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第7話 モフミミとの出会い

 吾輩は天使である。名前はまだない。


 こんにちは私です。名前はまだないんですが、今のところ名前を必要としていません。なぜならば……それ以前に言葉が通じないからだよ!


 でも言葉なんかなくても魂で語り合えば分かり合えるよね。でも殴り合いという肉体言語で語り合うことはないように願いたい。

 

 さて、街と言ったけれど規模的には城塞都市といった方が正しいかもしれない。

 町の回りに高い壁がぐるりとそびえ立っている。地上に降りちゃったから向こう側は見えないけどたぶん反対側にも壁があるんだと思う。


 門には鎧を来た門番っぽい人もいるし、さすがにあの中までは誘拐団も盗賊団も追ってこないでしょう。身を守るためにも街の中に行くっきゃないよね。


 門からは二十人ほど行列が出来てるからそこに並べばいいのかな?いいよね。でも私みたいに翼を生やしてる人が一人もいないんだけど……。


 あ!でもモフミミ発見!列の中に獣の耳(猫かな?)にお尻から尻尾(猫のしっぽ?)が生えてる私くらいの背格好の女の子がいる!

 

 あの子はモフミミと名付けよう。耳がもふもふしてそうだからモフミミ。足は裸足だね。私も裸足だからお揃いだ!


 なんだなんだ。人間以外もいるんじゃない。天使がいたって別にいいよね。よし、私も中に入れてもらおう。


「後ろ失礼しまーす」


 一声かけて列の最後尾に並ぶ。

 

 ん?何かじろじろ見られてるような……。裸足だからかな?確かに私もモフミミの足は裸足だからそれを見て怪我とかしないか気になって仕方ない。


 でも私の場合はこのままで全然苦にならないのよね……。痛くないし、汚れないし、怪我もしない。不思議だ……。まぁ天使だから?


 私には相変わらず人々の視線と囁き声(何を言っているか分からないけど)に晒されつつも列は進んでいく。話しかけても言葉が分からないし。


「あれ?町に入る人が門番さんに何か渡してない?」


 目を凝らして前方を見てみる。うん、やっぱり渡してる!金属片みたいなものを渡してるよ。あれはお金?お金取るの?入場料?テーマパークか何かなの?この街は。


「どうしよう……前世の通貨でもいいかな」


 鉄っぽい金属を二枚渡してるみたいだから百円玉二枚で行けるかなぁ?行けたらいいなー。


 想い出箱から百円玉を二枚取り出す。もしこれでダメなら塀の外に実家を出してそこで暮らそう。それで誘拐団が来たら門番さんに何とかしてもらおう、そうしよう。


「※※※※※※!」


 そんなことを思いつつ順番を待っていると前方から大きな声が聞こえてきた。


 門番さんの声だ。見るとモフミミの順番のようで金属の硬貨のようなものを渡してるんだけど、モフミミの場合はそれだけでは終わらかったみたいだ。

 門番がモフミミの手に持ってた袋の中まで漁り出している。

 

 手荷物検査かな?でもさっきまではそんなことやってなかったよね?どういうことだろう。モフミミの袋の中から出てきたのは青い木の実だった。ブルーベリーかな?私的にはそれの味が気になるところ……甘いのかな?美味しいのかな?


 そんなことを思ってる間に門番は取り出した木の実を大きな口でペロリと一口で食べてしまった。


「え、あれってあの子が採ってきた木の実じゃないの?」


 モフミミくらいの小さな子供だったらお腹いっぱいになるくらいの量はあったと思うんだけど巨漢の門番は一口だった。


 どういうことだろうと思い、モフミミを見ると悲しそうに両手で服を掴んで俯いていた。


「※※※※※※!」

「※※※※※※!?」


 今度は門番がモフミミの首に下がっていた木彫りのネックレスを取り上げた。さすがにそれにはモフミミも抗議の声を上げたようだ。手を伸ばして取り返そうとしているけれど身長が全然足りないので門番からは取り替えそうにない。


「は?何あれ?ふざけてんの!?」


 窃盗?門番が?ふざけんじゃないわよ!周りの人たちも何も文句言わないし助けようとしないとか信じられないんだけど!


