プロローグ ~旅立ち~
- トリスタン王国 アナクロス領 アナクロス家 屋敷 -
12月の寒空の中、屋敷の庭で、2人の少年が模擬戦を行っていた。
「行くぞ!レイ!!」
「はい!」
レイと呼ばれる少年が劣勢だ。
「どうした?レイ? そんなものかぁ!?」
「くっ、、、くそっ!」
ガッ!
1人の少年の激しい剣撃に、レイの手から剣が離れる。
「、、、。参りました、アホーズ兄さん。」
レイが両手をあげ、「参った」のポーズをみせる。
「はっ!相変わらず張り合いがねぇな!練習にもならねぇ。そんな実力じゃ、もらえるギフトもたかがしれてるだろうな。」
「、、、。そうかも知れません。」
「アナクロス家は剣でのし上がった家だ。剣が振るえないやつはいらねぇ。授かるギフトによっては、お前、覚悟しといた方がいいぜ。」
そう言って、アホーズは屋敷に帰っていった。
「ふぅ、、、。」
レイは、ため息をつくと、屋敷の近くにある掘立て小屋に帰っていった。彼は屋敷に住むことを許されておらず、この小屋に住んでいる。
「おかえりなさい、レイ。」
「ただいま、オードリー。」
レイが帰ると、双子の妹、オードリーが待っていた。
「もうすぐ、兄様が帰ってくると思うわ。そしたら、教会に向かいましょう。その前に、クルスと料理を作ったから、食べましょう。」
「ありがとう!そうだね。久しぶりに兄さんに会えるは楽しみだな。昨日は会えなかったからなぁ。」
「冒険者としても一流だから、引っ張りだこなのよ。あの人は知らないみたいだけど、、、。昼ぐらいには依頼を片付けてこっちに来るって手紙きてたから、もうすぐじゃないかしら。」
「そっか!じゃあ、料理を頂くとしよう。」
レイとオードリーは食事にすることにした。
「ごちそうさまでした。今日もおいしかったよ、ありがとう。」
「ふふ、ありがとう。そういえば、アホーズとの模擬戦は大丈夫だったの?ケガとかはしていない?」
「大丈夫、大丈夫。適当に打ち合って、やられたフリしたから。何か、アホーズの動きって、遅いし、読めるんだよね。」
「すごいわね。あんなのでも【剣豪】よ。レベルは私たちと変わらないって聞くけど、、、。」
「たぶん、レベルじゃないかな。あいつ、実戦もした事ないって聞くし。」
レイとオードリーは、小屋では「アホーズ」と呼んでいる。つまり、彼らはアホーズを兄と思っていない。彼らが、兄と思っているのは、長男のリュウだけだ。
3人は、現アナクロス家の当主、ムノー・アナクロスの正室、ベラの子どもだ。ベラは身体が弱く、レイとオードリーを出産した後に若くして亡くなっている。
ベラが亡くなった後、側室だったドロシーがムノーの寵愛を受け、ドロシーの子である、次男アホーズにムノーの愛は集中した。
結果、リュウ、レイ、オードリーは彼らから虐げられ、屋敷に住むことを許さず、屋敷の近くの掘立て小屋に住むことになる。
ムノーからは、3人は何も恵んでもらえなかった。
長男のリュウは、普段は王都の学園で寮生活しながらも、まとまった休みにはアナクロス領に戻り、冒険者として活動し、レイとオードリーの生活費を稼いでいた。
現在、リュウは、学園卒業前の最後の大きな休みで、戻ってきているところだった。
「ただいま!レイ、オードリー、元気にやってるか!?」
「兄さん!お久しぶりです!!」
「私たちは元気にやってます。兄様もご活躍されていて、私たちも、嬉しいです。」
「2人とも元気で何よりだ。食事はすませたか?それじゃあ教会にむかうか!」
「「はい!!」」
3人は小屋をでて、教会に向かった。
「どんなギフトになるか、心配か?」
「そうだね。兄さん程ではなくても、冒険者としてやっていけるのがいいかなぁ。」
「ですね。でも、どんなギフトだって、3人なら上手くやっていける気はします。」
「そうだな!でも大丈夫だよ。今まで多くの人を見てきたけど、大体ステータスを見ればどんなギフトになるかわかるんだ。正直、お前たちの初期ステータスは異常な程高い。きっと素晴らしいギフトになるよ。」
「ありがとう、兄さん。そうだといいんだけどなぁ。」
そして3人は教会に到着した。
「さあ、いっておいで。大丈夫だから。」
「では、私が先に行ってきます。」
オードリーが先に司祭の元に向かった。
そして、祈りを捧げるとオードリーを光が包んだ。
「多分、オードリーは【聖女】だな。」
