托卵した妻の辿る人生
実家での生活は快適だった。
今までの家とも近く、生活圏も変わらない。
父は高齢だが、まだ会社の顧問でそれなりの給与もあり、貯蓄も多いので、私は家事手伝いだけで、生活費は出さずに済む。
あまり時間をおかずに、夫から弁護士を通じて連絡が来た。
小畑は健太を自分の子と認知し、養育費も出してくれるそうだ。
こんなにスムーズに行くなんて、私が産んだ子供を産んだことを喜んでくれたのかしら。
一度健太を連れて会いに行き、あわよくば再婚してもいいかも。
高校教師は物足りないけれど、顔はいいから、健太と連れて歩くと、美男美女のファミリーだわ。
夫は、これで関係はおしまいだと離婚届を求めてきたので、素直に渡す。
離婚しても、生活レベルも落ちていないし、何かと助けてくれる親も、かわいい子供もいる。私は満足していた。
それから数ヶ月後、姉と弟が実家にやってきた。
「どうしたの?」と聞く父母に向かい、怒った顔で言う。
「美沙が子供と転がり込んで、働きもせずに居候しているそうね。
おまけに自分の不倫と余所の男の子供を産んだのが原因だとか。
少しなら仕方ないと思ってたけど、いつまでいるつもりなの!」
姉は昔から気が強くて家族の主導権を握っていた。
それが鬼のような形相で怒っている。
父母も姉の怒りを恐れて言わなかったのが、親戚から漏れたようだ。
いつもは温厚な弟も血相を変えて言う。
「姉さん、オレは仕事で義兄さんと付き合いあったんだ。
それがこれからは他人だと言われて、おまけに原因を聞くと、恥ずかしくて立ってられなかったよ。よくも恥ずかしくもなくそんなことができたものだ。」
両親も交えて話し合いをして、自分の家族の生活費は自分で稼ぐことになった。
そうは言っても、これまで働いていない私にはパートぐらいしかできない。
こっそりと両親に援助してもらおうと思ったが、それを読んでいたように姉が釘を刺す。
「こっそりとお父さんお母さんから援助貰っていたら、今度は家から追い出すからね。兄弟の縁も切る。お父さんお母さんもいいわね。」
まあ、家賃と光熱費までは言われなかったので、助かった。
それから、パートの稼ぎと養育費で食費や学費を賄うが、これまで夫が高所得者で好きに使っていたので、洋服や遊びに費やす余裕がなくなり、随分苦しく感じる。
そうだ、小畑と再婚してあげようかと思って、連絡を取ってみると、電話口で怒鳴りつけられた。
「よくも騙してくれたな!誰も頼んでないのに子供なんか産みやがって。
大迷惑だ。二度と連絡してくるな!」
「認知もしてくれて喜んでくれたのではなかったの?」
「お前の前の旦那はヤクザか。アイツに脅されたんだ。
そうでなければ誰が認めるか。お前になんか会わなければよかった。」
そう言って電話を切られる。
元の夫はよほど脅しつけたのか、声が震えていた。
これじゃ小畑とよりを戻すのは難しいか。
元の夫は流石に駄目だし、別の男を探そう。
私は自分の美貌に自信があった。
間の悪いことに、その頃、父が脳溢血で倒れ、半身不随になった。
私が離婚して転がり込んだことや兄弟の醜い争いが心痛になったようだ。
会社も退職となり、介護も必要になる。
姉からは、家賃の代わりにアンタが介護をしなさいと言われ、パートと介護に追われる日々となる。
パート先に、同級生が入ってくる。
「美沙さん、高所得の旦那さんじゃなかったの?」
以前、さんざんマウントをとったことを根に持ってネチネチ嫌味を言ってくる。
おまけに不倫の子供を産んで離婚したと知っているらしく、職場で言いふらされ、女性社員からは軽蔑の目で見られ、中年の男性社員からは尻軽と思われたかやたらとボディタッチされ、誘われる。
アンタ達のような脂ぎったオヤジでは相手にならないと言いたいところを我慢するが、ある日上司に遠回しに辞めるように言われ、嫌になって退職する。
姉から早く勤め先を探せと言われ、介護もあるので近場のもっと条件の悪いところで勤めるが、時間の合間にマッチングアプリで再婚相手を探す。そのための服やアクセサリー、付き合いのお金は養育費から使った。いい相手を見つければ子供も幸せになるからいいでしょう。
でも、中年になり3人の子供がいるとなかなかいい条件の相手が見つからない。でも妥協したくない。前の夫並の所得で、せめて中の上のイケメンは譲れない。
子供のことは母に任せ放しだ。
ある日、パートを早く上がって帰宅すると、母の怒鳴り声がする。
「アンタが生まれなければ、私とお父さんはゆっくり暮らせたのに!」
慌てて駆けつけると、優しい母が人が変わったように表情を怒らせ、定規で健太を叩いている。
