛ばす。
「危ない!」
セラフの警告と同時に、ユズリハは宙返りで脱出。
直後、爆風と鉄片が背後を削った。
──判断ミスすれば即死だった。
「この距離なら……勝てる!」
**
距離15メートル、遮蔽物のない状況。
ユズリハは横ダッシュで弾道を外しつつ、3連射。
パン、パン、パン!
P320のホローポイントが、バルザスの右肩を抉る。
「ぐっ……!」
SCARが大きくぶれた。
バルザスは義手を構えて突進してくる。
「銃だけじゃねえ、俺の武器は“この腕”だ!」
金属義手がユズリハの腹部に向かって突き出される。
ユズリハは横に飛び、すれ違いざまに膝を撃ち抜いた。
パン!
崩れ落ちるバルザス。その顔に、苦笑が浮かぶ。
「女にやられるのも……悪くねぇ……」
ユズリハは、銃を下ろした。
「……銃は“意志”を映す鏡。あなたにはもう、戦う意味がなかった」
「意志、か……」
バルザスはそのまま、気を失った。
**
任務完了後、セラフの声が静かに響いた。
『ユズリハ、感情同期率は安定しています。今のあなたは、以前よりも“撃たない理由”を知っている』
「……撃たないで済むなら、それが一番いい。でも、それだけじゃ誰も救えないこともある」
彼女は夕暮れの港に立ち、P320をそっとホルスターに戻した。
静かな波音だけが、戦いの終わりを告げていた。