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第25話 エルフどっきり大集合(エルフの里長視点)

 私がこの里の長老となってもう何年になるだろうか。

 村の様子は昔と全く変わってないように見えるが、時間は日々経過している。それも数百年と言う単位である。エルフの種族特定として寿命が他の種族と比べて極めて長く、エルフは誰もが見た目は若者のように見えるが、それでももう500年は過ぎただろうか。


 変わってないように見えると言ったが、実際はその間にあまりに何もかもが変わりすぎている。それもすべて只人族によるところが大きい。


 それは私の生まれる前のことなのでいつの時代かは伝え聞いていないが、かつてこの世界には神に愛された四種族が存在したと言れている。

 『只人族』、『エルフ族』、『獣人族』、『ドワーフ族』。

 この四種族は姿の違いこそあるものの、それぞれの縄張りを荒らすこともなく、平和に暮らしていたという。

 

 しかしある時、悪魔に唆された只人族が決して食してはならないとされる知恵の実を食べてしまう。


 知恵の実を食べた只人族はずる賢くなり、自分より裕福なものに嫉妬し、人のものを奪おうとし、誰よりも貪欲となって世界中に邪気をまき散らすこととなった。

 

 その邪気は只人族の縄張りだけでなく、我々エルフの住まう大森林にまで影響を及ぼし、そこに住まう植物や動物までもが魔物化する事態になってしまったらしい。


 かろうじてエルフ族は結界を張ることにより里の周辺への影響は少ないが、邪気が少しずつ強まっており予断を許さない状況だ。


「まったく……只人族とはなんと愚かな……」


 最近では邪気をまき散らすだけに飽き足らず、その我々他種族の領域まで侵さんとしているらしい。何と愚かな種族なのだろうか。


「我々も気をつけねばな……」


 それは只人族からの攻撃に気を付けるというだけの意味ではない。邪気の中では動植物さえ魔物化するのだ。我々エルフ族に影響がないとどうしていえるのか。いつ隣人が魔物と化すか分からないのだ。


 そう考えた私は只人族のような欲望を喚起させるようなものを里の中で禁止することにした。森とともに生き、森とともに暮らすエルフ族にそのようなものは本来必要ないものなのだ。


 そして禁止したうちの一つが『音楽』である。 

 楽器の演奏や歌を禁止した際には反対する者もいたが、それも長老権限で押し通した。この里を邪気に侵されるわけにはいかないのだ。

 いつの日か邪気が無くなり、平和が訪れたらまた歌や楽曲を楽しもう。そう考え、禁止した楽器は倉庫へとしまっていたのだが……。


「長老……盗人です……またあいつです」

「あいつか……」


 そこから世界樹の枝と霧蜘蛛の糸で作られた楽器の一つ持ち出された。


 持ち出したのはあの悪ガキのイスラだ。子供が少ないこの村でただ一人の10代ということで甘やかしすぎたのが悪いのだろうか。いつも何か新しいものを求めてはいたずらを繰り返している。

 しかも今回は楽器を持ち出したイスラが帰ってこないらしい。


 心配した大人たちが探しに行ったのだが、数日たっても皆は見けられなかったという。心配になり私も探しに行こうとしたのだが皆に止められた。皆の大切な長老は里を守っていてほしいと。


(おかしい……。私は皆に疎まれてたと思っていたのだが……なぜ私を心配する?)


 しかも、どういうことだろう。捜索から帰ってきた者たちの顔に憂いがない。見つけられなかったのならば憔悴するのではないだろうか。それに何か顔色も良くなっているような気がするのは気のせいか。


 そんなある日のこと。


「な、なんだ!?」


 里の外から何やら大きな音が鳴りだした。慌てて表に出ると里の者たちも「なんだなんだ」と外に出てきている。

 音は村の入り口の門のあたりから響いてくるではないか。村の門の先を見ると……。


「♪どうして歌がいけないんだい」

「♪どうして音楽がいけないんだい」


「♪こんな楽しくて素晴らしいものをどうしていけないことだといえるんだい」


「♪神様はそんなことを決めてはいないのに」

「♪天使様もそんなことはいっていないのに」


 イスラが天から鳴り響く音に合わせて歌いながらクルクルと周りながら歩いてくる。何もないのになぜ天から音が降り注いでくるのだろう。

 

 そして……どうしたのだ、イスラ!ついにおかしくなったのか?さすがに村一番の強面の門番サイモンが止めようと近づいて……。


「おいおいおい、小僧!歌うのが楽しいって?」


 そうだ。歌は里の中で禁止されている。すぐに止めるのだサイモンよ。


「そんなの……そんなの……♪歌うのが楽しいのなんて俺だって分かってるさー」


 お、おいおい!どうしたサイモン!門番の仕事をしろ!狂ったか!?


