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前半です

ただのファンノベルですので、解釈違いはご容赦ください。



熱く真っ赤な舌が辺りを舐めつくそうとする中、電脳桜神社の上で黒く大きなスライムのような異形が空に向かって吼える。

耳をつんざくような音と共に目の前のそれは、更にその体を膨張させていく。

それはまるで、底なしの欲望ように深く深く。


「チッ!コイツまだデカくなるってのかよ!」

対峙する白い不思議な生物の一人が思わず愚痴をこぼす。


数多くいる仲間達も、今や無傷なものなど一人もいない。

このまま戦い続けても、嫌な想像通りになってしまうだろうと誰しもが思っていた。

そんな所に更にパワーアップされたわけだ。

愚痴の一つや二つこぼしたくなるのが人情というものだろう。


「それだけじゃないわよ。ここを通して私達も少しづつ影響を受けてるわ。このままじゃ私達も…」

隣の白い生物が、苦々しく額の文様に手を当てる。


「まぁ元は同じモノだからな。不思議じゃないよ」

「それって、僕達もああなってしまうって事ですか!?」

一つの発言に周囲に動揺が走る。


「クソ!みこち!お前は先に逃げろ!あの暴走した45Pはオレ達が引き受ける!」

「で、でも…それじゃあ35Pのみんなが…できないよ、そんな事!」


みこちと呼ばれた巫女服の女の子が、ぶんぶんと音が鳴る程左右に首を振る。


これまで幾多の苦難を共に乗り越えてきた仲間を見捨てるなんて出来っこない。

それどころか、今沢山の35Pが傷つき倒れているのは自分の力不足のせいだ。


パニックになりかけるみこちの足にそっと暖かい手が添えられる。


「いいのよ。私達はみこちがいれば、何度でも生まれ変わって戻ってこられるんだから」

女35Pの強い視線に気圧され、助けを求めるように他の35Pに目を向けても揃って頷き返してくる。


「迷ってる時間はない!早く行け!!オレ達もすぐにあとを追うから!!」

「う、うん…」

勢いに押しきられやっと走り出したみこちが、境内をぬけ階段を降りていく姿を見送ると、みんなに安堵の顔を浮かぶ。


「やっと行ってくれましたね。みこちは頑固な所がありますから、ひやひやしましたよ」

「だよな。さぁて、オレ達はオレ達の仕事をやり遂げますか。負け試合だけどよ」

「仕方ねえさ!いつもの土管のオッサンクリア配信と同じよ!」


みんなが小さく笑うと、示し合わせたように一斉に荒れ狂う45Pに向かって飛び出していく。


「数々のPONと耐久を乗り越えてきたオレ達の力を見せるときだぜ!」

「「「おお!!」」」



     ◇



欠けた月が頼りない光を放ち、竹林が風に揺られながら、ひそひそと今夜に異変について噂している。


そんな中、無限に続くかの様に思える階段を一人瞳を滲ませた少女が駆けおりている。


「はぁはぁはぁ…」

もうどれくらい走ったかわからない。肺が悲鳴を上げ、口の中が血の味がする。

湿気を含んだ苔を踏みつけ、段差を踏み外しそうになる足を必死で踏ん張り、再び華奢な両足を一生懸命に動かし石段を下っていく。


もう何度も上から大きな破壊音が響いてくる。

歯を食いしばり聞こえないふりをしながら、視線の先に見える光へと走る。


あと少し、あと少しで外へと出られる。

光の元である裂けたような空間を囲むように立つピンク色の鳥居。

あれをくぐれば、暴走した45Pも追ってこれないはずだ。


(大丈夫。きっと大丈夫!ちゃんと後からみんな追いついてくるから、だから今は…)

自らを納得させるように、抱きかかえる金時さんに力を込める。


胸の中から金時さんのまっすぐな目が、みこに向けられる。

さっきからあえて見ないようにしてきたが、ついに見返してしまう。


「…わかってるって!でも、どうすればいいの!?あんなのに勝てるわけないじゃん!」

自然と足が止まる。

我慢していた涙がついにこぼれ落ちて、石段に水玉を描いていく。


勝てないと思うから、結果が出ないと思うからやらないのか?

そんな不確かなものの為に自分の心から目を背けるのか?


