第35話 モフミミ①(モフミミ視点)
夜中、モフミミが目を覚ますとベッドの上には天使様しかいなかった。
いつもはダンスメイドとギターマンとヒゲナシも同じベッドで寝ているのに何でいないんだろう。
モフミミはベットの上の天使様を見る。モフミミにモフミミって名前をくれた天使様。恩人ですごい人だけど涎を垂らして寝ているところを見ると本当にアホっぽい。
「喉乾いた」
クスッと笑うと部屋を出る。
台所で水を飲もうと思って階段を下りていくと明りがついていた。ダンスメイドたちかな。何を話しているんだろうと台所の引き戸に手をかけようとしたところ……。
「獣人族の国は既に滅びているらしい……」
ヒゲナシの言葉だった。
その驚愕の事実にモフミミは……。
驚かなかった。
そう……。モフミミは知ってたよ。
思い出さないようにしてただけ。お母さんもお父さんももういないってこと。
「じゃあモフミミちゃんは……獣人族もう滅んだって言うの……?」
ダンスメイドの言うとおりだよ。
「じゃあもうこれから獣人族が生まれてくることは……」
ギターマンの言うとおりだよ。モフミミが最後の一人だって知っているよ。
だってモフミミは全部見てたから。それはモフミミがまだモフミミじゃなかった時の話。モフミミが《《私》》だった時の話。
♦
私が生まれた村は小さいけど流れ森の恵みが豊かで、村人もみんな温厚で優しく、飢えたり誰かと争ったりすることもないのんびりとした村だった。
「ジブリール、この世界は大天使様が作られたの、この森も土も空もぜーんぶ。もちろん私たちもよ。只人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族。4つの種族が作られてみんなかよく暮らしていたの」
ジブリール。それが私の名前。
お母さんが神話の話をしてくれるのは何度目だろうか。何度も聞いたのだけれど私はお母さんのそのお話が好きで何度も話してくれるようにねだっていた。そんな話の中の一つ創世の神話の話だった。
「でもね、その時一匹の黒蛇が現れてこういったの『もっともっと幸せになりたくないかい?賢くなりたくないかい?』って」
お母さんが下を蛇みたいにペロペロ出していうものだからおかしくって笑ってしまう。綺麗なお母さんがそんな顔をするととても面白く見えてしまう。
「その誘惑に3つの種族は断ったわ。今のままで十分幸せだって。森があって山があって空があって仲良く暮らしているんだから別に今のままでいいよって。でも只人族だけは違ったの。只人族はもっと幸せになりたいって蛇の誘惑に乗ってしまったの」
お母さんは悲しそうな顔をする。そんなお母さんの顔を見て私もちょっと悲しくなってしまう。
「蛇は只人族に赤い大きな木の実を与えたわ、『これは知恵の果実。とっても甘くて美味しくてもっともっと頭が良くなって幸せになれるよ』と言いながら。そして只人族はその実を食べてしまったの。それから只人族は変わってしまった。何でも自分が1番じゃないと気がすまなくなってしまったの」
「自分が一番?」
「そうよ。自分の持っていないものを相手が持っていると欲しくなったり、嫉妬したり、たいしてお腹が空いていないのにもっともっと食べたくなったりね。そう、只人族はおかしくなってしまったの。只人族に木の実を与えた悪魔のせいでね」
「悪魔怖い!」
「そうね。怖い悪魔は優しい蛇のふりをして只人族を堕落させてしまったの。そんな只人族たちの邪気が瘴気となって世界に浸透してしまった。でもね、ジブリール。自分が嫌なことをされたからと言って自分まで嫌な人になってはダメよ」
「なんで?嫌なことをされたらやり返したい」
「そんなことをしたらあなたまで魔物を一緒になってしまうわ。いい?どんなに辛い目にあっても挫けそうになっても相手を貶めるのではなく、自分が幸せになることでやり返せばいいのよ」
「そうなの?」
「ちゃんとお母さんの言うことを守らないと森にいるこわーい魔物に食べられちゃうからね」
魔物。それは私たちの命を脅かす存在。
村の中は『けっけい』っていうなんか光る膜で覆われてるから入ってこないけど、外のくらい森の中には怖い魔物がたくさんいるらしい。
「だから森の中には一人で入っちゃだめよ。分かった?ジブリール」
「うん!分かった!」
「ふふっ、ジブリールはいい子ね」
でも私はちっともいい子なんかじゃなかった。
私が6歳になった頃、森の中でも素早く動けるようになっていたから……。調子に乗って私は森の中に入って木の実や時には角うさぎを捕まえるようになっていた。
「ジブリール!一人で森に入ってはいけないと何度言ったら分かるの!」
その度にお母さんに怒られていたのに美味しいものを手に入れてみんなで食べることが出来るし、危ないことにあったこともないからいいじゃない。そんな風に思っていた。
───でもそんなある日
その日も私はお母さんとお父さんの目を盗んでまた森の中に入っていた。木の実もたくさんとれたし、角うさぎ追いかけていて少し森の奥の方まで入ってしまっていたと思う。
両手いっぱいに食べ物を手に入れて、いつの間にか日が傾いていて、私は慌てて村へと帰ろうとした。でもそこで異常に気付いた。
「あれ……光ってない」
村を覆っているはずの光の膜が無くなっていた。それに暗くて嫌な気配が村の方からする。まるで森の中みたいな気配だった。
「お母さん……お父さん!」
そこから感じる暗い気配がすごく怖かったけど私は恐る恐る村に近づいた。そして木陰から中を覗いてみる。
「ひっ!?」
魔物がいた。
それも1匹や2匹じゃない。大きな熊のような魔物や、狼みたいな魔物、鳥や馬、それらが赤い瞳をして村中を襲っていた。
火を使った料理中に襲われたからか村のあちこちから火が出ているし、そこら中に村の人たちが倒れている。
その中に……お父さんとお母さんもいた。
「お……」
思わず呼びそうになってあわてて口を塞ぐ。もうお父さんもお母さんも死んでいたのが分かったから……ピクリとも動いていなかったから……。
怖い……。
次は私が食べられてしまうと思った。だから私は走り出した。
これは罰だ。
後ろは振り返らない。
きっと私が言うことを聞かない悪い子だから神様が私に罰を与えたんだ。
後ろは振り返らない。
お母さんの言うことを聞かなかったから。
後ろは振り返らない。
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