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こんなん人間不信になるわシリーズ

僕が異世界に転移させられるまでの話

作者: 朝緑

その日は確か、神社に行った帰りだった。

 

漫画を描くときの資料を作る目的で、真昼間に神社をスケッチした帰り。何か特別なことをしたわけでもなかった。ただ絵を描いて、ついでにお参りをしただけで。そのお参りだって、幼い頃から親に連れられて何度もしたことがある。


しかし、家に帰る道中にちょっとした出会いがあった。


「おい、そこのお前。わしのことが見えておるだろう。さっきからこのわしが話しかけているというのに。だんまりを決め込むとは不敬じゃぞ」


 そう、やたら偉そうに話す成人男性に呼び止められたのである。しかも190cmぐらいありそうな高身長で細身のイケメンで、陰陽師のような服装をしている。なりきり系のコスプレイヤーの方かな?


「まあわしの言葉を何度も無視したことは不問にしてやるから、さっさと助けんか。ほれ」

「いやです」

「なんじゃと!?どんな神経しとるんだお前。わしが困っとるんだぞ」

「ええ...怖っ......」

 

 なんとこの不遜な態度の男性は、隣接する一軒家の間に挟まって動けなくなっているのである。


「というか何があったらそんな状況になるんですか...」

「ほら、この前まで黒い鳥が空から卵を大量に降らしてきてうっとおしかったじゃろ。周りの人間どももうるさかったし、暑かったしでさすがのわしでもイラっときてね。だから不貞寝して、先日目を覚ましたらこの在りざまよ。誰じゃわしの神社解体したの。祟ってやるから名乗り出ろ」

「さっきから何言ってるんですか...?」


ダメだ何言ってるのか分からない。困っているのは目に見えて分かるんだけど、ここまで助ける気が起きないのは初めてだった。


「ほら。質問には答えてやっただろう。はよ助けんか」

「助けていいか親に相談したいので写真撮ってもいいですか?」

「もう何でもいいわい。はよせい」


どう見ても不審者なので警察を呼んだ方がいい気もするが、とりあえず親に相談しよう。迷ったら奇行に走る前に電話しろって親も言ってたし。そう思って現状を伝えるためにも写真を撮ろうとスマホをこの男性に向けた。


が、何も映らなかった。


「え」

「なんじゃその四角いもの。なんかめっちゃ居心地よさそうじゃな。助けてくれた暁にはその四角いものを媒体に助けてやらんこともない」


*****


「結局誰なんですか?」

「わしは神様じゃ。ほれ、おぬしらが祭っているものの母神じゃぞ。存分にあがめたまえ」


カメラに映らなかったときは幻覚かとも思ったけど、助けるために触ることができたのでとても不気味な感じだった。その後この男性は勝手についてきて、土足で僕の部屋まで上がってきた。


「握手してやってもいいぞ。ほれ、右手出しな」

「いやですよ。触りたくないです」

「なんじゃと!?これほどまでに名誉なことはないというのにか!?」


リビングで母親とばったり会ったが、僕の背後にいる不審者には目もくれず、何の反応もしてくれなかった。だからこの男性は僕の妄想上の何かなのだろう。そう決めつけて現実から目を背けることにした。何故か相手は友好的だし、このままの調子で接しても大丈夫だと信じて。


「ふむ。西洋の影響を受けているだけかと思ったが、よく見ると知らない家具だとかが散乱しているな。何だこの本は」

「それは漫画だよ。知らないの?」

「こんなもの...この前までは存在していなかったぞ」


どうせ幻覚を見るなら漫画のキャラクターとか、2Dの可愛いキャラクターとか見たかった。


*****


「ここにある本を一通り読んだんじゃが…異世界転生系?とやら、なかなかに面白いではないか」


神様がマンガやラノベ小説にハマってしまった。どうやら日本のカルチャーは神様の嗜好に叶ったようだった。


「ほうほう。この悪役令嬢ものとやらもいいものだな。続きを早う出せ」

「まだ発売されてないから無理だよ!」

「じゃあお主が描いておるマンガでもいい。早く出さんか」

「描き終わってないから無理!」

「なんじゃと!?」


神様は読んでいた本を宙に浮かしたまま、驚いた表情で僕の顔を覗き込んだ。異様に距離感が近い。


「なら1時間で1巻描け」

「無茶言わないでよ」

「わしからの要望ぞ?ちゃんとお礼もしよう」

「できません!」


自分の要望が全く通らないことに神様は腹を立てた。かなりご立腹のようで、そこら辺の本も少しずつ宙に浮き始める。


「なぜじゃ」

「物理的に無理なの!ラフ、下書き、線画、トーンの張りつけとかめちゃくちゃ時間かかるし!」

「むむ!」

「しかもネタ切れなんだよー」


事情を話すと納得してくれたようで、宙に浮いていた本は元の場所へ戻った。危ない。このまま暴れられたら流石に手に負えない。


「そうか…その、ねたとやらはどうすれば手に入れられるんじゃ?」

「分からない…急にパッと出てくる時もあるし、見たものを取り入れることもあるから」


例えば家族間であったやり取りとか、本で得た知識や事件を魔改造して取り入れたりとか。作品を作るきっかけとかは特に人によって違いが出ると思うけど、僕がネタを作る時は基本的にこのやり方になることが多い。


それを聞いた神様は心底驚いた表情をした。


「見たものを、か。なら、異世界転生ものを描くならば、異世界のものを見て取り入れるんじゃな」

「…え?」


確かに、言葉だけを取ればそういう意味にも捉えられる...のかな?


「お主が術者だとは知らなんだが、まあよい。特別大サービスとして、ワシが異世界に飛ばしてやろう」

「いや、え?急になに」

「遠慮するな。報酬の前払いとでも思ってくれ」


視界がぐらりと揺れる。気が付けば宙を浮いていた。ついに幻覚や幻聴だけでは説明がつかない状況に心が焦り出す。


怖い。厭な予感がする。


「うむ。致命的なバグにより捨てられた世界があるのう。そこならワシが干渉しても軽いペナルティぐらいで済みそうじゃ」

「待って、本気で言ってるんですか?」

「ワシは嘘などつかん」


にこりとした表情だった神様はゆっくりと真顔になり、緑色の瞳を光らせながら僕を射抜くように見た。


「なにせ**********信仰や◇◇◇◇◇◇◇◇の元になった大いなる存在じゃからな」

「今なんて言ったんですか?」

「ほらよっ」


意識が急に落ち始める。そして崖から落とされるような感覚がした。泣きたくなるような恐怖心と浮遊感を感じながら僕は目を閉じた。


「んー。どうせなら転生チートにすべきじゃったかの?まあええか。異世界転移ものということで」


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