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第23話 ギターマン②(ギターマン視点)

 気が付くと私は長椅子の上に寝かされていた。鼻に紙がつめられている。なぜ鼻に紙を?それを取ると血が付いているのが分かった。

 そうか、私は顔から地面に落ちたんだった。


 ペタペタと顔を触ってみるが怪我は大したことはないようだ。それより先ほどから心地よい音色が響き渡っているのが気になる。その音色はとても澄んでいて美しくまるで心に直接染み込むような音色だった。


 私はその音の源を探してみることにする。

 周りを見渡すとそこに楽器を演奏する子供たちがいた。この中で金色の髪をした少女が一際キラキラした光を纏っている。


 子供たちが演奏しながら美しい音色で歌っていたのだ。その音色はとてつもなく美しかったが、同時に胸に染み渡り思わず涙があふれてきた。

 彼女たちが歌を歌うたびに私の中の黒いものがかき消されていくようだった。とても気持ちが良い……いつまでも聞いていたい……。


 あれは……天使様?それにあれは獣人族?獣人族なんて初めて見た。それから……只人族だって!?


 世界に邪気をまき散らす元凶がなんで天使様と一緒に……いや、それにしては彼女からは邪な気配を一切感じない?むしろ見ているだけで不思議と心地よい感じがする。


「それにしても美しいな……」


 天使様は観たこともない大きな黒い台のような楽器を演奏している。只人族のサフィーに似た楽器からは低い音が一定のリズムを刻んでいた。獣人族も同じような楽器を使っているが……音が全然違う。非常に興味深い。

 あ、私に気づいたようだ。


「※、※※※※」

「※※※※!」


 あー……しまった。言葉が分からない。

 獣人族は知らないけれど、只人族もエルフ族もドワーフ族も違った言葉を話すという。しかしそれは方言のようなもので共通した部分があるから全く分からないことはないと聞いていたのだけれど……。


「えーっと……天使様?手当をしてくれてありがとうございます」


 あ、そう言えばまだ私の顔に何か貼り付けてあるのだった。天使様を相手にこんな顔で挨拶するのも失礼かもしれないな……。私が鼻の頭に張ってある何かをはがそうとすると……。


「※※※※※※※」


 なんだろう。天使様が何かを言っているのだけれど……やっぱり分からない。剥がすなということだろうか。


「えーと……悪いけれど君たちの言葉が分からないんだ」

 

 とりあえず敵意がないことを示したいけれどどうしたものか。まずは名前くらいは名乗るべきかな。


「私はエルフ族のイスラといいます。あなたたちのお名前を教えていただけないでしょうか」


 天使様が首を傾げている。通じなかったのか。


「※※……※※※※……」


 うーん、天使様の言っている意味は分からないが敵意はなさそうだ。


「※※※※、※※※※※※※※※※※※『モフミミ』「※※※※※※※※※※※※『ダンスメイド』※」


 聞き取れたのは『モフミミ』と『ダンスメイド』という言葉。獣人族の少女と只人族の少女の名前だろうか。


「あの君は『モフミミ』で、あなたが『ダンスメイド』でいいのだろうか」

「うん」

「あ、はい。そう呼んでいただいております」

 

 よかった。彼女たちは言葉が通じるようだ。聞きなれない名前の二人だけれど、少し訛りがあるが分からないほどではない。

 聞きなれない名前と言うことはもしかして二人の名前は天使様から授かる洗礼名というものなのだろうか。そういうものがあると言うことは伝承で聞いたことがある。


「君たちの名前は天様に授かったものなのかい?」


 二人に聞いてみると二人が誇らしそうに頷いた。  なんと羨ましい。この世界を正しく導く天使様の使徒に任じられたというのだろうか。


「もしかして天使様は違う言葉を使っているのですか?言葉が分からないとか?」

「えーっと、それは……」


 どうしたのだろう。只人族の少女が言いにくそうにしていると……。


「天使様はちょっとアホの子」

「!?」


 獣人族の少女は口が悪いらしい。いや、片言なので言葉をあまり知らないだけなのか、それともそういう種族なのだろうか。

 それでも言っている意味は分かりやすい。天使様は我々の言葉が分からないということなのだろう。


「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」


 うーん、天使様は我々が言葉が分からなくてもこちらに合わせる気は全くないみたいだ。さすがは天使様、天上天下唯我独尊とでもいうのだろうか。実に堂々としたものだ。


 何物にも縛られないその姿勢はちょっと憧れる。あの周りに合わせてしきたりばかり守っている老人たちに見せてやりたい。


 エルフの里と違ってここは新しい刺激でいっぱいに見えて、私は今すごくワクワクしている。

 天使様に会えたこと。天使様の歌声や演奏を聞けたこと。どれも素晴らしい体験だった。 

 そして……私の目はある1点に止まっている。


「※※※※※※※※※※※※?」


 天使様が私の背中を指さした。


「これ……ですか?」


 私がエルフの楽器サフィーを指さす。見慣れない楽器なので触ってみたいとでもいうのだろうか。それは私も同じ気持ちだ。先ほどモフミミと言う少女が引いていた楽器が気になって仕方がない。

 私はお返しとばかりにダメもとで天使様たちの使っていた楽器を指さしてみた。


「※※※※?」



 天使様がその楽器を渡してくれる。それを私は恐る恐る受け取った。


「これは……」


 私の持っていた楽器に似ているが素材が木ではないような気がする。すべすべした変わった感触だ。さらにそこからツタのようなものが箱へとつながっており、先ほどモフミミという少女が演奏していた際はその箱から音が出ていた。


 弾く場所と別の場所から音が出るとはどのような魔法の楽器なのだろうか。好奇心でドキドキしていまうじゃないか。


「こう……かな?」


 先ほどのモフミミの動きを真似てみる。

 ギューンと言う子気味良い音が鳴った。思わず笑顔になってしまう。知らない土地、知らない種族、知らない音、それら何もかも輝いて見える。楽しい!


