第39話 ご都合主義だっていいじゃない
私たちの初ライブは大成功をおさめた……と思う、たぶん。
石を投げつけられたときはどうなることかと思ったけれど、曲がはじまってヒゲナシの作っていた光る棒を客席にぶん投げたら曲に合わせてみんな振ってたから大成功だよ、たぶん。たぶんばっかりだね、私。
「※※※※」
モフミミの歌を聴いた人たちが何か知らないけど泣き出したり土下座したりしてたのは良く分からないけど、モフミミの歌で街から嫌な感じが全然なくなった。
なんとだく私だけだったら無くそうと思っても、後から後から出てくる嫌な感じは無くせなかったと思うからモフミミはすごいね。嬉しくなってすごく撫でまわしてモフモフしておいた。ああ、感無量。
「※※※※ーーーーーー!!」
その後アンコールがあったかどうか言葉が分からないから知らないけれど、なんか盛り上がって別の歌も歌ったり、ダンスメイドの過激なダンスが飛び出したりと大いに初ライブを楽しんむことが出来た。
そしてその後私たちはみんなで我が家へと帰って来てまた日常が始まるのかな……と思ったのだけれど……。
『さよなら』
モフミミがそんな書置きを残して家出してしまいました。なぜだ!
♦
(モフミミ視点)
モフミミの日常が帰ってきた。
モフミミは今日も天使様の『ぱそこん』をいじっている。この箱はすごい。今までモフミミたちがここで演奏した音楽がいつでも聴けるし見ることが出来る。
モフミミは昨日撮った映像を編集したり、加工して保存する作業をしている。いつかこれをみんなに見てもらって笑顔になってくれたらいいなと思う。
「あれ、なんだろうこれ?」
間違えたボタンを押してしまったのか変な画面が出てきてしまった。この『ぱそこん』はボタンを押すとなんか画面の中で動く変な箱だ。最初は分からなかったけれど、ちょっとずつ何をすれば何が出来るのか分かってきた。
でも今の画面は観たことがない。
「ようつーべ?んー?」
よく分からない。壊しちゃったのかな。天使様に怒られる。お肉を減らされちゃう。それは悲しい。モフミミは慌てて別のボタンを押す。
「うっぷろーど?んん?????」
またよく分からないものが出た。でもよく分からないけどたくさんボタンを押して叩いていたら直った。何もしてないのに壊れたけど叩いたら直った。よかったよかった。
「モフミミ※※※※」
「なんでもないよ」
たぶん壊れてない。壊れてないから平気。
♦
───そんな日常が帰ってきたある日
モフミミは里帰りすることにした。別に今の生活に不満があるわけじゃない。やり残していたことをやるために。
あの後、只人族の人たちは今までのことをすごく謝ってくれたし、気持ちの整理が出来たこともある。何よりお父さんやお母さん、村の人たちをあのままにしておきたくない。
怖くて逃げだしちゃったけどちゃんと弔ってあげないといけないと思う。
「いってきます」
だからモフミミは畑からシャベルを借りると『ちょっと出かけてきます』という意味の天使様語でメッセージを残して森を歩いている。
いっぱい勉強して覚えた字だからモフミミも成長したんだと天使様もおどろいていると思う。ダンスメイドたちも来たがったけどこれはモフミミの問題から遠慮した。
森には魔物がいなくなったからモフミミだけで歩いても全然平気だ。きっと只人族から瘴気が漏れなくなったからだろうと思う。
しばらく歩くと懐かしい景色が見えてきた。思わず目頭が熱くなるけど、ごしごしと目をこすって我慢する。
「ただいま!」
村の入り口で声をかけるけれど、もちろん返事する人は誰もいない。そこにあるのは焼け落ちた家とか亡くなった村人たちとかだけだから。
返事がないことに混みあがってきた思いをぐっと耐えて、モフミミは以前住んでいた家を目指す。
……あった。モフミミの……お父さんとお母さんの家だ。焼けずに残っている。中を見ると荒れてはいるけれど、以前のままだ。もちろんお父さんとお母さんはいない。当然だ。外で魔物に襲われて死んじゃうところを見てたのだから。
「こっちのほう……」
記憶を頼りにその場所を探し……いた!見つけることが出来た……。お父さんとお母さん!何かから逃げるように遺体が重なるように倒れている。
「お……お母さ……」
胸が苦しい。痛い……。謝りたい。言うこと聞かなくてごめんなさいって……。叱って欲しい。いつものように。
胸がいっぱいになってもう……もう駄目……泣く。
「うああああああああああああん!」
モフミミは声を張り上げて泣いてた。この村をから逃げだしてから初めて泣いた。泣きだしたら止まらなかった。涙があとからあとから出てきて止まらない。
いつまで泣いていたのだろう。ずっとずっと声を上げて泣いていると……。
「モフミミ!」
苦しくて辛くって胸がいっぱいになったその時、天使様が空から降ってきた。天使様はいつも苦しい時にモフミミのところに来てくれる。
♦
「天使聴!!」
説明しよう!