「♪俺は門番~。毎日毎日代り映えのしない入り口を見張ってるのさ」


 サイモンがノシノシと腕を振り回しながらイスラと一緒に踊りながら進んでくる。


「♪俺だって大きな声歌いたい~門の前で怖い顔せず陽気に歌ってみたいと思っていたさ~!」


 そんなことを思っていたのか!?しももなぜ歌う!?そんなサイモンに向って行くのは……。あれはサイモンの妻のイリスだ!サイモンを止めてくれイリス!

 

「♪歌いたいの?それは退屈だから?」

「♪いいや、それは俺たちがエルフだからさ」

「♪エルフだから?」

「♪そう、俺たち!」

「♪私たち!」

「「「「さー、歌って踊ろう エルフの歌を~」」」」


 どうした!?イリス!?

 しかもおかしなのが増えたぞ!あれはイリスの友人のカメルにシンシアにジョージ!そして音がさらに軽快なものに変わって天から降り注いできたぞ。


「♪森の歌 川の歌 空の歌」

「♪畑の歌 木こりの歌 狩りの歌」

「それは私たちの希望」

「それは私たちの誇り」


 イスラとともに歌いだす面々。こんなことが許されるはずがない。私が注意しようと踏み出すと……。


「おい!!」


 そこに水を刺す大声が響き渡った。狩人頭のラメルだ!いいぞ、言ってやれ!ラメルは普段は寡黙だが怒ると私より怖いと評判だ。彼の一括で場は静まり返る……はず……。


「♪狩りの歌~ それは野山をかける鹿の声」

「♪それは穴に潜る兎の声」

「♪それは空を羽ばたく鳥の声」


 おい!?

 クェークエ―と見事な鳥の鳴き声を鳴らしたのは狩人仲間のシンディーとオルトだ。確かに昔は歌と鳴き真似で動物をおびき寄せたりしていた。それが歌を禁止したからできなくなっていただろうか。


「♪さぁエルフの歌を歌おう エルフの歌を取り戻そう」


 どうしたことだ。なんだかどんどん人数が増えてきた。

 (かしら)クラスの者たちも加わってきて……これはもう村のほどんど全員ではないのか?どうする!?何だか私も見ていて楽しくなって来て体が震えそうになって……いかんいかん!


 私はエルフの長老として秩序を正さねばならないのだ!はっ!?これはもしかしたら邪気に当てられた影響なのではないか!そう、そうに違いない!


「あなたたち!何をやっているの!!」


 ガーン!と地鳴りのような金属音が鳴り響いた。


 それによって天から降り注いでいた音も消え去った。

 横を見ると妻のテトラがすごい形相で鍋を持って立っている。あの鍋で家の柱を叩いたのだろう、少し凹んでいるではないか。


 鍋を凹ませる勢いの怒り顔の妻はちょっと怖いが……いいぞ!妻よ!言ってやれ!里長の妻として皆に言ってやってくれ!秩序を保てと。


「歌!?音楽!?そんなの……そんなの!」


 そうだ!禁忌なのだ!皆を説得するのだ妻よ。


「♪大好きに決まってるじゃない♪らららー」


 つ、妻ああああああああああああああ!!どうしてしまったのだテトラ。しかも気づいたらいつの間にか音楽が再開しているではないか!


