第22話 ギターマン①(ギターマン視点)
「イスラ、お祈りの時間よ」
名前を呼ばれた私は母と一緒にこのエルフの集落にある霊堂へと向かう。
大きな木のウロの中に天使の木彫りの像が奉られていた。
ここエルフの集落では祖霊とともに天使が信仰されている。母に聞いたところによると、かつて天使様がこの世界の邪気を浄化することで大地や森が作られたという話だ。
昔はそれらの神話が讃美歌として楽器の演奏とともにここで歌われていたと聞くが、私は生まれてこの方聴いたことがない。なぜなら歌も演奏も100年ほど前に禁止されてしまったからだ。
禁止したのは現在の里長。
理由は只人族による邪気の浸食が進んできたから……らしい。なぜ邪気が増えたから歌と演奏を取り上げるというのか。
それは只人族の欲望を刺激しないようするためとのことだ。
只人族はとても愚かな生き物で誰かと自分を比較し、自分の持っていないものを相手が持っていれば嫉妬し、時にはそれを奪おうとするほど欲深いらしい。その嫉妬や欲望が邪気の元となっていて世界を侵食しているというのだ。
そんな彼らの欲望の目から逃れるために歌と演奏を禁止したというのだけど……私はまったく納得がいかない!
歌と演奏がどんなものなのか知っているからだ。なぜかって?それは村の大人たちがこっそり歌ったり演奏したりしているのを見ているからだ。エルフがそんなに歌も音もなしに生きていけるわけがないのだから。
「大いなる祖霊と大天使様に感謝いたします」
司祭が祈りの言葉を紡いでいるが、私は不真面目にもまったく別のことを考えていた。
『思う存分歌ったり演奏したりしたいなぁ』と。
なぜこっそり隠れて歌っている人たちをさらにこっそり隠れて聴かなければいけないのか。理不尽にもほどがある。私はそんな我慢をするつもりなんて全くないのだから。
「うーん、どうしようかな」
そのためにはどうすればいいだろう。考えてみる。
まずが楽器が必要だ。そして次に演奏する場所。
村の中で楽器を触っていたらすぐに大人たちに捕まってしまうだろう。どうすれば楽器を演奏できるだろうか。
私は一人悪だくみを続けるのだった。
♦
───その日の夜
私は里長の家の倉へと忍び込んでいた。なぜって?うじうじと黙って考えるより行動あるのみ!
ここには昔他のエルフたちから没収した楽器があると言うことを聞いたからだ。なぜ破棄せずに保存してあるかと言うといつか世界中の邪気が払われた時に使うためらしい。
「さーて、どこにあるのかな」
ワクワクしながら小さな換気まどから屋根裏潜り込み、倉の中に降り立つ。
エルフの中でも最も若い15歳という年齢の私にとってこのくらいは朝飯前だ。頭の中までカチコチに固まってしまった大人たちとは柔軟さが違う。
「これが……サフィーか」
『サフィー』というのはエルフの伝統楽器だ。精霊樹の木の枝に朝露蜘蛛の糸を張った弦楽器でその音色はとても高く澄んだ音がするという。
保存の魔法がかけられているからだろう。数百年以上前のものだろうに、まるで新品のようにつやつやとした手触りだ。
ピィーン
指先で糸を弾くと心地よい音色が響いた。
「やばっ」
ついつい弾いてしまった。
誰からに聞かれたらすぐに取り上げられてしまう。私は楽器を担ぐと倉から出て森の中へと入る。このあたりの森には魔物除けが張られていて危険な魔物は入ってこないが、森の中には狩りをしているエルフもいる。
「見つからないようにしないとね」
私はトントンと木を蹴りながら枝へと駆け上がる。
森とともに生きるエルフには簡単な技で若い私でもこの程度は出来る。さらに普通なら折れてしまうような細い枝でも私なら軽々と渡っていける。大人のエルフたちでは、ここまで細い枝に体を預けることはできないだろう。
「まずは誰もいない場所に行かないと……」
私は少しの優越感に浸りながら結界の外へと飛び出した。
下にはたまに魔物がいるのが見えるけれど、木の枝を素早く移動する私を捉えられるはずがない。
「あはは、追いかけても無駄だよ……ん!?」
魔物を揶揄いながら調子に乗って樹々の間を跳んでいると結界の内側に入ったような感覚を感じだ。
「おかしいな……。このあたりにエルフの集落なんて私たちのところだけのはずなのに……」
しかもその結界はエルフのよりもよほど高度なものに思える。
まず空気が全然違う。とても澄んだ魔力に満ちた空気はとても清々しい気持ちにさせてくれるし、森に流れる小川はキラキラと木漏れ日に輝き、大地は生命力にあふれていた。
「ここは……いいなぁ」
気分がよくなった私はここで楽器を練習してみることにする。
「どこで弾くのがいいかなぁ……」
「~~~♪」
「え……?」
気持ちの良い空気の中で、枝を渡りながら考えていた私の耳に聞いたこともない歌声が聞こえてきた。
これが音楽?盗み聞いたエルフたちの歌とは全然違う。
透明感のあるリズムを持った聞いたこともない言葉の歌。
そのあまりの心地よさに私は枝から跳びあがったその先に……木々がもうないということに気がつかなかった。
「あ……」
慌てて受け身を取ろうとしたその視線の先……そこには神々しい光に包まれた羽の生えた子供がいた……これって……天使様?
お読みいただきありがとうございます。
もし興味がありましたらブックマークや↓の☆で評価いただけると励みになります。




