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第33話 ヒゲナシ③(ヒゲナシ視点)

「結界捜索隊にいたウリエンだ。遅くなったが帰ってきた。通してくれ」

「待て!だれだお前は!捜索隊?そもそもお前も後ろの者たちもドワーフではないだろう!」


 天使様たちの協力もあり、恐ろしい目にもあったが何とか落下することもなく戻ってきた俺たちは国の門で止められていた。


「俺はドワーフだ!結界捜索に出たウリエンだ!」

「何を馬鹿な。結界捜索隊は全員立派な髭を生やしたドワーフだった。一人を除いて全員もう戻ってきている。行方不明になった一人も当然髭が生えていた。騙せるとでも思っているのか」


 そうか……慣れてしまったが今の俺に髭が生えていなかったのだった……。

 しかしこいつらにそんなことを話したら……話すしかないのか……。俺は苦渋に耐えながら声を絞り出す。


「……髭は剃った」

「は?」


 くっ……門番から信じられないというような目で見られている。

 俺もドワーフだからその気持ちは分かるぞ。ドワーフが髭をすべて剃るなんてありえない。

 ありえないことなんだが、あれから結構時間が経過したのに髭は一向に生えてこないのだ。髪は少し伸びてきたので問題はないが、どうしたことか髭が生えてこない。

 分からん……天使様から頂いた洗礼名とかが関係しているとかか?いや、そんなはずはない。『ひげなし』なる立派な名前がそんなことを意味しているわけがない。


「……髭を剃ったといったのか?お前は本当にウリエン?だったら俺の名前を言えるか?」

「お前はパウエルだろ。鍛冶師の父親の作業中に手を出して右手に猫の目のような火傷がある。これで俺がわかったか?猫目のパウエル」


 俺の言葉にパウエルが右手の手袋を外して見せつけてくる。


「お前……本当にウリエンなのか?本当に?髭は剃ったのか?」

「だからそう言っているだろう」

「……ぷっ。ぎゃはははははははは!なんでそんなトゥルントルゥンの卵みたな顔になっているんだよ!」

「え?マジ?こいつ本当にウリエンなのか?おーーーい!みんなウリエンが帰ってきたぞー!ぷははははははははは」


 こいつらが叫んだおかげで人がわらわらと集まってきた。やめろ、くそっ。見るんじゃねえ。


「ぎゃははははははは。なんだその顔!」

「ウリエン。無事でよか……ぷぎゃーーーーはっはっは!」

「えー?マジウリエン!?ぷはははははは。髭が無くて許されるのは幼児までだよなー!」


 こ、こいつら……。ここぞとばかり笑いやがって……。


「くしゅんっ!」


 天使様がくしゃみをした。

 俺を笑っていたやつらも天使様がくしゃみをしたとたんシーンと黙り込む。

 

 それはそうだろう。髭のない俺に注目していて気付いてなかったかもしれないが、本物の天使様が後ろにいらしゃるのだから。


「お、おい、ウリエン。後ろの方々はいったい誰なんだ?誰をつれてきたんだ?」

「天使様とその従者の方だ。森の結界は天使様が張られていた。だからここの結界を治してもらうためにお連れしたんだ」

「え……結界を見つけることが出来たのか!?」

「そう言っているだろう。早く宰相様や陛下にご報告をしてくれ」

「わ、分かった!」


 門番の一人が報告のために城へと急いで向かい、我々もそちらに向かうことになる。

 

 城に入り、天使様たちを応接室に通した後、俺も報告のために捜索隊の隊長や陛下の下へ向かった。


「ぷっ……よくぞ戻った。ウリエンよ。先ほど門番より報告は聞いたが結界を張れる者を連れてきたというのは本当か」

「はい。それは……」


 おい、国王。

 気持ちは分かるが真面目な話をするところで笑うんじゃない。宰相や隊長も噴き出すのを我慢しているのか口に手を当てている。

 くそっ!そうだよ!髭がないおもしろドワーフだよ!笑いたければ笑えばいいさ!ちくしょうめ!