 そんなことを考えるなら私が何とかしろって?私はもう門番の前にきちゃってるけど?殴り飛ばしてもいいけど取り合えず穏便に行こうかな。


「※※※※!?」


 突然現れた私に驚いている門番に向かって私は思い出箱(メモリーボックス)を使用する。


「いでよ!私の音源!」


 取り出すのは私が昔に朝の目覚まし代わりにセットしてたお気に入りのデスメタルバンドの曲だ。それも私の好きだったゴリゴリのリズムで強烈に押し通すやつ。


 間違えて音量最大にしてたらご近所さんから苦情が来て私の部屋が防音仕様になってしまった曰くつきの曲だ。あの時ほんとすみませんでしたご近所さん。


 ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!♪


 でも今回は音量最大にしちゃえ!もはや何を言っているか分からないデスボイスと騒音ともいえる強烈な音の嵐……いい!いいね!脳が震えるよ!うおおおおおおおおお!


 ついついヘドバンしてしまい、曲を一曲聞き終わったころには門番が倒れていた。そしてモフミミも周りの人たちも倒れていた!


「だ、大丈夫!?モフミミ!?」


 くっ……いったい誰がこんな酷いことを……。あ、大丈夫っぽい。一人で立ち上がったし。さて、門番からもペンダントを回収っと。


 「ほら、もう取られないようにね」


 モフミミの首にペンダントをつけなおしてあげる。


「※※※※」


 モフミミが大事そうにペンダントを両手で握りしめながら何か言ってるけど残念ながら何を言ってるか分からないのよねぇ。


「※※※※※※!」


 門番も何か言っているけどこっちはなに言ってるか別に知りたくないなぁ。あ、後ろから同じような格好をした門番2号が出てきた。髭が生えてるから見分けは楽だね。


 髭付ってことは上司かな?髭とか角がついたのは隊長機とか誰かが言ってたしきっと偉い人だと思う。あれは髭上司と呼ぼう。


 髭上司が門番に何か言っている。怒ってるのかな?よしよし怒られろ。子供から食べ物とペンダントを奪うなど言語道断だと。


 あ、門番が何かを髭上司に渡した。髭上司の顔がニヤリと歪んで黒っぽい嫌な感じの雰囲気が増える。うん、これはあれだ。髭上司もグルだ、きっと。


 うーん……ここに来たときから思ってたけど、この黒い雰囲気のあれはなんだろう。モフミミからは一切それを感じないけれどそれ以外の人たち全員から感じる。特に門番が一番嫌な感じだけど。


「何?やる気!?」


 髭上司が警棒をブンブンと振りながら私の方に歩いてくる。うわぁ、あれで殴られたら痛そう。でも後ろにモフミミがいるし逃げるわけにはいかないよね。やんの?こちとら熊より多分強いよ!?


 来るなら来いと言う感じでシャドウボクシングを始める私と警棒を振り上げる髭上司。するとその間に割り込んでくる影があった。


「モフミミ!?」


 両手を広げて私と髭上司の間に立つモフミミ。震えながら私をかばうように髭上司を見上げている。何この子!すっごくいい子なんだけど!


 これはお姉さんも頑張るしかないよね。私のシャドウボクシング歴は長いよ!蛍光灯から垂れ下がった紐相手に何度拳を振り抜いたことか。途中でLEDに変わっちゃって振り抜けなくなっちゃったけど。


「※※※※※※※!」


 そんなやる気になってる私たちだったのだけれど……また別なところから叫び声が聞こえてきて中断された。私も髭上司も声の下方向を見つめる。


 もー、何なの?


 視線の先には豪華な悪趣味馬車。げぇっ、姫様誘拐団だ!よし、髭上司よ、ここは一時停戦しよう。あれはガチ犯罪者だよガチ犯罪者。お仕事の時間ですよ!


「※※※※※※※!」


 誘拐姫が馬車から飛び降りると叫びながら走ってきた。ちょっと!怖いんですけど!


 私のところに来るか、と思っていたら私じゃなく髭上司を指差しながら何やら叫んでいる。髭上司はというと背を丸めて悲しそうな顔。髭も何となくしんなりとしてしまっている。


 おい、さっきまでの迫力はどうした。頑張れ髭上司。その子犯罪者ですよ。捕まえてくださいよ。


「※※※※※※!」


 誘拐姫の言葉に髭上司だけでなく、周りの人たちも私とモフミミににじり寄ってきた。どういうこと?みんなグルなの?これが劇場型犯罪ってやつ?


 私が思わずモフミミの手を掴むとモフミミもぎゅと手を握り返してくる。しかし別の人の手もモフミミをぎゅっと掴んでいた。


 あ、こら!モフミミを掴むな!……って私も捕まえられてるし……。また前みたいに切りもみ大回転で逃げようか……いやいや、モフミミまで吹き飛んじゃいそうだよそれ。それに……。


「モフミミって家族とかいるの?」

「……?」


 言葉通じないよねー、はい。分かってました。とりあえずモフミミの意思が分からないうちは置いていくわけにいかないよね。

お読みいただきありがとうございます。

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