第13話 ダンスメイド⑤(ダンスメイド視点)
食事が終わったと思われる時間を見計らって私たちは再度天使様の部屋へ訪れました。
『天使様が生み出したあれらの道具の一つでも手に入れることが出来れば国宝級の価値があるだろう』とお嬢様が考えてのことらしいです。それを手に入れればお館様から褒めてもらえるだろうと……。
ですが、盗みは盗み。なんとかやめていただけるようにお願いしたのですが聞いていただけませんでした。
「静かにするのよ。いい?入るわよ」
そおっと天使様のいらっしゃる部屋の扉を開けると中に入ります。しかし……私とお嬢様、そしてラビス様は中の様子を見てに目が点になってしまいました。
「……ここさっきの部屋よね?」
「……はい」
きょろきょろと部屋の中を見回すお嬢様とラビス様。もちろん私も同じようにしてしまいます。
なぜなら先ほどまであった家具類が綺麗さっぱり全てなくなっていたからです。そしてさらに部屋の中にもう一つ部屋が出来ていたからです。何を言っているの分からないかもしれませんが私にも理解できません。部屋の中に部屋があるのです。
「~~~~♪」
部屋の中に突如出現した小部屋には窓がついており、そこから湯気とともに歌声が聞こえてきます。これは……天使様とモフミミさんの声でしょうか。
「どういうことなの?私……頭がおかしくなりそうだわ!」
「お嬢様、ご安心ください。私もです」
「安心できないわよ!なんなのこれ!?あの部屋はなに!?いつの間に作ったの!?」
本当にどういうことなのでしょう。これも神の御業とでもいうのでしょうか。
何とか気を取り直したお嬢様はそんな部屋の中をまっすぐ進み、部屋の角に出来上がってた部屋の扉に手をかけましたが……。
「開かないじゃない……もう!じゃあこっちね!」
扉には鍵がかかっていたようで、お嬢様は湯気の出ている窓に乗りかかるようにして中を覗き込みました。
「なにこれ!?」
「※※※※!」
中から天使様の声がします。中で何が起こっているのでしょうか。声だけなのでよく分かりません。その後、お嬢様は窓枠が手を離して、ぴしゃりと窓が締められてしまいました。
「お風呂だったわ!」
「お風呂……ですか?」
「ええ、湯舟は小さかったけどすごくいい香りがしてたし、お湯が筒から雨のように出てたの。なにあれ!?あの獣人族の髪がすっごくつやつやになってたし!ずるいわ!」
お嬢様が地団駄を踏んで壁を叩いていますが、どうやら中には入れてくれないようです。それはそうでしょう。ここがお風呂と言うことは天使様が生まれたままの姿をしているということです。それはそれは神々しいお姿なのでしょうが、そんなものを軽々しく見ていいわけがありません。
その後、しばらく待っていても出て来ないのでその場は解散になりましたが……。
「夜中にもう一度来るわよ!」
どうやらお嬢様は諦める気がないようです。
♦
「静かにするのよ……」
「……」
「……」
本日3回目の天使様のお部屋です。いえ、深夜を過ぎてしまったのでもう次の日なのでしょうか。お嬢様は諦めるということを知らないのでしょうか。
「……いくわよ」
お嬢様が小声で囁きながら扉を押しましたが……。
「ん……んっーーーー!あれ?どうして!?」
静かにと言っておりましたのにお嬢様は扉をガタガタと揺らしています。そんな音を立てていたら天使様が起きてしまわれるのではないでしょうか。
「開かないわ!ラビスやってみて!」
お嬢様は護衛騎士として鍛えてらっしゃるラビス様にお任せするようです。しかし……。
「はい……これは……んむぅーーーー!」
さすがラビス様。扉がたわむのではないかと言う力で押しておりますが……それでもビクともしないようです。
「どうしてよ!カギでもかけたの!?」
「いえ、この扉は外からは開くはずですが……」
「もういいわ!ねぇ!開けて!開けなさい!!」
先程までの『こっそり入る』という言葉はどうしたのでしょう。お嬢様は扉を叩き続けます。もう諦めたほうがいいのではないでしょうか。
「※※※※!」
中から声がしました。天使様の声です。本当にこんな夜中にお嬢様が申し訳ございません。
「開いた……って……ええええええええええええ!?」
