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第4話 私は誰

 謎のアレに森の中に飛ばされて3日がたった。太陽が3回目に天に上ってるからたぶんそのはずだ。


 遭難した場合動かないのが原則だからね。アレから何かお知らせがあるかもしれないし、私は最初の場所でずっと待っていたのよ。結局なにもなかったけれど。


 その間にいろいろ実験して分かったことがある。あのアイテムボックスっぼいものはやっぱりアイテムボックスじゃなかった。


 何故かというと物体(アイテム)以外も中から取り出せたから。具体的になにかというと『音』も取り出せた。


 私のこれまで鳴らしたり聞いたり演奏したりした音や曲や歌なんかも取り出せてしまった。


 おかげで深い森の中での音楽鑑賞というものをしてしまったけれど、なかなか趣があってよかったよ。


 その他にも熱や冷気、光なんかも取り出せたけどその辺りは使い道が分からないから無駄機能かな。


 これで収納箱(アイテムボックス)じゃなくて想い出箱(メモリーボックス)というのは確定かも?その辺りの石ころも記憶したら中から複製されて出てきたし。


 ちなみに中をすみからすみまで探してみたけど家族は入ってなかった。まぁ入ってても困るけどね。家族との想い出は私の中に最初からあるから困らない。


 ちなみにこの3日間、一睡もしていないし、トイレにも行ってないし、食事もとっていない。


「これは完全に人間やめちゃった系だなぁ……」


 天使ですがなにか?


 と言うことで救助は来ないとみていいと思う。このまま想い出に囲まれて過ごしても天国っぽくていいかもしれないけど……気になるよね、やっぱり。

 この世界がどうなっているのか。


「さあ!いってみよう!」


 私は右手を突き上げると森の中を一歩一歩進んでいく。

 飛んで行ってもいいけど見落としがあるかもしれないし、ゆっくり鼻唄でも歌いながら冒険してみよう。


「♪ふんふんふふふんふ~」


 こんな時、誰もが歌いたくなるだろう世界中で売れたスキヤキの歌を鼻唄で奏でながらのんびり歩いていると……。


「※※※※※※※※※※※※※!?」

「※※※※※※※※※※※※※!」


 遠くから何かが聞こえてきた。


 人の声なのか獣の鳴き声なのかまでは判別できないのでソロソロと少しずつ声のする場所に近づいてみる。

 

 森の切れ目に出た。左右を見ると切り目が続いているのでこれは道なのだろう。轍のような跡もある。


「※※※※※※※※※※※※※!」


 叫び声だ。

 私の頭で流れていたスキヤキソングがサスペンスドラマの曲に変わってしまった。事件はどこでおきているの!


 ということで、木に隠れつつ近づいてみる。


 私が元の世界の熊より強いとしてもこの森の生物は熊の2倍強いかもしれないからね。

 

 こそこそと近づくと人影が見えてきた。良かった、人の姿をしている。火星人みたいな知的生命体じゃなくて本当によかった。正直人間がいるのかどうかも心配だったからね。


 人影は5つ。まずは汚い恰好をした痩せた男たちが4人。身長は私よりずいぶんと大きい。180cm前後かな。


 その前方には派手な装飾を施した馬車が止まっている。金色とか銀色……金と銀かな?華美な装飾で私の感想としては成金が乗ってそうな馬車という感じね。


 その馬車を男たちが手に刃物を持って囲んでいた。

 これはあれかしら?盗賊?野盗?強盗?馬車の車輪に木の棒が突っ込まれて動けなくさせられてる。

 なんか男たちから黒っぽいような気配……嫌な感じがする。この森と同じような嫌な感じだ。


 彼らの前には若いメイドさんがいるわね。あら可愛い。

 あの子からは嫌な感じがしない。栗色の髪のおさげ頭の上に可愛らしいホワイトプリムが乗ってる。歳は中学生くらいかな?あの子が襲われてるのかな?