「えっ?」
リュウが呟き、レイが驚く。
そして、ギフトを授かったオードリーが戻ってきた。
「やりました、、、!【聖女】を授かりました。」
そう言って2人に笑った。
「おめでとう、オードリー。」
「すごいじゃないか!!!おめでとう!、、、でも、何故兄さんはわかったの?」
「え?私が【聖女】だとわかっていたのですか?」
「はは、まあね。さっき言ったように、大体ステータスを見ていればわかるんだ。オードリーは、【巫女】になった子のステータスに似ていたけど、それよりも遥かに数値が高かったからね。」
「そうなんだ。いや、でもすごいよオードリー!」
「ありがとう。次はレイの番ね。」
「そうだね。ちなみに兄さんは僕のギフトも分かるの?」
「実は、レイのは想像がつかないんだ。ただ、ステータスは非常に高いから、間違いなくいいギフトになるよ。」
「そっか。ありがとう!行ってくるね!」
「「いってらっしゃい。」」
レイは司祭の元に着くと、祈りを捧げた。
すると、レイの身体を光が包んだ。
「おめでとうございます。スキルを授かったようですな。」
「ありがとうございます!」
そして、2人の元に向かう前にレイは自身のステータスを開き、ギフトを確認した。
「ギフト【異世界兵器】、、、?」
2人の元に戻ると、レイは兄に質問した。
「兄さん、無事に授かることができたよ。でも、ギフトが全くわからないんだ。」
「おめでとう。どんなギフトだったんだ?」
「【異世界兵器】と書いてあったんだけど、どんなギフトなんだろう?」
「いや、、、聞いたことがないな、、、新しいギフトかも知れない。ちょっと鑑定するよ、、、!?、、、これは!?」
「どうしたの?」
「レイ、もしかして、ギフトの欄に、星が6個ついてないか?」
「えっ?」
「えっと、、、いや7個あるかな。」
「「えっ?」」
「え?どうしたの?2人とも」
「、、、どうりで俺が鑑定できないわけだ。レイ、お前はやはりとんでもないな。俺は【剣神】で、星は5つ。オードリーも【聖女】で星5つ。これが今のギフトでは最上位と呼ばれているんだ。」
「星の数はレアリティだけでなく、強さに結びつくといいます。レイの星7つはもしかすると、最上位、、、?」
「間違いなくそうだな。、、、よし!帰るとしよう!一応、ムノーにも報告しないとだからな。」
「はい。」
3人は教会をでて、屋敷へと歩き出した。
「ムノーには、オードリーは【僧侶】(★★)、レイは【異世界兵器】と言っていいが、星1つと報告するんだ。」
「大丈夫?そんなことしたら、追放されることもあるんじゃ、、、。」
「いや、追放されよう。」
「えっ??」
「私も賛成だわ。あそこにいても、今後何もいいことないし、冒険者としてもこの3人なら生きていけるわ。」
「そうだ。あと、言ってなかったが、俺は学園でほぼ主席の成績なんだ。トリスタン王国の第1王子にも目をかけられてて、卒業したら王子お抱えの冒険者になる話ももらっている。十分に食い扶持はあるぞ。」
「「すご。」」
「むしろ生活はよくなるよ。だから、早くここからでよう。」
兄にそう言われ、2人は家を出る決心をする。
「生まれたこの土地から離れるのは残念だが、必ず幸せになろう。屋敷に着いたら、先に母さんのお墓に挨拶に行こう。」
「「はい。」」
「あ、あとクルスもくるぞ。話はしておいた。」
「よかった!クルスとも一緒にいれたらって思っていたの。」
「はは、そうだな。」
リュウはかなり前から、家を出ること決意していた。
実際、彼は親であるムノーに、自身が【剣士】(★★)と嘘をついていた。
そして、学園や冒険者としての活躍も一切、ムノーに知らせなかった。
2人が、ギフトについて嘘をつくと、案の定ムノーは激昂した。
「な、なんと!!剣で名を馳せた我が家において、【剣士】も授からないとは、、、!しかも、揃って使えないギフトじゃないか!」
「「はい。」」
「父上、こいつらがこのまま我が家にいても、アナクロス家の名が汚れるだけだ。」
アホーズも想像通りに、援護している。
そして、
「そうだ!貴様ら無能などいらん!!家から出ていけ!!」
兄弟に、家から出て行く命令が下された。
「「はい、そうします。」」
「私も、この子たちとこの家を出て行くことにするよ。」
「「、、、えっ?」」
そしてあっさり兄弟はそれを受け入れた。