お嬢様が再度扉に手をかけるとすんなり中に入れました。天使様が開けてくださったのでしょうか。
ですが……なんとういことでしょう。部屋の中の様子が先ほど来たときとまた変わっております。
「なによこれ!?来るたびになんで変わってるの!?」
お嬢様が混乱しておりますが、私ももちろん混乱しております。部屋の角に部屋があるのは先ほどと同じですが、床一面に何かが敷かれております。そのうちの2枚ほどが入り口の横に立てかけられておりますが……これは草を編み込んんだ板でしょうか。
なんだかホッとする香りがします。
その草の板の上にはとても上質だと思われる布団が敷かれていておりますね。恐らくそれで天使様とモフミミさんは寝ておられたのでしょう。
さらにこの部屋の明るさは何なのでしょう。蠟燭の燭台が無くなっており、その代わり天井に何やら光る半円状のものがついています。それが部屋全体をまるで昼間のように照らしているのです。
「この床……それにこの光とかその布団とか何なの!?」
「※※※※!」
どうやらお嬢様が混乱から立ち直られたようです。しかしその元気も天使様の声でかき消されてしまいました。『モフミミガネテルデショーガー』とまた神言をいただきました。意味は分かりませんがきっと世の中の理不尽を憐れむような言葉なのでしょう。
ですがさすが天使様のお言葉。言霊とでもいうのでしょうか。その言葉を聞いて私もお嬢様もラピスさまも足が震えてしまっていました。
「ふぁぁ……」
どうやらモフミミさんが目を覚まされたようです。しかし、あれだけの音でまだ目を覚ましてなかったとはモフミミさんは意外と大物なのかもしれませんね。
「おトイレ……」
モフミミさんは立ち上がると部屋の中の部屋に入り、しばらくすると出てきました。そして水の出る魔道具のようなものを操作するとコップに汲んでクピクピと飲み、そしてそのまま布団へとお帰りになりました。
『かもしれない』どころではなく、モフミミさんは大物に違いありません。天使様はそんなモフミミさんを笑顔で見守っていますね。
「お嬢様……今のうちに」
「そ、そうね……」
天使様の気がそれたその隙をついてお嬢様とラビス様が何をしたのかと言うと、入り口に立てかけれた草の板に手をかけるとそれを持って出て行ってしまいました。あっという間の出来事です。
天使様に恐れをなしたと思っておりましたが、隙を伺っていたのでしょうか。私は天使様に一礼をすると出ていくことにします。
「夜分に申し訳ございませんでした。おやすみなさいませ」
私は部屋を出ると考えます。
本当にこのままでよろしいのでしょうか。お嬢様とラピス様がなされていることは明らかに犯罪です。いえ、『庶民なら犯罪』というのが正しいでしょうか。貴族様の罪を裁くことが出来るのは貴族様だけなのですから……。
「天使様とモフミミさんをお救いしなくては……」
知らず知らずのうちに心の声が出てきてしまいました。
そうです。天使様はこれからもっと多くの人をお救いし、世界に光をもたらす方と伝承で詠われております。特定の誰かのためだけに利用されていいはずがありません。
それにモフミミさんも人質のように捕らわれておりますが、天使様に言うことをきかせようとお嬢様やお館様が今後どのような酷いことをしようとするのか……。それを思うとこんなところで見張りをしているわけにはいきませんね。
「申し訳ございません、お嬢様。お館様」
明日にはお館様が戻って来てしまわれます。そうなってしまっては私にはどうにもできなくなってしまうでしょう。
天使様のために……今しかない……そう思うと勇気が湧いてきます。
私は部屋に戻らずに倉庫部屋へ行きます。そこからドアノブを探し出しました。
あの監禁部屋の内側のドアノブです。
これを差し込んで回せば内側からでも扉は開くことが出来るはずです。扉を開けっぱなしにしておくことや、私が天使様たちを連れ出すことも考えましたが、私の姿が見えないと怪しまれるかもしれません。なんとかこれをお渡しして天使様に逃げていただくことにいたしましょう。
お読みいただきありがとうございます。
もし興味がありましたらブックマークや↓の☆で評価いただけると励みになります。




