プロローグ
「魔力……0!?」
水晶を操っていた女性が悲鳴に近い声を上げる。
ついで横に鎮座していた兵士達がざわつき始めた。
子供心にいけない事をしたとわかり、隣にいる両親の顔色をうかがう。
寡黙だが優しく撫でてくれる父も……暖かな笑顔を向けてくれる母も……目を見開き、口元をわなわなと震わせていた。
「誠か!?」
突然の怒鳴り声に身を震わす。
声の持ち主は、黒いフードを被った老齢の女性であり、杖をつきながら水晶へと近づく。
そして、ギョロッとした大きな目で水晶を覗き込む。
数秒、数分だったかもしれない。心臓の音が脳内に響き、息苦しくて無意識に母のスカートの裾を掴む。
「…………アーヴァン卿」
「は、はい」
老婦は父を手招きすると、チラッとこちらを見る。
値踏みするような、観察するような、とにかく嫌な感覚だった。
「そ、そんな……! 何とかならないのですか!?」
父は狼狽しながら老父の肩を掴み、声を荒げる。
その時、そっと母が手を重ねてきた。……その手は震えていた。
「それが掟じゃ。その重み、お主ならわかっておるじゃろうて」
老婦はただをこねる子供に言い聞かせるかのように落ち着いた口調でそう答えた。
そして、膝を折り、こちらへと視線を合わせる。
「坊や、歳はいくつだい?」
「な、ななさい……」
「そうか……。そうか……」
老婦は二度呟くと立ち上がり、部屋の中にいる全員に言い聞かせるように大きな声を出す。
「魔力なき童は呪われた子なれど、無碍にしてはそれこそ天の怒りを買う! 幸にして天下は平和である! 故に、この者の追放は五年後、十二歳を迎えた日とする!」
「ああああ……」
母が膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う。泣いているようだった。
父は悔しそうに唇を噛み締め、俯いていた。
話題の中心である子供だけが何もわからず、不安そうに皆の顔を見ているのだった。