第21話 ギターマンも木から落ちる
モフミミに加えてダンスメイドちゃんが我がバンドメンバーに加わって数か月。ダンスメイドちゃんはさすがメイドさんだけあって家事がすごく優秀だった。掃除も洗濯も料理もできるし、私たちより背が高いから棚の上の物も取ってくれてありがたいね。
そんな二人と勉強したり、畑仕事したり、演奏したり、歌ったり、それなりに楽しい毎日を過ごしている。
その間にモフミミが森から兎を狩って来るという事件が何度かあった。
『ああーついにやっちゃったかー』という感じだ。動物たちを見てよだれ垂らしてたからねこの子。でも最初はびっくりしたけど弱肉強食の世の中だし別に怒ることじゃないと思う、モフミミお肉大好きだし。
捕ってきた兎を捌くのは手伝った。でもさすがにいつも遊びに来てたかもしれない兎を食べるのは遠慮したかったんだけどね、モフミミは私が食べるのを断ると悲しそうにしたので結局食べることにした。私のために取って来てくれたかもしれないから。
ソテーにしたら結構おいしかったよ。兎よ安らかに眠れ。
毎日、音楽多めの生活で3人がバンドメンバー兼家族みたいな感じになってしまっているけれど、家の周りの様子も少しずつ変わり始めている。
その一つが広場の改修。
樹々を移動して校庭のようにしたのはいいけれど、日影がなくなってしまったので毎日のランニングでダンスメイドが辛そうにしていたのだ。
私は謎パワーで平気だし、モフミミは平気だったのだけれどね。
ということで、日陰を作るために何本かの樹を庭や家の近くに植え替えた。
庭にあるピアノも木陰になってそこはかとなくいい感じ。まぁ私は暑さとか寒さとか何も苦痛に感じないので本当に『感じ』というだけなのだけれどね。
そんなある日の午前中の休憩時間。
庭でテーブルを広げて3人でお茶とおやつを楽しんでるといつものようにモフミミが歌い出した。そんな時は私が演奏したりすることもあるし、モフミミやダンスメイドちゃんが歌ったり踊ったりすることもある。二人とも音楽が好きみたいで嬉しい。
「~~~~♪」
今モフミミが歌っているのはスカボロー・フェアというイギリスのバラッドだ。内容よりもこの音の美しさだけで歌詞を組み立てたという歌が私は好きなので何の気なしに歌っていたら、モフミミも気に入ったようで良く歌っている。
『パセリ、セージ、ローズマリー、タイム』という部分の歌詞なんかは全部ハーブの名前を並べただけで意味をなさないのだけれど、それらの透明感のある発音が並ぶと美しささえ感じる音程になってとても好きな部分なのよね。
ついついモフミミと一緒に私とダンスメイドも歌い出す。モフミミの子供特有のソプラノボイスとダンスメイドのアルトボイスが合わさって耳が幸せだなー。
ドスンッ!
なんて思っていたらピアノの上の木の枝から何かが落ちてきた。ピアノに直接落ちなかったのはよかったけれど……。木の枝が折れたとか?
「……!?」
わおっ……落ちてきたのは人だったよ……。しかも顔から地面に突っ込んでいる。これならピアノに落ちたほうがまだ怪我が少なかったかもしれないんじゃないかしら。
「ってそんなことより大丈夫!?」
いつまでもスケキヨ状態にしておくわけにはいかないでしょ!
私とモフミミは急いで駆け寄ると落ちてきた人を助け起こす。首は……無事に見えるね。よかったー、見た目は大丈夫そう。顔を擦りむいて鼻から血が出てるけど息はしてるね。ショックで気を失っているようだ。
「ここに寝かせましょう」
とりあえず思い出箱からソファーを出してモフミミとダンスメイドちゃんと3人がかりで寝かせる。なんで3人でやるかって?だってこの人背がめっちゃ高いから。
私とモフミミの身長から見るとまるで巨人のように見える。2メートル近くあるんじゃないかな。
そして顔がめちゃくちゃイケメン……いや、美女なのかな?どちらか判別が難しいほど整った顔をしている。そんな綺麗なお顔も鼻血で台無しだけれど……。
とりあえず濡らしたタオルで顔をふいて鼻にティッシュを詰めておいた。鼻を塞ぐのは良くないっていうけれどまず血を止めないとね。それから市販の軟膏を塗って鼻の頭に絆創膏を張ると……。うん、イケメンは何をやっても似合うね。
ちょっと悪ぶりたい王子様って感じ?
