14*この心がこんなにも騒ぐのは、
お題先なし。 『貴女にこの命と忠誠を。』彼女視点。 前半ロザス(ロザルハ)とアリーシアの出会い。
「おい、お前大丈夫かよ?」
『族』に襲われていた私にかけられたのは呆れを多大に含んだ聞いたことがない男の声だった。
黒い髪と瞳。
そんな色を持つ人なんて見たことなくて思わず瞠目してしまう。
つい自分の置かれた状況も忘れて男に見惚れていた。
「――…い!おい!!」
「…っ!あ、えと…な、何でしょうか…?」
「ったく。こんな夜中に外に出てたら、襲ってくれって言ってるもんだろーが」
「……、」
「今回は俺が追い払ってやったけどよ、それも今回限りだぜ?」
その言葉に周りを見回すと、何人もいた『族』が一人も居なくなっていた。
この人が追い払ってくれたのか…。
「あの…お礼を…」
「ん?お礼?んなのいらねーよ。今回は俺の気紛れだし。
それにどっちかってーと俺も『族』側の人間でね。感謝される程良い奴じゃない」
「『族』側の人間…?貴方はこんなにも優しいのに…」
私がついそう漏らすと、男は苦笑して言う。
「気のせいだろ」
そう言う男の瞳には微かに哀しみの色が浮かんでいて。
何故だか凄く胸を締め付けられた。
「お名前を教えて頂けませんか?私、貴方の名前が知りたい」
せめて名前だけでも。
貴方ともう会うことは出来ないだろうから…貴方のことを知れるチャンスは今しかないから。
貴方が自分のことを聞かれたくないタイプだって分かったけど、やっぱり何か貴方と繋がるものが欲しい。どうしてそう思うかなんて分からない。今は知らなくても良い、そう思うから。
「……変な嬢ちゃんだな」
そう言って笑う男が何だか眩しくて。
あたしが何でこんなにこの男に惹かれたのか、この時は全然分からなかったけど。
後から、この男の自由さに憧れていたんだと気付いた。
「変、ね。そうかもしれない。私は籠の中の鳥。世界を知らない無知な鳥」
「……?」
男は怪訝そうな顔をした。
その目は何が不満なのかと静かに問い掛けていた。
私の事情を知るわけがないのに、何故私はこの時口を滑らせてしまったのだろう。
この男なら理解してくれるとでも思ったのか…。
私は一国の隠された王女。
名前すら殆んど知れ渡っていない第一王女。
存在だけは国民にも知れ渡っているが、姿も見せず、その存在も嘘ではないかと言われ続けている王の娘。
王宮という籠の中に押し込まれ自由のない希薄な娘。
それが“深窓の姫君”である私。
私達は何だか似ている気がするの。
「私はアリーシア。貴方のお名前は?」
「……ロザス。それで良い」
そう言って背中を向けて去っていくロザスの姿に胸が痛んだ。
……もう会えない。
そう思っていたのに。
「私、ロザルハーレス=メルシアはアリーシア=ステレス様、貴女様だけに心からの忠誠とこの命を――…」
片膝を着き頭をたれる、騎士の絶対的な忠誠を示す形。
「……ロザ、ス…?」
畏まった礼と言葉遣いではあったが、その姿と声は紛れもなく、もう一度会いたいと願っていたロザス。
ロザルハーレスと名乗った男は、優しく私に向かって微笑むだけ。
それは暗に肯定を示していて、泣きそうに、なった。
……あぁ、私はこの人にいつの間にか心を奪われていた…。
「――ロザスっ、!」
片膝を着いているロザスに飛び込むと、ロザスは一瞬目を丸くしたが、すぐに優しく笑って受けとめてくれた。
この心が
こんなにも騒ぐのは、
(貴女を忘れたことなどなかった…っ!)
(俺もだよ)
(……これからは私の傍にいてくれる?)
(当然)