第17話 森での生活開始
吾輩は天使である。名前はまだない。
こんにちは、私です。子供が出来ました。子供の名前はモフミミです。
同い年ぐらいの見た目だし実の子供じゃないけれどね。でも私が保護したんだから子供と言っても過言ではないんじゃないかしら。それにちゃんと面倒を見るから子供でいいよね。
やって来たのはこの世界に最初に降り立った場所、つまり森の中。
相変わらずなんかこの場所もあまりいい感じがしないけれど、あの町の中よりは多少マシだと思う。初心に帰るというかあれから時間もたったしあの神的なアレからのメッセージでもないかなと少し期待したけれど……何もなし。
木々がさわさわと揺れているだけだよ。それに何か鼻がムズムズする。花粉?森の中の嫌なモヤモヤが鼻に入ったのかな?
「イックシ!!」
あらやだ。乙女にあるまじき大声でクシャミをしてしまった。お恥ずかしい。
モフミミを見ると私を見つめてる。そんな目で見ないで!普段はもうちょっとお淑やかにクシャミしてたよ……してたよね?いや、してなかったかも……。
私は前世を思い出す。そこには盛大にクシャミをする私がいた。
すまない、モフミミ。私はお淑やかではなかったみたいだよ。
「※※※※」
モフミミが私の手をクイクイと引っ張って目の前を指さす。どしたの?クシャミの飛沫が誰かに飛んじゃったりした?密だった?マスク警察に怒られちゃうかな?
「……あれ?」
何か森の嫌な感じがなくなってた。なんだろう?黒々してるって印象だった森が青々しているように見える。うーん、なんていうかいい感じ?よく分からないけれどここなら住んでも大丈夫そうな予感がする。ここでいっか。神様的なアレが連れてきた場所なんだからここが私たちの聖地かもしれないし。
「よし!ここに家を建てよう!」
と言っても周りはぶっとい樹々がいっぱいでスペースがないなぁ……。切っちゃう?でも使う予定もないのに木材にするのも気が引けるし……移動できないかな。
「よいしょっと」
試しに木を抱えて持ち上げてみた。
……持ち上がっちゃったよ。根っこの周りの土もしっかりついているね。さすが熊よりも強い天使。もうこのあたりの能力は『謎能力』として私の中では考えないことにしている。
「じゃああっちの日当たりのいい方に持っていけばいいかな」
木を引っこ抜いては開いてる場所に植えて、抜いては植えてを繰り返し……小学校のグラウンドくらいのスペースが出来上がった。
「このくらいのスペースがあればいいかな。さぁモフミミよ、ご覧あれ」
今までは一部しか取り出さなかった実家だけれど今度は丸ごと出しちゃうよ。うまくいくかな?行かなかったらモフミミを野宿させてしまうのでうまくいってください。
「いでよ!実家!!」
想い出箱から実家を丸ごと取り出すイメージをすると、目の前にはイメージ通りの場所、位置、向きに実家が出現していた。
二階建ての建物には日当たりの良さそうな方向にベランダがあるし、玄関門にポストもある。庭の木や家庭菜園、倉庫……ガレージには車もあるね。私の自転車も停まってる。まぁ車とかこんな森の中で使うこともないだろうけどね。
「中に入ろうか」
モフミミの手を引いて中に入ろうと思っていたら、モフミミが森の中をじっと見ている。何?危険な動物でもいるの?これでも私は強いし、熊くらいまでならたぶん勝てるよ。
森から現れたのは……。
「……馬?」
出てきたのは白い馬……白馬だ。ちなみに王子様は乗っていない。それから白いヤギに白い犬、白い兎。空から白い鳥が飛んできて私の頭に止まった。
まるで動物の音楽隊でも結成しそうなメンバーだけれど……おい、鳥よ。私の頭の上に止まるな。いつ糞を頭に落とされるかドキドキするから本当にやめて。
モフミミの頭にも鳥が止まってる!モフミミ!そんな笑顔でクルクル踊ってる場合じゃないよ!そいつらはどこでも糞を撒き散らすロシアンルーレットみたいなものだから!
「くっ……仕方ない!これでも喰らえ!」
想い出箱から食パンを取り出し両手で崩すと遠くへと投げる。野性動物に餌をやるのは良くないからちょっとだけだよ。
「あとは……ほーれ人参よー」
さらに人参も取り出して放り投げると鳥だけでなく他の動物も餌へと向かって走って行った。それを食べたら森にお帰りなさい。そして鳥よ、頭にはもう止まらないでください。お願いします。
あと……我が家の家庭菜園に手を出したら絶対に許さん。鳥よ、モフミミは肉が大好きなのだよ。我が家の野菜に手を出した時、食べられるのは野菜なのか君たちの肉なのかよく考えてみるがいい……クックック。
そんなアホなことを考えてると蜘蛛の子を散らすように動物たちが去っていった。野生の感かな?私は食材に困ってたりしないと思うからそんなことをするつもりないけれどね。
「モフミミ、中を案内するよ」
今度こそモフミミをつれて家の中へと入る。
玄関では私は靴を脱ぐ。実家とはいえ私は日本人だからね、ちゃんと靴は脱ぐんだよ。あと、ここは森の中だから土足厳禁だよ。
「ここで靴を脱いでね。あ、泥をおとして」
モフミミが私の真似をして靴を脱いでいる。あげた靴は森の中を歩いたから結構泥だらけだ。マットに靴を擦り付けるジェスチャーをするとモフミミも真似して泥をおとしてくれた。靴は入り口向きに揃えてね。うん、賢い。
「トイレはここでお風呂はこっち、台所はここね」
それらは姫様誘拐団の監禁部屋で使い方教えたから説明する必要はないよね。お湯の張り方とか掃除の仕方は後で覚えてもらおう。
「※※※※……」
台所の冷蔵庫の中身を見せたらモフミミがヨダレを垂らしていた。うん、パンパンに入ってるからね。私が買いすぎたせいだけれど……。ご飯まだだよ。
「これが照明のスイッチとリモコンね」
ピッピッと照明をつけたり消したしして見せる。これも監禁部屋で使ったけどモフミミは触ってないので持たせてみる。
ピッピッと操作してすぐ使い方を覚えてくれた。私は真っ暗でないと眠れなかったから使わなかったけど常夜灯あったんだね、このLED。モフミミが使って初めて知ったよ。
「それから……」
確認の意味を込めて全部の部屋をまわっていく。妹とか両親祖父母の部屋は見るだけで物色はやめておこう。見られたくないものがあるかもしれないから。
一通り確認を終えたときには日が高くまで上ってしまっていた。モフミミのお腹がくぅーっと可愛らしく鳴る。
朝ごはん忘れてた。すまないモフミミ。3食食べさせられなかったお姉ちゃんを許しておくれ。
「ご飯にしようか」
「※※※※」
モフミミは私が何をするのか感じたのか笑顔になった。
でも悪いけれどモフミミよ。我が家には「働かざる者食うべかたらず」と言う家訓があるのだよ。くっくっく、この家訓には甘やかされてた妹さえ逆らえないかったのだよモフミミ君。……ということで。
「一緒に作るよ!」
モフミミを甘やかす気はない。掃除や洗濯だって覚えてもらうし勉強もしてももらうつもりだよ。それにみんなで作ってみんなで食べる。その方が美味しいからね。
そうして私はモフミミと一緒に冷蔵庫から食材を取り出すのだった。
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