「♪天使様が送ってくれた」

「♪天使様が認めてくれた」

「♪音楽がこんなにも素晴らしものだって」


 天使?さっきから何を歌っている。天使など伝承の中に生きてはいるが、顕現してくれたことなどないではないか。信仰こそ私は否定しないが、この邪気をどうこうできるような存在などいるはずが……。


「な、なんだあれは……」


 空から現れたのはまさに天使様だった。

 透き通るような光り輝く金色の髪、幼いながらも美の象徴ともいえるそのかわいらしい美貌、背にはばたく大きな翼、そして何より邪気を一切感じないどころか周囲の邪気を浄化していくその姿はまさに天使。

 しかし、天使様が持っている鉄の鍋はなんなのだろう。


「それにあれは獣人族と……只人族だと……」

 天使様とともに二人の人物が空を飛んでいる。

 最近とんと見なくなった獣人族がいることも驚きだが、邪気の原因たる只人族までいるとはどういうことなのか。それにその二人とそしてイスラ、その3人からはまるで天使様と同じような清浄な気を感じる。


「まさか……使徒に選ばれたのか……」


 それはまさに伝承によるものとしか思えない光景だった。天使様とともに二人が広場に降り立つと他のエルフたちとともに歌い、そして踊り出した。

 

 なんだあの動きは……。只人族のメイド服の女の踊りに目が釘付けになる。音に合わせて手を振り、足を動かし、クルクルと回る動きのキレが尋常ではない。

 周りのエルフの動きがあのダンスをしているメイド……ダンスメイドとでも呼ぼうか。ダンスメイドを中心として広がり周りへと伝播する。


 すごい……その一体感に私の体もつい左右に揺れてしまうが……天使様が鍋を両手で天に掲げて腰を振っているのは良く分からないな……。なぜ鍋?しかし、目の前の歌と踊りから目が離せない。続きが見なくなってくる。


「♪さぁ、里に踊りをー」

「♪さぁ、里に歌をー」

「♪さぁ、エルフの」

「♪エルフの」

「♪エルフの」

「♪歌を歌おうー」


 さぁ、クライマックスで盛り上がる……というところで歌も踊りもピタリと止まってしまった。ぐぬぬ……見たい……どうした?はやく、はやく続きを見せてくれ。


 私はもう目の前の歌と踊りにくぎ付けだ。だが、どうした?皆が手招きをしている。もしかして私に加われと?歌や踊りを禁止したこの私が?あの輪の中に入ってもいいのか?


「♪さぁ」

「さぁ♪」


 歌と音楽が再開される。ええい、ままよ!


 私は走り出すと私のために空けておいてくれたと思われる中央へと立ち、両手を広げて大声で歌っていた。


「♪さぁ、エルフの里に音楽をー」


 ジャジャーンというクライマックスの音とともに歌と踊りが終わった。なんという一体感だろうか。音楽とはこんなにも素晴らしいものだったのだ。邪気とは何の関係もなく、これほどの恍惚感を得られる素晴らしいものだ。


「やったぁ!」

「楽しかったね!」

「いえーい!」


 皆が楽しそうに飛び上がったりハイタッチをしたりしている。もちろん私もその輪の中に加わった。

 里に今までのような陰鬱な雰囲気はない。邪気もなくなった。皆楽しそうだ。これもすべて天使様のおかげなのだろうか。


 しかし、天使様よ。あなたはなぜ広場にテーブルをいくつも出しているのですか。そのテーブルはどこから?なぜテーブルに大きな鍋をいくつもの鍋置いていくのですか。


 さらにテーブルと鍋と皿を並べ終えた天使様は一仕事やりおたったというように汗を拭うしぐさをすると獣人族と只人族と一緒に帰ってしまった。


「おい、これはどういうことだ?」


 さすがに訳が分からなくなり近くのエルフに問いただす。


「それは里長に音楽を解禁してほしくてやったんですけど……」

「そうそう。でも今まで何度もう入れてもダメだったから実演しようかってみんなで話して……な?」


 どうやら皆で私を驚かそうとしてやったことらしい。目的は音楽の解禁。見事にその策略にはまってしまったのは認めざるを得ないが、私が聞きたいのはそのことだけではない。


「それは分かるがこの料理はなんだ?」

「さぁ、なんでカレーなんでしょうね?」

「カレー?」


 他の者に聞いたが理由は分からなかった。だが天使様は言葉が通じないらしいので何らかの深い理由がお有りなのだろうと納得することにする。


 ちなみにカレーなる料理はなぜか野菜だけで作られていたがとてもおいしかった。


「なぜ肉が入っていないのだ?」


 そう聞いたところ肉嫌いのイスラのせいで我々エルフ族は肉を食べられないと天使様に勘違いされているらしい。よし、あとでイスラはしめることとしよう。

お読みいただきありがとうございます。

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