07*いまでもあなたが好きです
お題先『確かに恋だった』 余命数か月の彼とそれを知らない彼女。
好きだった、なんて過去形に出来る程この恋は浅くなかった。
初めて会った時から君を想わない日は無い程君に溺れている自分がいた。
でも今日、俺は君に別れを告げる。
辛い。苦しい。傍にいてほしい。
そう願ってしまうけど、それを口に出すことなどしてはいけない。
「……俺達別れよう」
「……っ、!なっ、何でっ!?」
「君のこと、もう愛せなくなった」
半分嘘で半分本当。
君のこと今でも愛してる。きっと最期の瞬間まで俺の胸の中には君がいる。
――だから嘘。
君のことをもう幸せにしてあげられない。もうこの手で君を愛せない。
――だから本当。
君は俺の言葉に含まれている意味に気付いたかな。
そのまま言葉通りに『君を好きじゃなくなった』ってとってくれるかな。
「……ゎ、私のこと…嫌いに、なったの…?」
彼女の頬に綺麗な涙が伝っていく。
彼女を泣かせたくはない。
彼女の涙は胸が痛い。それが自分のせいであればある程。
「嫌いになった訳じゃない」
ごめんね。はっきりと言えなくて。
嘘でも君を好きじゃなくなったなんて言いたくはないんだ。
「……私、の何、が悪かった…のっ?」
「君に非はない」
悪いのは俺。
君を一人残して逝ってしまう俺だから。
だから、俺なんかを想って泣かないで。
「今までありがとう」
これが最期の挨拶。
もう君に会うことなんて無いから、もう一言だけ続けさせてほしい。
「君に出会って、君の隣に居れて
――幸せだった」
最期だけ、隠してない自分の言葉。俺の本心。
彼女がまだ何か言いたそうにしていたけど、気付かない振りをしてきびすを返した。
もう彼女の傍には居られない。
これ以上泣いてる彼女の傍に居たら、彼女の温もりを求めて彼女を壊してしまう。
そして、傍に居てくれと願ってしまうだろう。
彼女もきっと傍に居てくれる。だって、彼女は優しい人だから。
だけど、その結果傷付くのは彼女。涙を流すのは彼女。
だって彼女は泣き虫で寂しがり屋だから。
そんな彼女の姿を見るのは何よりも辛い。
だからどうか忘れて。
俺のことなんて記憶の隅にも残しておかないで。
いまでも
あなたが好きです
(願わくば、)
(彼女が)
(俺以外の人の隣で)
(幸せになってくれますように)