あらためてよく見ると緑色の髪に緑色の服を着ていて、さらになんと耳が長くて尖っている。首長族ならぬ耳長族とでもいうのかしら。肌が10代のようにつやつやだし、たぶん年齢は若いと思う。
「※※※※」
モフミミがペチペチと耳長族の顔を叩いている。気を失ったままだね。
「やめなさい」
耳長族を起こそうとするモフミミを止めてそのまま様子を見ることにした。出来ることはやったからね。あとのことは彼(彼女?)が起きてから考えよう。
っということで休憩終わり。音楽の授業を再開しよう。
「さっきの続きからもう一度やろっか」
「※※※※」
「※※※※」
モフミミとダンスメイドの返事を受けると私たちはまだ曲の演奏へと没頭するのだった。
───2時間後
「……」
しまった。完全に耳長族のことすっかり忘れていた。
耳長族がじーっと私たちを見ている。……気まずい。いや、確かに忘れてたけど心配してなかったわけじゃないのよ?うん、たぶんね。
「お、おはよう」
「おはよう!」
もうお昼を過ぎてしまっていたけれど耳長族が起きたようなので挨拶をすると、モフミミも元気に復唱した。モフミミはまだ挨拶と「いただきます」、「ごちそうさまく」らいしか覚えていないけれど元気が良いのはいいことだね。
「※※※※」
あっ、耳長族が顔の絆創膏を剝がそうとしている。
「まだ剝がさないほうがいいよ」
傷口開いちゃわない?結構な高さから落ちてたよ。
しかし私の忠告も空しく……というか意味が通じてないからだろうね。ぺりぺりと絆創膏が剥がされると……。なぜだろう、怪我が綺麗に治っているね。あなた新陳代謝早すぎない?
「※※※※」
そして言葉がまたもや分からない。そもそもモフミミ族とダンスメイド族と耳長族は同じ言語を話しているのかどうかさえ分からない。
違ってたらもうお手上げだよ。もう勝手に脳内翻訳しちゃおうかな。私がそう思ったのならその翻訳が正しいと思ってしまおう。
「※※※※」
ふむふむ、こっちに歩いてきて話し掛けてきたね。なるほどなるほど?たぶんこれは自己紹介かな?
『やあ、私の名前はイケメン。耳長族のイケメンさ』
みたいなことを言っているんじゃないかな?イケメンだし。そうじゃなくても多分自己紹介してると思う、初対面だし。よし、こっちも丁重に自己紹介させてもらおう。
「私は……えーっと……」
しまった名前がないんだった。モフミミやダンスメイドは私のことなんて呼んでるんだろうね。どうしよう。この際もう天使でいいか。
「私は天使、この子がモフモフしてるのがモフミミで、こっちのメイド服の子がダンスメイドよ」
彼女たちのことは私が勝手にそう呼んでいるだけだけどまぁいいよね。
「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」
「※※」
「※※※※※※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※」
いっぱい話し出した!なんかイケメンとモフミミとダンスメイドが話し出したよ!私も入れてよ!分かんないよ!
「ねぇ、あなたどうしてここに来たの?ご用件は?」
あれ?この耳長族の人なんか背中に担いでない?耳長族の背中にあるのは……。
「それってもしかして楽器?」
「※※※?」
私がそれを指さすと、耳長族の人が逆に私の持っているエレキギターを指さして来た。触ってみたいのかな?いいけど、代わりに耳長族の人の楽器触らせてくれないかな。触ってみたいな。
「使ってみる?」
私がエレキギターを渡すと代わりに耳長族が持っていた楽器を貸してくれた。よし!すかさずそれを思い出箱に入れて思い出補正完了。これでいつでも耳長族の楽器が複製可能だ。さすが天使、ズルい。
さーて、次は耳長族の人の楽器の鑑定タイムだね。うーん、よく見るとめっちゃ弦が細いね。よくこんな細い弦が張れたねー。どんな音がするんだろう。
ピックで弾いてみるとピーンという高い音が鳴る。ふむふむ。ビオラとかそんな感じの楽器かな?チューニングはちょっとお粗末だけれど。
ああでもない、こうでもないと糸を引っ張りながら借りた楽器の音を合わせているとだんだんいい感じになってきた。弦の数はギターと同じだけれど音の響きとか音程が全然違うね。
「こうかな?いや、こうやったほうが良いかな」
初めて出会う楽器は楽しいね。新しい音との出会い、最高!
一方、耳長族に貸した私のエレキギターはモフミミとダンスメイドが手取り足取り教えているように見える。
「※※※※」(ギターのCコードはこうだよ)
「※※※※」(もっとピックを立てて!)
「※※※※」(俺の演奏を聴け―!)
きっとこんな会話が繰り広げられているんだろう、たぶん。だって耳長族はモフミミとダンスメイドと一緒に楽しそうにギターを弾いているから……いいなぁ。
べ、べつに羨ましくなんかないんだからね!