「…ってる」


諦めない心じゃないのか?


金時さんの瞳に映るもう一人の自分が語り掛けてくる。


「わかってるんだよ!自分がどうしたいかなんてさ!!」


だったら、走ろう。みこ。

優しい嘘に手をのばせる内に。

弱い自分が逃げていってしまわない内に。

全部の自分と手を繋いで走っていこう!


バンっと石段に足を打ち付けると、踵を返し静かになった神社を見上げる。


グッと腰を落とし一気に桜の気を溜めると、階段を踏み抜きながら、一気に上まで駆け上がっていく。

最後の一段を思いっ切り蹴って、空高く舞い上がるとそのまま大鳥居の上へと着地する。


「にゃっはろ~!みんな!お待たせ!ホロライブ0期生、エリ~~ト巫女!さくらみこだよぉ!!」


「えぇ!?な、なんで戻ってきた!?」

地面に転がる35P達が一斉に驚愕の目を向ける。

それに答えるように一度ウインクして声を張り上げる。


「だって、みこはエリートだからにぇ!エリートは、絶対仲間は見捨てないんだよ!たとえそれが勝てない戦いでも、道を踏み間違えた45Pでもにぇ!」


「ハハ…バカがよぉ。でも、そうだったよな」

全員がそんなみこちだからこそ、ここまで着いてきたんだったと思い出して、口角を上げる。


「そんじゃあ行くぞ45P!さっさと目、覚まさせてやるから覚悟しろよ!」

みこちは空に向け右手を付き出し桜の気を集めると、先端にわさわさした白い紙が付いたお祓い棒を呼び出す。

勢いのまま握られたそれを振りおろすと、昼間の様な明るい光を放つ電撃が45Pに向かって飛んで行った。


電撃の直撃を受けて、堪らず異形の45Pがたたらを踏む。

しかし、今のみこに油断はない!


「こっちはよぉ、これで倒せるなんて思ってないんだよ!まだまだいくぞぉ!!」

円を描く腕の動きに合わせて、(いかずち)の矢が、背中に展開され一斉に放たれる。

今回ばかりはいつものような、舐めプはしない…と決め…ている。多分。


耳をつんざく破裂音と目を貫く強烈な光の波が瞬時に辺りをのみ込む。

そのあまりの威力に神社を覆う結界には亀裂が走り、35Pたちも目を閉じ地面にしがみつかなければ吹き飛びそうなほどだ。


しかし、これだけ強力な攻撃を連続で放っているのだから、こっちの方もノーリスクというわけにはいかない。

さっきから体が軋み、奥の方から悲鳴を上がっている。

だけど、それでも攻撃は止める気はない!

更に力を込めて、奥歯を噛みしめお祓い棒を振る。


悠久、いやほんの刹那の時間だったかもしれない。

時の流れを感じない程の集中力が遂に切れる。

片膝をつき肩で息をしながら、辺りを見渡せば視界を通さぬ濃い煙に境内が包まれている。


「はぁはぁはぁ。やったか?…これだけやれば…さすがに…」

大きな疲労に、極度のストレスからの解放。そこには様々なものがあっただろう。

しかし、それらが知らず知らずのうちに「フラグ」を立ててしまったことに気が付かなかった。


フラグ。それはただの言葉ではない。

言うならばワールドオーダーへのアクセスキー。

世界を改変しうる可能性の欠片を宿した言の霊。

それが、皮肉な事に巫女の力により増幅され、世界から承認されてしまう。


世界が揺れ空から一筋の細い光が、濃い煙へと降りていったかと思うと、何かが弾ける音と共に中から黒い触手が伸びてくる。

恐ろしく速く、的確に狙いを定めてくるそれは今のみこちでは躱せはしなかった。


「あ…」

瞳一杯に映るそれに覚悟決めた瞬間、自身の体が横に吹き飛ばされる。

「諦めてんじゃねぇよ!」

「え…?」

思わず元居た場所へと動かした視線の中では、真っ白な35Pが赤く染まっていた。


     ◇


雑に地面に投げ出され、転がる瓦礫が体中を切り裂くが何も感じない。

そんなことよりも今は早く立たなきゃいけない!