(うーん……困ってるなら見捨てられないけど……今のところどっちが悪者かも分からないし殺したりするのは絶対嫌だな……)


 私は足元に落ちてた石ころを拾い上げる。これを投げてぶつけてみようか。でもあの不幸な自然破壊のようなことが人に起きたら大惨事だし……。


(そーっと。そーっとね……)


 アンダースローでなるべくゆっくり投げると意外とすごい勢いで男のみぞおちに命中した。おお!当たった!泡を吹いて倒れてる。

 

 やったね。さすが私。中学の時ソフトボール部仮入部の実力を見たか!結局部活には入らずに帰宅部になって楽器演奏してばかりだったけれどね。


 残り三人も石ころ三発でノックアウト成功。よかったよかった。もう近づいてもいいかな?いいよね?


「あのー……こんにちはー。いいお天気ですね」


 何を話していいか分からないからとりあえず天気の話でもして友好的に挨拶してみよう。


「……」


 メイドちゃんは石化でもしちゃったのか、こっちを見たまま固まっている。大丈夫?大丈夫じゃない?怖かったの?どっちなんだい?

 

 うーん、駄目っぽい。返事が来ない。じゃあ馬車の方に話しかけてみようかな。


「もしもーし」


 誰も出てこない。


「えーっと。大丈夫ですよー?私悪い人違いますよー?なにもしませんよー」


 警戒を解かないといけないのになんか逆に悪い人が言いそうなセリフになってしまった。


 あ、そうだ!私名前を言ってない。そうか、自己紹介大事だね。


「私の名前は……え……?」


 あれ?なんだっけ。思い出せない。どうして?あ、この現象聞いたことがある気がする。あれだよね、そう!ゲシュタルト崩壊!そうそういつも使ってる言葉に違和感が出ちゃって思い出せなくなるやつ。!

 

 そんなどうでもいい思い出す必要もないことは思い出したのに、自分の名前が出てこない。なぜに。

 

 私のゲシュタルトが崩壊してしまったからかな?おのれ……ゲシュタルトめ……。そもそもゲシュタルトってなに?人の名前なの?ゲシュタルト伯爵?サンドウィッチ伯爵的な人?


 うーん、悩んでても仕方ないよね。


 あ、馬車の扉が空いた……。とりあえず目の前の人たちとコミュニケーションをとらねば……と思ったら中から声が聞こえる。


「※※※※」


 ん?何か言ってるけど……これって……。んん?


「※※※※※※」


 女性の声だよね、これ……。メイドちゃんと喋ってるの?でも……まさか……これもデジャブなんですけど……。


「※※※※※※※」


 言っていることが分からないんですけど!


 遠くて聞き取れないだけだと思ってたけど私の母国語じゃないんですけど!

 

 自慢じゃないけど私1か国語しか話せないよ!大阪弁とか博多弁さえ話せないし!オンリーワンだよ!

 こういう場合翻訳スキルとかつけてくれるんじゃないの?神様的なアレ様!やっぱりこの背中の翼いらないから翻訳スキルプリーズ!


「※※※※」


 馬車のなかから鎧を来た女の人が出てきた。うわー……刃物持ってるぅ……。刃渡り1メートル以上ありそう……。完全に銃刀法違反だよね、それ。

 怖い怖い怖い!


「あのー私は敵じゃないのでそれしまってください……」


 鎧の人は私……ではなく私の横に転がってる男たちを睨み付けると剣を降りかぶった。え、殺すの!?嘘でしょ!


「ちょっ!やめっ!」


 反射的に間に男たちの前に割り込むと女の人の剣が私の眉間スレスレに止まった。ひぇぇ、寸止めだよ……。お見事……なんて考えてる場合じゃないよね。

 なんなのこの寸止め侍は。

 

 もう倒れてるのに殺そうとするとか野蛮じゃない?それともそれがこの世界の普通なのかな?


「※※※※※※※」

「すみません。ちょっとなに言ってるか分からないです」


 なんかいろいろ言ってるみたいだけれど分からないので首を振っていると、諦めたのか倒れている男たちを縛り始めた。よかった、スプラッタを見なくてすんだよ。


「※※※※※※※」


 ほっとひと安心してると寸止め侍に両手を捕まれた。なぜ?どゆこと?


「えっ!?なに!?」


「※※※※※※」


 馬車の方向を見るといつの間にか派手ななドレスを来た女の子が出てきて私を指差してる。姫だ!たぶん姫的な権力のありそうな赤髪ドリルヘアー!


