第11話 お風呂とドレミの歌
吾輩は天使である。名前はまだない。
こんにちは、私です。いまだに捕らわれの身です。夕ご飯はモフミミが美味しくいただきました。とても美味しそうに食べてくれて私も満足です。野菜は嫌いなようですが、食べさせました。
食後、しばらく待っていたのだけど誘拐団からの接触はない。暇ね……。なにしよう。
あらためてモフミミを見る。うん、可愛らしい顔をしているね。ご飯を食べたからか顔色も良くなったみたい。最初げっそりした顔してたものね。でも……。
「モフミミは汚れてるなぁ……」
部屋が暗くて良く見えないが服はボロボロだし、顔も手も汚れていた。
しまった、食事前に手を洗わせるべきだった。あちゃー、それもこれも部屋が暗いのが悪いのよ。今時ロウソクの灯ってそれはないでしょ。暗いのよねー、この部屋。
私は目を瞑ると記憶を探る。明るいもの……明るいもの……。
「いでよ!LED照明!」
ミラーボールとどっちにしようか迷ったがここは照明器具でしょ。私は想い出箱からLED照明を取り出すと天井に設置。ちなみに生前にノリでミラーボールを買ってきて居間に設置した私はお母さんからすごく怒られたことがある。解せぬ……。
照明は……うん、ちゃんと電気ついてるし、明るいね。よく分からないけど想い出箱から出すものって中と繋がってるみたいで電気とかガスとか水道も使いたい放題なのよね。便利だからいいけど。
「※※※」
「大丈夫だよ、モフミミ。これはただの明かりだから」
急に明るくなって目をパチパチさせているモフミミ。眩しかったかー。でもそのおかげでモフミミの全容が白日の下にさらけ出された。『白日』じゃなくてただの白照明だけどね。
「うわぁ……やっぱり汚れてるなぁ」
髪に何かくっついちゃってるし、服もそこここが破れたり汚れが付いていたりする。靴を履いていない足は泥だらけだ。
「これはお風呂入らなきゃ駄目だよ」
「※※※?」
うーん、どうしよう。この部屋の家具とか邪魔だなぁ。照明はロウソクだったし、ベッドも固そう。クローゼットとかいらないし、よく分からない壷も置いてある。
ん?壷を見てたらモフミミがなんだかモジモジしだした。股間の辺りを抑えて壷を見ている。え、モフミミ?もしかして?それってご飯を食べた後したくなることじゃないよね?
モフミミが壷に向かって歩き出す。
「ちょっと待ってモフミミ!それは乙女として駄目だよ!ああ、もう!この部屋の家具全部いらない!私の想い出になってしまえ!」
私は部屋にあるすべての家具を想い出箱につっこむ。
よし、綺麗になった。後はモフミミの緊急事態を収拾するだけだ。
「いでよ!我が家のおトイレ!!」
想い出箱から取り出したるは私の実家にあったトイレだ。当然ウォシュレットと温熱便座付だよ。周囲の壁やドアごと部屋の隅に設置!
「※※……」
ふと横を見るとモフミミが壷を消されて泣きそうになっていた。
「ち、違う!違うのよモフミミ!早くこっちに!」
モフミミの手を引いてトイレのドアを開けると便座を指さす。
「これトイレ。分かる?トイレだよー?ここでするんだよー?」
「?」
くっ……言語の壁は厚い!なんで私は異世界語を勉強しておかなかったのか!
仕方ないのでモフミミのズボンを下して便座に座らせる。
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モフミミはおトイレスキルを覚えた。生活レベルが1上がった。
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私は脳内にそんなメッセージを思い浮かべる。はぁー。間に合ってよかったよ。
水の流し方もウォシュレットやトイレットペーパーの使い方もすんなり覚えてくれた。この子は結構賢いかもしれない。
「さて、お次は……」
目の前には照明とトイレ以外ない空虚な部屋。物足りない……ということで次に出すのはお風呂だ。これは部屋のもうひとつの角でいいかな。
想い出箱に手を突っ込んでお風呂を取り出す。もちろん浴槽だけじゃない。脱衣所や洗面所、タオル棚や電気ガス照明付、壁やドア、鍵ももちろんかかるし、換気窓も付いている。
「※※※※」
「さあ、モフミミお風呂に入るよ」
モフミミが何か言っているが問答無用でお風呂へ連行。部屋の電気は消しておく。電気代がかかってるのかどうか分からないけれど省エネは大切だ。
それにしても猫っぽいしモフミミはお風呂が嫌いなのかな?でもその汚れは見逃せないよ。
「服を脱がすよ」
脱衣所で私も服を脱いで裸になるとモフミミの服も脱がす。
うーん、天使の私が裸になるとあれだね。ラッパを持ってマヨネーズのCMとかに出てくるみたいな感じになってしまった。セクシーさの欠片もないね……くすんっ。
「そこに座ってね」
気を取り直して浴室に入るとモフミミを椅子に座らせて上からシャワーでお湯をかける。
「※※※※」
ウニャンウャン言ってるけどこれは言葉なのか鳴き声なのか。うーん、可愛いからもっと鳴いてください。
お湯に流されてモフミミの体から驚くほど汚れが取れていく。うんうん、綺麗になっていく様を見るのは気分がいいねえ。
ちなみに私はなぜか全く汚れないのでお風呂に入る意味のひとつを失ってしまっている。それでも気持ちがいいから入るけどね。
「次シャンプーするよー」
モフミミは子供だし目に染みるのは可哀想かな?あ、そうだ。子供の頃使ってたシャンプーハットがあったはず。
シャンプーハットをモフミミにフェードイン!
