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第15話 ダンスメイド⑥(ダンスメイド視点)

 朝になったので、寝不足のお嬢様にご挨拶をした後、お食事を用意して天使様たちのお部屋へ向かいます。

 今度のお食事には変なものは入っておりません。質素ですが普通の食事です。


 一方、お嬢様は深夜に手に入れた草の板を床に敷いてその上で幸せそうにしていました。何か特殊な力でもあるのか非常にリラックスできるらしいのです。天使様の作られた特別な板なのでしょう。


 ですが、そんなものをお館様にお見せしたらますます天使様に執着するのは目に見えています。私はそうなる前に天使様をお救いするためお部屋に向かいノックをしました。

 中から返事がします。いいとも悪いとも言葉が分からないのですが、返事があったということは入ってよいと言うことでしょうか。


「失礼いたします」


 中に入ると天使様とモフミミさまは既にテーブルにつかれてお食事をしておられました。どうやら天使様は何もないところから食事を出せるようですね。ワゴンの中の食事は無駄になってしまいました。

 

 天使様は昨日と同じ白い衣装ですが、モフミミさんはとても可愛らしい恰好をされていますね。天上の国の衣装でしょうか。この国では見ない装いですが非常に洗練された可愛らしさを感じます。


「天使様お話があります……」

「※※※※」


 やはり天使様に言葉は通じませんか……。ですが、言葉は通じなくとも分かっていただかなければなりません。


「天使様、ここをお逃げください。これで扉を開けることができきます。深夜になら見張りが立たないように何とか工夫をいたしますので……。どうか……」

「※※※※」


 ドアノブを机の上に置くと天使様からなんだか愉快な音楽が流れ始めました。何で証拠の音楽は。なんだか食事がしたくなるような曲ですが天使様は何かをする度に音が飛び出してきますね。そういう能力なのでしょうか。しかし……。


 ああ……これはまだ分かっていませんね。首を傾げていらっしゃいます。そうですね……では逃げる真似をお見せすれば分かってくださいますでしょうか。


「天使様、逃げてください。分かりますか?こうして……こうです」


 私が手足を交互に振って逃げる姿をお見せします。一度では分からなかったようですので右を向いたり左を向いたり逃げる素振りをお見せします。すると……。


「※※※※?」


 おお、頷いておられます。何とか分かっていただけたのでしょうか。私がほっと一安心したその時でした。


「※※※※!」

「え!?」


 天使様が天を指さすとそこから音が波が降ってまいりました。街の門の時のような暴力的な曲ではなく、楽し気な曲ですね。一体何をなさるのでしょうか。えっ、えっ!?えーーーーーーっ!?


 音に合わせて天使様が……えっ!?モフミミさんも!?モフミミさんも音に合わせて体を揺らし始めました。一体何が起こっているのでしょう。ですが、目が離せません!


 そこから起きたのはまるで夢の中の出来事のようでした。

 天使様とモフミミさんが天から降り注ぐ音の波の中、体を揺らし、手足を振り、とても軽快に踊りだされたのです。

 見たことのない、それでいて規則正しく見ているだけで楽しくなってくる踊りです。ついつい私も体をリズムに合わせて揺らしてしまいます。


 いやいや、私は天使様を逃がすためにここに来たのでそんなことをしている場合では……えーーーーーっ!?何ですかあれは!?小さい天使様がたくさん飛び出してきました。何とおかわわわわわ……いえ、私は天使様をこの館から逃がし……。


「お、お可愛い……」


 ちょこちょこと短い足で天使様とモフミミさんに合わせて踊っている小さな天使様たち。そのうちの一番左側の天使様だけヨチヨチと遅れたり、ころりんと転んだり、それはもう見ているだけで可愛いのでございます。


 いけませんいけません、大口を開けて見惚れてしまっていました。

 え、えっ?何でございましょう。天使様とモフミミさまが私に手を差し出してきます。いけませんいけません。何でしょう、体がそわそわします。


「※※※※」


 ああっモフミミさんが腰をフリフリしていてとても可愛らしいです。それにとても楽しそうで……天使様もモフミミさまも笑っていらっしゃいます。いいのでしょうかこんな時に笑っていても……。


 え?もしかして私も一緒に踊りましょうとお誘いいただいているのでしょうか、いけません、いけま……あ、あああああっ!




───そして




 私が正気を取り戻したのは全てが終わったあとのことでした。

 とてもとても素敵な時間でした。天から降り注ぐ音の波の中、私は腕を振り、足を振り、腰を振り、ついには天使様たちと一緒に宙までにまで舞って踊り続けました。


 夢のような時間でした。私は一生この時を忘れることはないでしょう。皆でリズムに合わせて踊る一体感、それはとても体力を使うので今はもう息切れしてしまっていますが、今でも私の頭には今の体験を反芻してしまします。


 そしてなんということでしょう。天使様が私を『ダンスメイド』と呼ばれたのです。

 伝承によると神様や天使様は私たち下界の者達の中から使徒を選ばれると聞きます。そしてそれは洗礼と呼ばれる儀式により行われ、使徒は『洗礼名』を授かると言うのです。


「ダンスメイド……」


 それが私の洗礼名なのでしょうか。何という崇高な響きの言葉なのでしょう。どのような意味か分かりませんが、おそらく複雑な意味があるのでございましょう。


「はっ!?そ、そのような場合ではございません!」


 夢から覚めるように私はここに来た理由を思い出しました。天使様の使徒となった今では天使様にお逃げいただくのは使命とも呼べるものでしょう。


「これを使ってお逃げください。モフミミさん、天使様を頼みますね」

「ん……わかた」


 モフミミさんもきっと天使様の使徒なのでしょう。それに人族の言葉をカタコトですが分かっていらっしゃるようです。私はテーブルにドアノブを置くと急いでその場を立ち去るのでした。

お読みいただきありがとうございます。

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