すみません、和気あいあいとしてる3人が正直羨ましいです。ちくしょうめ。いいよ、いいよ。言葉の分からない私は一人でここで耳長族の楽器、略して耳な楽器を弾いているから。
~~~~♪
しばらく楽器で遊んでいる間に耳長族がすごい勢いでうまくなっていた。え、もうFコード覚えたの?早くない?エレキギターを使いこなしちゃってる?
私と耳長族と目と目が合う。
耳長族の手にはエレキギター、私の手には耳な楽器。バチバチと火花が散りそうな視線。『やんのか?』そう言っている気がする。もちろん私は楽器で答える『やってやんよ」。
~~~~♪
~~~~♪
私が持った耳な楽器がメロディーを奏でると、耳長族もそれと同じ音階で返してくる。ほほぅー、なかなかやりよるな。
~~~~♪
感心していると今度は耳長族が中々難解なコードをエレキギターで返してきた。はははははっ、楽器の違いはあれど私がそれに対応できないとでも?
~~~~♪
ここに天使と耳長族のセッションバトルが開始された。
響き渡る、音、音、音。途中からダンスメイドがベースで加わり、モフミミもピアノで参加して私たちに合わせて演奏をしだす。
~~~~~~~~~~~~♪
やがて音に誘われたのか森から動物たちも集まってきた大セッションバトルはその後2時間にわたり続き、最後は私と耳長族……いや、これほどギターを弾きこなす相手に耳長族は失礼ね。
よし、君のことは『ギターマン』と呼ぶことにしよう。名前分からないから!
♪ギャギャーーーン
最後は私とギターマンが同時にサビを弾き終えるとセッションバトルは終了した。
「なかなか良かったわよ!ギターマン!」
「※※※※!?」
ハイタッチする私とギターマン。なんだかギターマンとも分かりあえた気がする。モフミミとダンスメイドもギターマンとは気が合いそうだね。
「もう暗いし……うちでご飯食べて泊っていく?」
いつの間にか日が沈んでいた。あ、お昼ごはん食べてない!楽しいと時間がたつのが早いね。そんなわけでギターマンを家に招待することにした。
今夜の夕食はデミグラスソースのハンバーグにフライドポテトにトマトサラダ、そしてご飯にわかめのお味噌汁だ。
みんなで食事の準備をしてみんなで配膳して……。
「「「いただきます」」」
モフミミはすごい勢いでハンバーグを食べている。ハンバーグのみを。あとでお肉がなくて悲しいことになるからやめなさい。
「……」
「ギターマン食べないの?」
ギターマンがハンバーグを食べようとしない。どうしたの?
「遠慮しなくていいよー」
ギターマンの口に箸でつまんだハンバーグを持っていく。口がへの字になった。さらに近づけると首を目いっぱい伸ばして海老ぞりの構え。これは完全に嫌がってるね。言葉にしなくても分かるよ。
ベシタリアン?ベジタリアンなの?それなら仕方がない。私のサラダを分けて上げよう。ハンバーグを食べさせるのは諦めてトマトをギターマンに差し出す。
「※※※※」
何か言っているね。ふむふむ。トマトならいける?いけるよね?落ちたとき鼻血出てたし、血を作らないとね。赤いからきっと血になるよ、知らんけど。
「※※※」
ギターマンがトマトをパクリと一口。そしてもぐもぐタイム。おいしい?不味い?どっち?言葉に出されても分からないので表情でおなしゃす。
パァっとギターマンが笑顔になる。うわっ、まぶしっ。
イケメン?美女?もうどっちでもいいや、ギターマンと名付けちゃったから男扱いしておこう。イケメンの笑顔のオーラは破壊力抜群だね。モフミミみたいにバクバクという感じではないけれど味わうようにサラダを食べている。
「お味噌汁も食べる?昆布出しだよ」
お椀を渡すと香りを嗅いだ後ギターマンは味噌汁を一口。うん、気に入ったみたいだね。そうそう、お米と交互に食べると美味しいよね。
「※※※※」
「※※※※」
モフミミとギターマンがなにかを話してる。なんだろう。
ギターマンがモフミミに自分の前に残っていたハンバーグのお皿を渡した。
そして代わりにモフミミが野菜の皿を……渡すのは阻止!
「モフミミ、野菜は食べなさい!」
どうやら野菜と肉を交換しようとしたみたいだね。でも私はモフミミが野菜も食べられることを知っている。
トレードは不成立だよ。モフミミはちゃんと野菜の栄養も取りなさい。ギターマンの野菜が足りないなら私が追加してあげるから。
「いでよ、トマト!」
ということで思い出箱からトマト追加。ついでにポテトサラダもハム抜きで入れてあげよう。
そしてモフミミよ。嬉しそうに二つ目のハンバーグ食べてるけど余分に食べられるのは今日だけだからね。
「おにく!」
「とまと!」
モフミミは「おにく」を覚えた。ギターマンは「とまと」を覚えた。食べ物以外の言葉ももっと覚えておくれよ……。
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