第8話 ダンスメイド③(ダンスメイド視点)
私たちは野盗たちを縛り上げると、彼らを連行しながら馬車を進めることにしました。
お嬢様たちはその場で殺してしまうことも考えたようですが『天使様がかばった方々を無断で殺してしまうのは不況を買うのではないでしょうか』という私の言葉を聞き入れてくれて一安心です。
天使様を逃がしたことについては私とラビス様はお叱りを受け、機嫌が悪そうにしていましたが、街が見えてくるとお嬢様もほっとしておられるようでした。やはり野盗に襲われるという経験は心の負担になっていたのでしょう。
私も心からほっとしています。命を救ってくださった天使様に感謝を……。
「モフミミ※※※※!」
なんでしょうか……。街の入り口で何やら騒ぎが起きているようです。……というかこの声は天子様ではありませんか!
まさか普通にお嬢様が帰る予定の街の門の列に天使様が並んでいると誰が思うことでしょう。恐らく並んでいる方々もどうしていいか分からず声もかけられなかったのではないでしょうか。
「あーーーー!いたわ!天使!天使よ!」
お嬢様も気づかれたようです。ですが、『様』をつけてください、『様』を。天使様を呼び捨てにするなんて何と恐れ多いことでしょう。
その時です。
「きゃあああああああ!」
「うわあああああああ!」
天からまるで雷のような音が声が周りに響き渡りました。耳がちょっと痛いです。確かにこの音の大きさはたまりませんね。
人々はこの地獄の蓋が開いたような音の嵐に恐れ、怯え、耳を塞いでいます。
ですがなんでしょう……。このドゥンドゥンという重低音は。キュラキュラとした聞いたこともない高い音の奏でる旋律は……。
なぜか体が音に合わせて揺れてきます。『音の嵐』と言いましたが、騒音と言える音量の中に一定のリズムが存在していますね。恐ろしい悪魔のような旋律なのになぜこんなに心がワクワクするのでしょうか。
天使様を見ると髪をふりまわして音に乗っています。素晴らしい頭の振り回し方ですが、あれにはどのような意味があるのでしょうか。もし、次があれば私もやってみたいかもしれません。
しばらくすると音がやみました。あらためて見ると天使さまが獣のような耳と尻尾をした少女の前に立ってなにかおっしゃられてます。
そもそもあの少女は何なのでしょう。あのような耳と尻尾を持った人間は初めて見ました。他種族のことについては私は余り詳しくないので分からないのです。
「あなたたち!何があったのか説明しなさい!」
音の嵐から解放されたお嬢様が門番の方に詰め寄っておりました。
「エ、エキドナ様!?」
門番の方が急いで敬礼をされてます。この町では門番や衛兵などは権力を持つ貴族や準貴族、その関係者の方々がされており、平民の皆様に対して好き放題に悪事をされていると聞き及んでおります。
ですがお嬢様はここの領主さまのご令嬢。そんな彼らでも逆らうことなど出来ないのでしょう。
「それが……その……」
しどろもどろになりがら彼らが話したことによると獣人族という種族の少女が街に入る通行料を払う際トラブルになり、天使様が彼女を庇うために音を出したとのことです。
ですがトラブルの内容を話さないところが貴族様らしいですね。私には門番の方が天使様を殴ろうとしたのを見ておりましたよ。
そしてそれを獣人族の少女が身を挺して庇おうとなされているようにも見えました。種族は違いますが、自分の身を顧みず誰かを庇おうとする彼女は美しい心を持っているのでしょう。天使様の側に立てないこの身を恥ずかしく思います。
「まぁいいわ。じゃあ天使様と……そうね、その子も一緒に私の屋敷まで招待するわ。連れてきなさい」
お嬢様が天使様に『様』をつけました。あの力が恐ろしくなったのでしょう。
「……は?」
「聞こえなかったの!?その二人を私の屋敷まで連れてきなさい!丁重にね!」
「わ、分かりました!」
門番の方に捕まえられて一瞬抵抗する素振りを見せた天使様ですが、獣人族の少女に人の手が伸びたのを見て抵抗をやめたようです。
天使様一人だけならば以前のように逃げることは容易でしょうに……。お嬢様の『招待』という言葉を本当に信じてよろしいのでしょうか。酷いことをされないといいのですが……。
こうして天使様と獣人族の少女、モフミミというお名前なのでしょうか?天使様とモフミミ様はお屋敷へと連れ去られてしまったのでございます。
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