 

 それはともかく俺は捜索隊からはぐれた後の経緯を報告する。

 命からがら天使様の住まう結界の中へと迷い込んだこと。天使様たちに助けられたこと。なぜか髭を剃られたこと。ヒゲナシという洗礼名をいただいたこと。天使様たちの住処での出来事。そして天使様たちが結界の修復のためにここまで来てくれたこと。


 逆に俺も陛下たちから不在の間のドワーフ国で調べた様々なことを聞くことが出来た。

 エルフ族の結界が復活し、交流がはじまっていること。只人族から瘴気がますます深まっていること。


 そして獣人族……モフミミについての重要なことを聞かされた。


「そうか。ウリエン……いや、ヒゲナシよ。よくぞ天使様を国にお連れした。しかし、お前の話によると天使様は言葉が通じないのだろう?どうやって話をすればいいのだ?」

「そうですね……天使様は音楽を好みますので歓迎のための楽団は必要でしょう。あとは雰囲気でなんとか……」

「雰囲気ってお前……」

「ここに来られることも身振り手振りなどで分かってくれましたのできっと何とかなります、たぶん」


 モフミミが『天使様はちょっとアホの子』などと言っていたがそんなはずはない。きっと分かってくださっているはずだ。


「天使様と使徒たちをここへ」


 天使様たちが玉座の間に通されることになった。

 当然事前に話をしておいた通り楽団が控え、太鼓や吹奏楽器でファンファーレが奏でられる。

 特に太鼓はこの国では大いなる歴史を持つ楽器であり、これの名手は人間国宝にもなるほどだ。久しぶりに聞いたがドワーフ魂を揺さぶられる立派な演奏だな。


「……」


 天使様も奏者たちの顔を見ながら笑顔になっている。歓迎に楽団を配置したことは成功だったらしい。

 そう思っていたのだけれど……。


「よくぞ来られた天使様。歓迎いたしますぞ。早速じゃが、この国に忍び寄る瘴気を払うために結界を……」


 国王陛下が天使様歓迎の言葉と願いを告げようとしたその時……。


「いでよふぇすすてーじかいじょう!」

 

 天使様の奇妙な召喚魔法により俺の作った舞台が出現した。え、なに?なんで今舞台をだしたんだ?天使様?


「……」


 天使様が期待に満ちた目で俺たちを見てくる。なんだ?どういうことなんだ?おい、ギターマン教えてくれ……目を反らしてんじゃねえ!

 ダンスメイド……も目を合わせてくれないし、モフミミ……笑っている場合なのか?おい。


「ちょっ……天使様……」


 ギュイイイイイイイイイイ!


 俺の止めようとした声は天使様の楽器の音に掻き消えた。

 天様はそのまま練習していた曲を1曲弾き切り、次々と楽器を変えながら演奏を続けていく。なぜか演奏を終えた楽器は弾いてもいないのに音を奏で続け、最後にすべての楽器により曲としての完成した。


「天使様そんなことより結界を……」


ダダダダダダダダン!


「どうした!?楽団!?」


 天使様を見ていた我が国の楽団が何を考えたのか天使様の曲を終えるとともに太鼓を鳴らし始めた。


「素晴らしい演奏じゃ!ならばわしらも最高の音を返さねばなるまい!」


 楽団の指揮者の老人が唾を飛ばしながらそんなことを叫んでいる。おい!ちょっ!やめろ!




♦️




 そのあとはもうめちゃくちゃだった。髪を振り乱しながら演奏を続ける天使様と楽団たち。鳴り響き続ける音、音、音。


 天使様……なんでエビぞりになっているんだ。いい加減にしてくれ……。ああ、天使様!


 俺の祈りが届いたのか。演奏はやがて終了した。


 そして……。


「てっしゅうううううううう!」


 天使様は舞台を楽器を消すと逃げるように入り口から出ていく。モフミミも「てっしゅーーー」とか言っているが意味わかっているのか?結界は?結界はいいのか?それとも今のが結界を張る儀式なのか!?


「陛下!結界が復活しております!」


 その後、部屋から出ていく前に確認したところ、我々がこの国に来て、天使様がくしゃみをしたころには既に結果は修復されていたらしい。

 後でギターマンに聞いてみたところ、エルフの里でも同じようなことがあったらしい。もしかしたら天使様はくしゃみで結界を作るのだろうか。

 

「……だったらあの演奏はなんだったんだ?」


 国のドワーフたちはその後、天使様の行動に頭を悩ますことになるが、それとは別に俺は国で聞かされた一つの事実に頭を悩ませていた。


「話すべきか、話さないべきか……。話すとしてもどうやって……」


 俺は天使様の家に帰ってからも頭を悩ませ続け、一人では抱えきれず、深夜……ギターマンとダンスメイドに相談することにした。


「獣人族の国は既に滅びているらしい……」


 夜中の台所に水を飲むために来ていた一つの小さな人影に気づくことなく……。

お読みいただきありがとうございます。

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