05*魅せられて。
お題先なし。 ヴァンパイアもの。
ヴァンパイア。
―――それは妖しくも美しい生き物。
人間の血を糧とし、人を虜にし、人形とかせる。
そんなヴァンパイアに魅せられた人間がここにも一人。
「セレア、何をしている?」
黒髪紅瞳の青年は声を発した。
その瞳は血のように淀み、それ以上に輝きを放つ。
この瞳に私は囚われてしまった。そのことに後悔などあるはずもない。
「庭を…庭を眺めていたのです」
「そうか。そんなにこの庭を気に入っているなら、お前に与えよう。好きにするが良い」
ただ貪欲に血を求める時とは違い、今の彼の瞳には優しさも混じり、一層私を惹き付けて離さない。
「……いえ。この庭はこのままで」
「不満だったか?」
「その逆です。私にはこの美しい庭は勿体ないですから」
そう。この美しい庭は、この屋敷の主、貴方様にしか似合わない。
私はただの餌。
そんな私を優しく傍に置いて下さってる事すら、勿体ないと思ってしまうのに。
「……レイティア様」
「レイで良いと言っているだろう」
「……何故、私を傍に置いて下さっているのですか?」
私は妖しくも美しいヴァンパイアに魅せられた人間の内の一人。
ヴァンパイアは人間の血の最後の一滴まで吸い尽くすという。
何故、私は血を吸われながらも生きている?
――否。既に答えは出ている。
私を虜にしたこの美しきヴァンパイアが私を生かしているのだ。
「そんなこと、分かり切っていることだろう?」
幻想的な月に照らされて、ヴァンパイアは妖艶に微笑む。
そして、私を強く抱き締めた。
私が彼の胸に顔を埋めると、彼は私の肩に頭を預ける。
それは正に仲睦まじい恋人の姿。
「……セレア、お前を愛しているからだ」
魅せられて。
(私は人間、ですよ?)
(知っている)
(私でいいんですか…?)
(お前でなければ意味がない)




