08*回り道をしたせいでもう手が届かない
お題先なし。 『君のこと目で追わなくなった』彼視点。
ふとした時に目が合う。
そんな僕らはよく廊下で、その度に喋ってた。
僕が声をかけると彼女は笑う。
それがいつの間にか僕の日常になっていた。
クラスの女子の一人に告白されて何となく付き合い始めた。
それが全てのきっかけで。
僕の日常は少しずつ壊れていったんだ。
――目線が合わなくなった。
――彼女が僕に対してよそよそしくなった。
何故、と僕は思っていた。
……僕はきっと重要な選択を間違えてしまったんだ。
彼女との日常が日常でなくなった頃、やっと気付いたのは彼女への気持ち。
よく目が合っていたのは、僕が目でいつも追い掛けていたから。
その日常が壊れてしまったのは、その日常が当たり前のことで、彼女は僕にいつも笑ってくれると過信していたから。
愚かなのは、自分の気持ちにさえ気付かなかった、自分。
そんな僕から離れていってしまったのは当然。
でも、また隣で笑っていて欲しいと思う。
一度は壊れてしまった日常を取り戻したいと願ってしまう。
僕は自分が気付かなかっただけで、彼女が最初から好きだったんだ。
いつも優しく微笑んでくれた彼女が。
ねぇ…もう一度あの澄んだ鈴のような声が聞かせて。
ある時、ふと見つけた君の姿。
それは遠く、後ろ姿ではあったけれど、彼女だと断言する事が僕には出来た。
直ぐ様走り寄って、声をかける。
「……あ、久しぶり」
偶然を装う僕。何だかかなりカッコ悪い。
でも、それでも、彼女の声が無性に聞きたくて。
彼女の瞳に僕を映してほしくて。
「……久しぶり」
懐かしい愛しい彼女の、声。
笑顔を向けてはくれたけど、それは何だか前に向けられていた笑顔とはどこか違う。
そう、無邪気さが足りないんだ。
今まで彼女は純粋に笑い時だけ笑ってた。だからその笑顔は透き通ってて、綺麗で。他人なんていう壁なんか微塵も感じさせなかった。
でも今向けられている笑顔は違う。誰にでも向ける余所行きの笑顔。
僕はそんな笑顔を見たかったわけじゃない…。
そんな風に思って、気付く。
彼女は僕を『特別』に思ってくれていたのではないか?
それが恋愛感情ではなくとも、僕と同じように、あの日常が恋しいと思ってくれていたのではないか?、と。
都合の良い解釈だと笑われても良い。
確かに僕達には、他の人とは違う、もっと別の絆があったのだ。
もう僕を『特別』と見てくれてないと分かっていても。
やっと気付いたこの気持ちを持て余してしまうばかり。
「そっちはまだまだ『彼女』とラブラブ?」
……君は知らないんだね。その子とはもう随分前に別れてるんだけど、な。
『特別』視しなくなった僕のことなんて、もうどうでも良いと言われている様で心が痛んだ。
君が僕の『彼女』に遠慮なんかして遠ざかっていったのは気付いてた。
だから、僕に『彼女』なんていなかったら、君は僕の隣で又笑っててくれるかな、ってちょっと思ってたのに。
『好きな人と上手く行くと良いね。あっ、私もう帰らないとじゃあねっ』なんて直ぐに僕に背を向け去っていく君。
好きな人は君、なのに。
また、君は僕の見えないところにいってしまうの?
――僕の隣はいつもぽっかりと空いてしまっている。
……君を好きだと気付いてから。
回り道をしたせいで
もう手が届かない
(この穴を埋めるのは)
(きっと)
(彼女しかいないのに)