「うーん……」
ミフミミは耳が頭の上にあるから引っ掛かりがないなぁ。このままじゃストンと落ちちゃうじゃない。モフミミ族の人たちは眼鏡とかどうやってかけるのだろう。
「※※※※」
モフミミがシャンプーハットを頭から首まで行ったり来たりさせてキャッキャと遊んでいる。うん、もういいよ、そういうおもちゃだよ、それ。楽しんでくれた何より。
「ちょっと目に染みるかもだけど我慢してね」
シャンプーでモフミミの髪を洗っていく。うーむ……泡立たない。汚れが多いとシャンプーが分解されちゃって泡立たないって聞いたけどそれかな?
何度か洗い流しすと泡立ってきた。
モフミミの髪も艶々してきたねえ。これは乾いた後にはモフモフ度が爆上がりではないですか?くくく……後で触らせてくれるように頼んでみよう。
「※※※※!」
そんな不埒な妄想をしてると怒号とともにドンドンドンとお風呂の壁が鳴り出した。何事!?これは……外かな?
これからリンスして体洗って一番気持ちの良い入浴タイムが待ってると言うのに……。
「ちょっと何なのー!?きゃー!」
換気窓から顔が現れた!……誘拐姫だ!さっきの声は寸止め侍か!?何?この人たち誘拐だけじゃなく覗きもやるの!?さすが犯罪者!これで前科二犯だね!
でも相手も女の子だし、覗きじゃない……のかな?いや、マナー違反ではあるよね。でも言葉は通じないので……。
「べー」
子供らしくあっかんべーをしてみました。横をみるとモフミミも私を真似てあっかんべーをやってる。うーん、可愛いなぁ。
対して誘拐姫は顔を真っ赤にしてる。通じたのかな?おこなの?え、ちょっと小窓から中に入ろうとしないでよ。無理無理、頭つっかえるって!
「いい加減にして!」
このままじゃいけないと開けてた小窓をピシャリと閉めようとした……んだけど誘拐姫の顔がはさまった。うわぁ……痛そう。
「あ、ごめん、大丈夫?」
少し窓を開けると顔が引っ込んだ。どうしよう……えーと、閉めちゃえ!換気窓を部屋側につけたのは失敗だったかなぁ。
ガンガン。
でも壁側につけても意味がないし仕方ないか。
ドンドンドン。
「ああ、もう……うるさいなぁ」
今度は扉が叩かれている。いや、蹴られてるかもしれないけど……残念でした!現代建築のドアがその程度で壊れるわけないでしょ。
ドンドンドン。
あー、もう。でもうるさくてゆっくりお風呂に入れそうにないなぁ。
そうだ!私は想い出箱にドアを叩く音や衝撃をしまってしまおう。何でも想い出に出来るしいけるでしょ。
「想い出箱オープン!」
うん、成功!静かになった。想い出として音が中に入り続けてるんだろうけど……たぶん二度と聞くことはないけどね。
「さて静かになったし体を洗って暖まろうか」
私が湯舟に入るとモフミミも恐る恐る入って来た。湯舟はそんなに大きくないけど私もモフミミも小さいから結構余裕がある。ちょっと翼が邪魔だけどね。
「はふー」
「※※ー」
お湯に入ると声が出ちゃうよねー。柑橘系の入浴剤の香りがいいねー。
「♪ふんふんふーん」
お風呂に入ると歌も歌っちゃうよね。体が子供に戻ったから子供らしくドレミの歌でも歌おっかなー。
「♪ドーはドーナツのドー」
そんな感じで気分良く歌い終わるとモフミミが私をじーっと見つめていた。どうしたの?
「♪ドー?」
おお……モフミミも歌が好きなのかな?ちゃんと音程があってるじゃない。一緒に歌っちゃう?
「♪ドレミー」
「♪ドレミー」
モフミミが私に合わせてくる。これも見事に全部音程があってる。音楽知らない人だと『ドドドー』とかいう音程で口でだけ『ドレミー』とか言っちゃってるからね。モフミミの音感は良さそうだね。
「♪レーミーファー」
「♪レーミーファー」
いいねいいいね。楽しくなって二人でドレミの歌を歌い続けることになった。
そして……私とモフミミがゆっくりとしすぎるくらいお風呂に入ってのぼせながら外に出た時には誘拐姫たちはいなくなっていた。うーん……長風呂だったからかな。
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