「お母さん、どうしたの!?」
「美沙、私はもう限界だよ。この子達の面倒は見切れない。
悪いけど家を出ていってくれないか。
お父さんの介護は私がやるから。」
そして意を決したように言葉を並べる。
ようやく子育てを終え、好きなことをして夫婦で暮らしてきたのに、美沙達が来て、生活が激変したこと、近所や親戚からも好奇な目で見られ肩身が狭いこと、二人の娘は聞き分けもよく手伝いをしてくれるが、健太は言うことを聞かずに、学校でもトラブルメーカーで呼び出されること。
今日も喧嘩をして相手にケガを負わせ、頭を下げ続けてきたが、叱っても全く反省の様子もなく、遂に爆発したらしい。
「お母さん、ごめんなさい」
私は謝るしかなかった。
娘にどうして健太の面倒をを見てくれないのかと叱るが、彼女達も学校の勉強や部活もセーブして家事などの手伝いをしていて、不平不満が募っていた。
「そもそもお母さんが不倫なんかしなければ普通の子供として暮らせたのに。
あんな弟いらなかった!」
娘がそう叫んだのを聞き、健太は窓ガラスを破り、家財道具を壊しまくるなど暴れ始めた。
家はメチャクチャだ。
あぁ、私はなんでこんな子供を人生の記念になどと思ったのだろう。
その時、激しく後悔した。
母に頼み込んで、もう暫くだけ家においてもらう。
嫌だけど、仕方ない。
前の夫に連絡を取り、謝罪して復縁を願う。
「托卵の子供なんかと暮らせるか!」
けんもほろろに言われる。
「あの子は施設に入れるわ。もう一度親子4人で暮らしましょうよ。」
「覆水盆に返らず。今更何を言う」
ガチャと切られる。
次に、小畑の勤務する学校を調べ、待ち伏せする。
「久しぶり。」
私の顔を見た小畑は、顔が引き攣っている。
「何の用だ?」
「顔を見たくなっただけよ」
焦ってはダメだ。警戒心を解かなければ。
飲みに行こうというと、小畑はノコノコ付いてきた。
飲みながら、養育費を払って苦しいと愚痴ばかり言う。
慰謝料は親の借金ということにして家族に言い訳したが、養育費は言い訳できずに深夜休日にアルバイトしているそうだ。
情けない男と思ったが、我慢してホテルに誘うと直ぐに乗ってきた。
慰謝料を払って以来、家庭での立場がなくストレスが溜まっていたようだ。
それから何回か会って、お金を貰いながら、離婚して私と再婚しようと言い続ける。
すると、小畑の奥さんから慰謝料の請求が来た。
アイツの行動が不審でばれたらしい。
小畑に、私とやり直そうと迫るが、さんざん迷って教師の世間体を守るため、家庭に戻ることにしたようだ。
奥さんも教師で、離婚すると色々と言われるので引き止められたようだが、家では針のむしろだろう。
でも、小畑には再婚できなくても責任を取れと言って、慰謝料ブラスアルファを借金させて、貢がせる。
私ほどの女をさんざん抱いたのだから当たり前よね。
小畑はその後健太の存在もバレ、家庭内別居になり、定年と同時に離婚が決まったようだ。
そのあとも私に言い寄ってきたが、金のない男に用はない。
でももうマッチングアプリでもろくな男は見つからなくなった。
アプリで知り合った男とホテルに行き、金をもらったり、夜の仕事で稼ぐ。
一方、家を追い出されて、狭いアパートで子供と暮らすが、子供とはすれ違いの生活だ。
娘たちに健太の面倒を見るように頼むが、無視される。
健太はだんだん身体は大きくなるが、家族に暴力を振るうようになる。
娘たちもケガをさせられたようで、元の夫のところに行くが、同居を拒まれたようだ。いい気味だ。今頃夫のところに行くなんて許せない。
でもお金を貰い、私の両親の家に転がり込んだようだ。
養育費は娘に渡すと元の夫から伝えられる。
健太は相変わらず素晴らしいイケメンだ。
私の手に残ったのはこれだけ。
今になって思うと人生の汚点なんだろう。
健太はその後、顔をいかして女のヒモになってあちこちに転がり込み、修羅場になって顔を塩酸をかけられた。
私は僅かな稼ぎから治療費を払い、見舞いに行く。
その時、病院で向こうから見たことのある男が来た。元の夫だ。相変わらずいい体格をして若々しい。
赤ん坊と妻らしい女性、更に後ろには私達の娘もいる。
再婚して子供が出来たのか。
娘もいつの間にか和解していたようだ。
私もあのとき夫の子供を産んでいれば隣りにいたのは私だったはず。
廊下を横に入り、顔を合われないようにして、私は蹲り、嗚咽しながら、あのとき、小畑の子供を孕ませた神を恨んだ。
なんとか書き終えました。
托卵したらこんな感じかなと思うのですが、いかがでしょうか?