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第28話 ヒゲナシ①(ヒゲナシ視点)

「至急結界の修復が出来る者を探し出すのだ!任せたぞ!」

「はっ!国王陛下!」


 ドワーフ王国でも精鋭と称えられる部隊が国王の前に跪いていた。俺もその中の一人だ。


 だけどまさかこの俺、ウリエンのような若造にそんな重大な任務が与えられるとは思っても見なかった。この任務の重要性は俺もよく分かっている。俺たちのドワーフの国レガナジアは鉱山地帯に作られた地底国家だ。

 

 鍛冶や細工を得意とする手先の器用な者が多く、それらの交易により国を維持している。取引相手はエルフや獣人などだが、その獣人との交流があるときぱったりと止まってしまったとのことだ。


 時を同じくして国の周りを覆う邪気の濃度が高まり、今の結界では耐えられなくなってしまった。そのため、国の中にまで邪気が流れ込んで体調を崩す者も出ているし、何より周辺の魔物が狂暴化して襲われた住民もいる。


「エルフ族から聞いた話では大森林の中に結界を新たに張ることが出来るほどの強大な存在が現れたと聞く。その存在は不明だが、早急に確認する必要がある。大森林の中で二手に分かれてそれぞれを確認してくるのだ」


 陛下から賜った任務の内、俺が同行するのは謎の存在の調査についてだ。20名ほどのメンバーの内、一番の若手がこの俺になる。

 入念な準備を行い、水と食料を持って俺たちは大森林に挑むことになった。







 大森林への旅は過酷を極めた。

 水や食料は魔法のカバンに数か月分入れてて来ているが、ただでさえ樹木が密集し、獣が出没する危険な大森林での往復を考えるとそれでもぎりぎりの距離になる。さらに邪気の密集した森に入れば魔物への警戒も必要になるのだ。

 

 俺は若いがこれでも腕っぷしは立つし、魔物の一匹や二匹余裕だろう……と思っていたが大森林を舐めていた。邪気が広がっているという話は聞いていたが、これほど影響があるとは思わなかったのだ。


 大森林。

 そこは地獄熊(ヘルグリズリー)首狩り兎(キリングラビッド)悪馬(イビルホース)人食い羊(グラトニーシープ)。魔物化した動物たちが次から次へと襲い掛かってくる恐ろしい場所だった。


 1匹程度なら怪我無く仕留めることは出来る。

 だが複数襲い掛かってきたら誰かが怪我を可能性が高かった。このような危険な場所で大怪我を追うことは死にも等しい。そのため、行動は慎重にならざるを得なかった。


 襲い来る魔物たちを単体なら討伐し、複数なら逃げるを繰り返し、夜は襲ってこないことを祈りながら木の上に見張りを立てながらの捜索ではなかなか思うように目的地まで進めず、ある時点で隊長が一つの決定を下すことになった。


「いったん撤退する」


 その判断は正しかったと言える。食料は半分を尽きており、このまま進んでも撤退がままならなくなるからだ。

 しかし、その判断は遅かったと言える。撤退中に10を超える魔物たちと遭遇してしまったのだ。

 撤退戦を試みたものの各自バラバラで戦ううちに俺は隊から離れ、やっとのことで目の前の魔物を倒した時には自分がどこにいるのか分からなくなってしまっていた。


「くそっ、どこだここは」


 さらに悪いことに手持ちの食料を入れていた鞄の中にスライムが入り込んでいたのだ。

 そのため食料のほとんどをそいつに食べられてしまった。


「このやろう!」


 腹いせにスライムをぶっ叩いてやったら粘液が飛び散って髭や髪にかかって固まってしまうし、踏んだり蹴ったりである。


 すでに大森林のかなり奥地まで入り込んでおり、ここから食料を自給自足でさらに一人で森の外に出るのは厳しいものがある。

 ここから仲間を探しながら戻るか。それとも結界があるという場所まで一気に抜けてしまうか……。二つの選択がある。


 そのうち俺は後者を選択した。なぜと言う理由はない、直感だ。このドワーフの髭にかけてなぜかうまくいくと言う予感があるのだ。

 ドワーフ族にとってこの髭は力の象徴であり、誇りだ。もともとドワーフ族は成長しても体が小さい。しかし子供のように見えるがドワーフは子供の頃から髭が生えるのだ。


 当然14歳の俺にも誇りある髭が生えていた。

 少しスライムに溶かされてしまったが、この髭がある限り俺は誇りを失わずに目的に向かって走り続けることが出来るだろう。その髭がいっているのだ。俺なら出来ると。


 そんな俺の決意も仲間とはぐれて7日目で折れそうになる。

 まず食料が完全に尽きた。

 さらに飲み水も尽きた。

 周りは魔物だらけの大森林。疲れもピークを越えており、ふくよかだった俺のドワーフ腹も骨が浮き出てしまっているじゃあないか。


「腹減ったなぁ……水……」


 もう歩いているかどうかさえ分からないほど意識が呆然としてくる。それでも俺は歩いて歩いて歩いて……そしてある場所にたどり着いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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