「ここを押さえながらこうやるんだよ」

「この道具を使ってね」

「こ、こう?こうか!?」


 モフミミとダンスメイドが使い方を教えてくれる。なるほど、弦を押さえる位置で音階を変えてたりするのはサフィーに似ているが、弦を揺らすことで音を響かせたりするとは奥が深い。


 私は時間も忘れてその楽器『ギター』の虜になってしまった。二人に教えてもらいながら、時に別の楽器と伴奏しながら様々な音を奏でてみる。

 そして、いつの間にか日が傾いて来ているの気づいた時、天使様と目と目が合った。


「……」

「……」


 天使様も私と同じようにサフィーに夢中になっていたように思う。私がティンティンティーンとギターの音階を奏でると、天使様もそれに合わせるように音を合わせてくる。

 これは私にご指導くださると言うことだろうか。しかし天使様の目に炎を幻視するのはなぜだろう。


キィイイイインキュインキュインキュイーーン♪


 天使様が激しくサフィーを掻き鳴らす。すごい指の動きだ。なるほど!あそこまで自由にやってもいいということだろうか。習うより感じろか!


ギャギャギャギャギュイイイーーン♪


 私はギターにピックを突き立てると髪を振り乱しながら先ほどモフミミとダンスメイドに教えてもらった奏法を試してみる。複雑な音階だけれど、体が、心がここを押さえろ、ここを弾けと叫んで来る。


 そこからはまるで夢のような時間だった。天使様の音と私の音が一つに重なり、まどろみの中にいるような多幸感につつまれていた。

 いつのまにか夕暮れが迫る頃、天使様と私の手は自然と泊まり、フィナーレを迎える。


「※※※※※※※!ギターマン!」


 天使様が私に向かってそう呼ばれた。


「そ、それはもしかして私の洗礼名でしょうか!?」


 天使様が手を差し出すので、私も同じく手を出しだす。パーンと手と手がぶつかる音が響く。もしかしてこれが洗礼の儀式!? 


 こうして私はギターマンとなった。同じく洗礼名を持っているモフミミとダンスメイドの二人とともに天使様に仕えるのだ。


 そしてその夜は泊めてもらえることになり、天使様たちの作られた食事を出されたのだが……。


「ぐぬぬ……」


 肉が入っている。エルフの里の同族は普通に肉を食べているのだが、天使様まで食べるとは……。


「※※※※」


 天使様が2本の木の棒のようなもので挟んだ肉を私に向けてくるが……駄目!無理!いくら天使様が作られたと言っても肉は無理!だって生臭いもの!


 何とか天使様が諦めてもらうと、次は太陽のように赤い果実のような野菜を差し出してきた。真っ赤に熟れて断面から汁が滴っている。見たことのない野菜だけらど、こらはとても美味しそうに見える。


シャクリ


「うまっ!」


 なんだろうこれは。爽やかな酸味を含んだこの野菜はとても冷えており、新鮮な瑞々しい野菜の美味しさが凝縮されているようである。さらにまるですべてが魔力で出来ているのではないかと思えるほど魔力が豊富ではないか。


「このお椀に入ってるのは?」


 次に目の前にある汁物。これにも獣臭さはないので肉は入っていないように思える。一口飲んでみよう。


「うまい!」


 これは何だろうか。旨味が凝縮されているような出汁はどんな野菜から取られているのか分からないが、とても心に染みる味をしている。中に入っている野菜もどれも美味しく。このサラダとスープだけで満足だ。


 さて、まだ肉の皿は残っている。けれど悪いが獣の肉は遠慮したい……ん?モフミミが服の裾を引っ張ってきた。


「おにく食べないの?」

「……」


 無言で頷くと目にもとまらぬ速さで私に出された皿から肉が消えていた。


「おにくおにく……」


 モフミミが口をいっぱいにして肉を頬張っている。獣人族は肉食だったのか。せっかく天使様に出されたものが無駄になら無くてよかった。


「代わりに野菜あげる」


 そう言ってモフミミが私の皿に赤い野菜を乗せようとする。おおっ、ありがたい。あの太陽の実はもっと食べたいと思っていたのだ。


「※※※※!」


 と思ったが、そこで天使様の雷が落ちた。実際に落ちたわけではないが、モフミミが私のさらに移そうとした野菜は阻止され、そして嫌がるモフミミは野菜を食べさせられている。


「……」


 天使様……怒ると怖いな……。

 よし、見なかったことにしよう。

 こうして私は天使様たちと行動を共にすることになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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