エンジェルイヤーとは天使の聴力を爆発的に増大させ、半径は100㎞以内の可愛いモフ耳の女の子の声を聞き取る能力である……ってそんな能力ないない。ふざけて叫んでるだけです。
「どこいったのよー!」
モフミミが家出したので空から捜索している保護者です。モフミミなんで出て行ったの。やっぱりお肉?お肉が足りなかった?育ち盛りだものね。見つかったらたくさんお肉を食べさせてあげるから出ておいで。鳥の唐揚げを作ってあげよう。それとも和牛ステーキ?さらに牛豚鳥全部乗っけた他人丼を作ってあげるから出てきてー。
「モフミミー!」
それにしても上空から見ると良くわかる。
森から嫌な感じが無くなったね。なんでか分からないけど良いことだ。あとはモフミミを見つければミッションコンプリートだよ。早くモフミミを見つけてお肉が少なかったことを謝って家に帰ろう。
「むっ……この気配は……」
エンジェルイヤーが本当に反応したのかどうか分からないけどあっちの方にモフミミがいるような気がする!何となく!知らんけど!
そんな気がして降り立った場所にモフミミが……いた!
「うーん?」
なんか廃村っていう感じの場所だね。モフミミは廃墟マニアとかそういう感じなのかな……。私はそういう趣味がないからよく分からないんだよね。廃墟のどこがいいんだろう。別に人の趣味にケチをつけるつもりはないよ。ただ理解できないだけでそういう趣味もあっていいと思う。
でも家に廃墟を作るのはちょっと嫌かなぁ。うーん……。
あれ……よく見るとなんかモフミミが泣いてるんだけど……。
「モフミミ!」
私は慌てて駆け寄ってモフミミを抱きしめた。
「あああああああああああん」
どうしたんだろう。モフミミが泣き続けている。なにごと?また誰かにいじめられたの?お母さんはモフミミを泣かす人を許しませんよ。
「あれ……?これって……」
モフミミの手にはシャベルが握られていた。
そして目の前には……人が倒れている。ピクリともしない……。え?遺体?遺体だ……。
そこには二人分の遺体が横たわっていた。もしかしてモフミミの両親……?ここってモフミミが住んでいた村だったりして……?
周りを見ると焼け落ちた家屋とか倒れている遺体だらけで人の気配がない。モフミミがシャベルを持っていることを考えると……埋葬しようと思ってここに来たのかな……?
目の前の遺体を見る。『どうもお父さん、お母さん。モフミミさんにはいつもお世話になっております』なんて言える雰囲気じゃないよね。うん、ごめん、ふざけてた。この世界に来てから私ってめっちゃふざけてたね。
モフミミは家がこんなになっているのに頑張っていたっていうのにね。ごめん、モフミミ。
「一緒に埋葬しよっか」
「……」
モフミミが頷いてくれたので一緒に穴を掘ることにする。私も想い出箱からシャベルを取り出して穴を掘っては遺体を横たえて土をかけていく。
「んしょんしょ……」
村の中の遺体をすべて埋葬するころには夕方になっていた。天使の謎パワーがなかったら何日かかった分からない。モフミミは一人でやるつもりだったんだよね。すごい子だ。
墓石の代わりに大きめの庭石を置く。その前にモフミミと二人で膝をついた。
「モフミミのお父さん、お母さん。ご冥福をお祈りします」
「……」
手を組んで祈りを捧げるとモフミミも私を真似ていた。この世界の宗教がどうなのかは知らないけれど、追悼っていうのは心の中での対話だからね。どんな形でも構わないと私は思う。
目を閉じてモフミミのご両親に心の中でモフミミのことを報告する。
モフミミがどんなに頑張っていたのか、モフミミがどんなにいい子だったのか。最近のモフミミの話。一緒にお風呂に入ったこと、歌を一緒に歌ったこと。
そんなことを報告する中でふと思う。私は何のためにこの世界に来たのかと。確かに私はちょっと能天気でふざけた態度立ったと思うけど……。なんでこんな酷いことになっているんだろう。
ねぇ、なんでここに連れてきたのか知らないけれどさ。こんなことってないんじゃない?ねぇ、神様さ?
「こんなことってないんじゃない!?」
モフミミはこんな健気でいい子なのにこんな仕打ちってあんまりじゃない?私に不思議な力を与えている暇があるのならなんでこの子を救ってあげなかったのよ。
悲劇なんて私の趣味じゃない。
もう!ご都合主義だってなんだっていいじゃない!神様がいるのなら、私が天使だって言うのならこんな悲劇なかったことにしてよ!
私は祈る。
謎パワーがあるのに何もできないこの身が悔しい。
私は祈る。
翼が……体が……全身が熱くなる。それでも私は目をつむって祈る。モフミミが幸せな世界になりますように……と。
───その瞬間
体がふわりと軽くなって目を開ける。
村中に白い羽根が舞っていた。私の羽根?横を見るとモフミミが目を見開いて私を見ている。
ああ、やっぱりモフミミは可愛いなぁ、モフモフしたいなぁ、そんなふざけたことを考えていると意識がそこで無くなった。
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