慌てて顔をあげたその時、赤く濡れた触手が蕾のように膨らみ、35Pを包みこむようにじわりと呑み込んでいく。


「うわああああああ!!!」

雷を飛ばそうと出鱈目にお祓い棒を振り続けるが、先端から出るのはプスリと空気の抜ける様な音と小さな煙だけだった。

自分でも気が付かないうちに力を使い果たし限界を迎えていたのだ。


それでもお祓い棒を振り続け取り乱す様を見て愉悦に入ったのか、警戒を解いたのか分からないが遂に触手の主が姿をあらわす。

「…赤黒の35P…?」

鳥居よりも大きく、色も変わり、背中に多くの触手を生やしてはいるがその姿は正に35Pそのもの。

いつもの様にふくよかで可愛らしく、概念の象徴として相応しい姿形だ。

ただ、その身を覆う欲望に満ちたオーラさえなければだが。


小さなひっかかりが生まれる。

純粋35Pを取り込んだせいなのだろうか?いや、もとは45Pだったのはずだ。それが何故今更になって…。


だが、考えていられたのはそこまでだった。

それは自分の勝利を確信したかのように咆哮を放つと、電脳桜神社を覆う結界に亀裂が走る。

ここに来て時間の制限も付いたことにゾッとするが、おかげで少しの冷静さが戻る。

もしかするとあの形状になったということは、まだどこかに心が、体が残っているのかもしれない。

そうであって欲しい。そしたらまだ二人とも助けることが出来るのかもしれないから。


背中の触手たちがブルりと震えると、一斉にみこちを掴もうと襲い掛かってくる。

お祓い棒で何とか受けるが、半ばで折れてみこちと共に遠くへと吹き飛ばさてしまった。


「痛ッ!」

武器が無かろうと倒れていようと容赦などなしてはくれるはずもなく、触手が集まり一本の大きな筒となるとその先端に邪悪な炎が集まっていく。


当然だけど、それをただ見ているわけじゃない。

避けるために懸命に立ち上がろうするが、地面に叩きつけられた衝撃で体が上手く動いてくれない。


「動いてよ!みこの体!ちょっと希望が見えたところなんだって!」


一瞬光が膨れ上がり辺りを染めたあと、集まった力が解放される。

迫り来る邪な力を前に奥歯を噛みしめたそのとき、間に割りこんでくる影があった。


「おじ!キッズ!ダメ!逃げて!」

「なぁに、たまにはおじさんにもカッコつけさせろよ。フッ!」

「キッショ…おじさんは無言でスパチャだけ投げとけばいいんですよ」

抜き差しならぬ状況で、いつもの様に茶番を始める二人を光が飲み込んでいく。


真っ白に染まった視界に色が戻ると、ほんの数秒前まで目の前にいたはずの二人はどこにもいない。

代わりに地面に二つの影が焼け付いているだけだった。


「あ゛あ゛あ゛ぁ!ふざけんなあぁぁ!!」

爆発する怒りに呼応するように桜の気が心の奥底から溢れ出してくる。

動くようになった体を支え立ち上がると、そのまま赤黒いモノと目線を合わせるようにゆっくりと宙へと浮かび上がる。


みこちが両腕を大きく横へと広げると、どこからか飛んできた桜の花びらが彼女の周りで円環を描き始める。


35Pたちとは楽しいときも辛いときも一緒に歩いてきた、こいつやってんな!とは思うけど45Pだって勿論そうだ。

みんな仲間なのだ、家族なのだ。

この先の遠い未来でも、隣で笑い合おうねって約束してたんだ!

それを…それを!!


「おめぇがどこの誰か知らないけどよぉ!絶対開示請求してやるからなぁぁぁ!」


みこちの覚悟と共に、花びらたちは汚れ破れた巫女服へと張り付いていくと、ピンクの光を放ちながら白を基調としたアイドル衣装へと変化させていく。


「いくぞ!!こっからがみこの本気の本気だ!」

片手を勢いよく真上あげると、頭上に浮かぶ金時がピンクのバケツへと姿を変える。

バケツはひとりでに逆さまにひっくり返ると、いつ尽きると分からぬマグマを垂れ流し始める。


赫灼に顔を染めながら、おもむろにそのマグマの中に右手を突っ込み一気に引き抜く。

焼けただれたと思われたその手には、一振りの艶やかな日本刀が握られていた。



『後半』へ続く



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