【入り組み交わる路面電車】 file,03
ごめんなさい、ちょっと年末コロナやら手術やらで忙しくて、1月はちょっと卒業論文が……連載再開していくので暇があればよろしくお願いします。
正面に陣取るナギサが縦にその剛腕を振り上げ、振り下ろす。それだけで、影が直線上に文字通り消し飛んでいく、恐らくこの状況で一番強いのはナギサ、次点でアタル、最後に俺だ。
なので俺は俺に出来ることをやる、一瞬できた道を駆け抜ける上で邪魔になる敵への牽制、バックアタックの警戒!
「何となく敵の流れは読めた、先生が円形状に敵を殲滅してるから分かり辛かったが、あのトンネルの奥からだ」
「三方向からに見えるのは単純に量が多いからってことか、オッケー」
「ただ、あのトンネルに突っ込むとなると、先生の前にいるあの密度の影共をどうにかする必要がある、いけるか?」
「しかたないなー、凪様の本気を見せてやろう、光栄に思えよきみたちー」
「足手纏いになる気は無いぜ、ぶっ潰してやる!」
敵を薙ぎ払いながら、段々と先生のところへと近づいていく。気力的にも体力的にも消耗はあるが、傷はほとんどない、せいぜいかすり傷くらいだ。嘘、ナギサは全然疲れている気配がない、化け物かあいつ?
「先生! キリがないので元を断ちに行きます、通っても構いませんか!」
「ん? おお、お前らが進むのか、今回は3人ね、よし、ちょっと道開けてやるからちゃちゃっとやってこい」
そう言うと先生はコンマ何秒動きを溜め、タクティカルバトンを振り抜いた。同時に、空気が破裂するような音が響き、視界を埋め尽くしていた影達が一瞬視界から消えた。
その隙を見逃す理由もない、俺も2人も言葉もなく駆け出す。一瞬にして再発生したやつらを相手にしながら少しずつ進んでいく。
「ああぁ、密度がやべえぜユイ! これじゃ全然進まねえ!」
「進んでる! 徐々にだけど! まぁ、ジリ貧なのはその通りかもしれないけど!」
「仕方ない……私が本気を出してあげよう、光栄に思うと言いよ、唯斗くん、ひれ伏せサイコロ」
「俺の扱い酷くねぇか!?」
アタルの抗議の声を無視してナギが、一本踏み込み、腰を落とす。
『偽りの枷を解き放ち、真なる姿にてその神威を示す、限定顕現』
彼女がボソボソと何か呟くと、その姿に明確な異変が起こり始める。
髪が靡き、ゴムのような質感へと代わり、先端には尾ビレのようなものが生え、袖が広がり胸ビレへと変わる、その姿は鯨のように見えたが、直感がその本質の異常を感じとる。
『私の領域で溺れて死ね! タイダルウェーブ!』
同時、彼女が踏み込んだ足の一歩先から、全てを押し流すように潮水が海流が発生する、そのまま津波とも言うべきそれは敵を全て押し流し、一瞬にして視界が晴れる。
「よっしゃ、言うだけはあるじゃねえか! 全滅だ……おい、嘘だろ?」
実際に俺も倒したと思った、けれどそんな予想を裏切るように、一瞬でその黒い影は湧き始めていたのだ。
それでも、ナギが作ったこのチャンスを無駄にすると言う選択肢は無かった、視界が晴れた一瞬、奥にある魔力の込められたナニカが見えた、恐らくあれが核であろう。そして、この数なら俺は躊躇わずに突っ込める。
「アタル! 援護頼んだ! 俺は核をぶっ叩く!」
短刀を構え、続々と湧いてくる影の隙間を縫い、進む為に邪魔になる影を切り裂く。
「おい! 仕方ねえなユイ、お前の見えない範囲は任せろ!」
何故だか、今日はよく目が見える、致命傷になりそうな攻撃の軌道が、敵が反応出来ないような場所が、一番攻撃が薄くなるルートが。
全能感に溺れるように敵を斬り、躱し進んでいく。見えた、今回の核、影を召喚していた本体、人間の腰の高さほどまであるその路面電車の模型に一息に短刀を突き刺した。
一瞬の静寂、そしてガラスの割れるような高い音とともに、模型が生み出された全ての影が結晶を残し散っていく。
「ん、終わった、みたいだね」
「やったなユイ!」
背後にいるアタルとナギの方を向く、全員制服がボロボロになっている事も含めて強敵だったんだなと思い返す、単純な物量は時に強大な個すら飲み込む、そう考えるとなんだか勝てた事が奇跡だったように思える。
「あぁ、なんとかなって良かった」
アタルがすっと手を挙げたので、いい音がなるように叩いてやる、ハイタッチも今回みたいな事が無ければ経験しなかったのだろうか。
「あ、落ちてるねアイテム、今回は結晶かー」
ナギの声を聞いてそちらを見ると、模型があったところにボーリング玉くらいの大きさの黒い結晶があった。
「あぁ、話には聞いていたが、本当にそう言うものが出現するんだな」
「んで、一応これはユイものだけどどうする?」
「換金する以外に使い道があるのか?」
確か、異怪の存在が落としたものは学生課や特殊な店で換金できると聞いてていたが、とまで考えて別の可能性に思い至る、一時期噂が流れていた記憶があった。
異怪の存在が落としたアイテムを砕くと、調子が良くなった、頭が良くなった、足が速くなったなど、その時は興味が無かったが、今ならなんとなく分かる。
「あぁ、もしかして砕く、のか?」
「そ、正解だよー、あいつらが落とすものには、可能性? の魔力? みたいな感じなのが含まれてて、ものを壊す事によって、存在が強化されるんだって」
「まぁ、一部の生徒はレベルアップだとか存在昇華だとか呼んでるが、まぁ、好きに呼べばいいと思うぜ」
まぁ、こんな世界だからそんな事もあるのかもしれないが……
「なんだか、ゲームみたいだな」
「お、分かるぜ、俺も同じこと思ったもん」
「そう? 私がいた地域ではみんなやってたから、そう言う感想は新鮮かも」
結晶を眺めて見て、確かになんらかの力を感じるのは確かだし、レベルアップも気になる。
「砕いて見てもいいか?」
「あぁ、ドロップアイテムは一番活躍したやつのものって決まってるからな、俺もナギも異論はねえよ」
「よし、一息にやっちゃえ」
そう言われて、短刀を結晶に突き刺すと、異常な魔力が渦巻き、それぞれの体の中に吸い込まれていくのが見えた、初めて見た魔力の渦と言うのは、案外綺麗なものだった。