 そして何か彼女から嫌な感じがする。鎧の寸止め侍も何か黒いモヤモヤした嫌な感じだけどそれ以上に嫌な感じだ。

 おさげのメイドちゃんからは嫌な感じがしないけどこれって……。


「わあーー!人さらい!拉致監禁!」


 私を力づくで馬車に押し込もうとしている!これは拉致しようとしてるに違いない。これは逃げるしかないでしょ!


 私の頭の中で流れてる曲がサスペンスな曲からバイオレンス曲に変わっちゃったよ!

 私は飛行能力を発動!飛び上がりながら高速回転して腕を振りほどいた。


「逃げろーーーーー!」


 そのまま30分ほど直線で空を飛んで逃げると後ろを振り返る。良かった追ってきてないようだ。いやぁ、私が天使で助かったね。飛行能力って結構便利!


 これはあれね。


 彼女たちは『盗賊に襲われるお姫様』じゃなかったのよ。あれは誘拐団だったんだ。姫様誘拐団の誘拐姫とその仲間たち。


 もぅー手を出すんじゃなかったわ。

 あれは『コブラ vs マングース』的な戦い……『誘拐団 vs 盗賊団』の縄張り争い的な何かだったのに違いない。いやぁ、騙されちゃったわ。悪者同士勝手に戦ってて欲しいものだよね、本当に。


 そんなことより……。


「私の名前は……?」


 それが重要だよ。名前!私の名前!

 うーん、やっぱり思い出せない。あの場でパニックになってたからじゃないようだ。

 うーん、うーん。唸ってみるけどこれは『ど忘れ』とかもうちょっとで思い出すとかじゃなく完全に思い出せないやつだ。


「あ!そうだ!」


 私には実家が丸ごとあるじゃないの!

 

 私の思い出箱(メモリーボックス)の中に!!その中には私のスマートフォンもパソコンもメモ帳も卒業アルバムも何でもござれで入ってるはず!それを思いだすとはさすが私!冴えてる!


「さぁ!いでよ想い出箱!」


 ジャジャーンと思い出箱から効果音付きで取り出したのは私のスマートフォン。これには本名で登録してたからね。さぁ、私のお名前は?ダダダダダダンとドラムの音も取り出して勝手に盛り上げてみる。いいね、この能力はお気に入りだよ。神様的なアレ様ありがとうね。


「さぁ、御対面!」


 ダン!とひと際大きな音と一緒にボタンをポチっと押すと……。あれ……。名前欄が空白なんですけど……。何これエラー?どういうこと!?これはサポートセンターに電話しなきゃ!


『お客様のおかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません』


 うるさいよ!分かってたよ!電話つながるわけないよね!試しにパソコンも起動してみるけどネットワークに繋がらない。元々保存してたデータはそのまま使えるけれど……。


「やっぱりどこにも名前がない……」


 設定欄や住所録、卒業アルバムに至るまで私の名前は見つからなかった。


 神様的なアレ様よ……。これはいったいどういうことだい?

 私との会話や私の見事なジェスチャーも通じてなくて、あまり考えなしに能力くれたところから結構いい加減でザルなところのある神様的な存在だしなぁ……。


「どこかに抜け道的なものがあるかも知れないけど……」


 うーん、やっぱり見つからない。

 まぁ死んじゃったんだから普通は記憶全部失って転生すると考えれば名前がないのが普通なのかな。私の記憶の中は家族が笑ってるいい思い出ばかりなんだから……。

 

 別に名前がなくなっても前の私は幸せだったんだね……。うん、それでいっか。

 

 私は新しい私として新たに生きていくのだ。そう、私の旅はこれからだ!


「っということで……次の目的地も見つかったゃったのよねー」


 一人で自問自答しながら全力で空を逃げたおかげで森の外に町らしきものを見つけてしまった私。


 そう。森を抜けた目の前には建物がたくさん立っている街っぽいものが見えているんだよ。


 これは行って見るしかないでしょ。新しい私も前の私のように楽しいことを一杯探して生きていきたいし!


 あんなことがあった後だけど、細かいことを考えても仕方ないよ!よし!私は町へと向けて一歩踏み出すのだ!


お読みいただきありがとうございます。

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