妻から見た景色は?
リクエスト頂いたので続けてみました。
今から思えば、幸せというのは健康と同じで、失われなければわからないのだろう。
私は大学時代に同じサークルで知り合った夫とそのまま付き合い、数年の会社づとめの後、結婚した。
夫は、容貌はフツメンかやや劣るかもしれないが、大柄で健康、見るからに頼りになる人だった。頭もよく、大手一流会社でもバリバリと働き、家庭のこともやってくれる。何より私と子供を一番に考えてくれているのが嬉しかった。
でも、そんな幸せも慣れれば当たり前になる。娘も中学生となり、育児が一段落した私は退屈になり、このまま一生を終えていいものかと思い始めた。
そんなとき、ちょうど高校の同窓会があった。一流企業で出世している夫と二人の娘を持つ私は、勝ち組だ。
マウント取る気満々で着飾っていくと、ちょうど昔の彼氏がいた。
(相変わらずイケメンね。)
とても顔はいい男だったけど、大学は希望校を落ちたのと、優柔不断で頼りないところが気に入らずに、大学進学で別れた。
「理沙、久しぶり。」
「小畑くんもお元気そうね。」
久しぶりにあった元カレとは話が弾んだ。
「もう一軒行くか。」という誘いにも素直に応じた。
夫には、今日は帰りが遅くなると言ってある。
夫は、最近父離れしている娘と外食でも行くかと喜んでいた。
二軒目で酔いが回ったのか、私はふっと考える。
(この人のイケメンを受け継いだ男の子を育てられると、私の生活も満たされるのではないかしら。)
酔いのせいか、そのまま彼を誘ってみると、彼も家庭に不満があったのか応じてきた。
そのままホテルに泊まり、シャワーを浴びる。
少し冷静になって不安になるが、ここまで来たらまあいいかと思った。
彼には安全日だからと言うと、「中に出せるのは久しぶりだ。」と喜んで中出しした。
テクニックも持久力もなく、出すだけ出すと直ぐに寝てしまった。
私も酔いと疲れで寝てしまう。
次の日の朝、既に陽が高い。
小畑は青褪めた顔で、「このことは秘密だぞ」と念を押すと、ホテル代の半分だけ置いて、逃げ去るように去る。
興醒めだが、まあ、高校教師の給料じゃあ高級ホテルのお金は厳しいか。
私の携帯にも何度も夫からの留守電が入っていた。
流石に罪悪感を感じながら、飲みすぎて泊まったことを言う。
夫は疑わずに迎えに来てくれた。
数日後の晩、夫のベッドに入る。
「ずっとご無沙汰だったのに珍しい。」
「あなた、男の子が欲しいと言ってたわね。まだ産めるうちに頑張ろうかと思って。」
「それは嬉しいな。」
夫のセックスは激しかった。久しぶりなせいもあるが、小畑とは違う力強さがある。クタクタになるまで抱かれた。
さあ、妊娠できるか、どちらの子供か。私はずっと感じなかったスリルを感じた。生理が来ない。妊娠検査薬でも陽性だ。
夫は大喜びだが、どちらの子供かは神のみぞ知るだ。
産まれた子供は男の子だった。ますます夫は喜んでくれたが、私はこの子を見て小畑の子だとわかった。
母親には子供の違いがわかるのか、上のふたりとは明らかに顔立ちが違った。
名前は、夫を押し切って、小畑の名から一字を取って私が付けた。
もう賽は投げられた。このハンサムボーイを私の人生の記念に育て上げていく。
成長するに連れ、ますます違いははっきりする。
夫の顔立ちとはどこも似ていない。
夫も疑っていることが、言葉の端々や健太への態度でわかる。
幸い娘たちはイケメンの弟に夢中だ。思春期で父親と距離を起きたがっているのと、弟への夫の態度に不満を持っているためか、夫への態度が酷い。
おまけに、会社の仕事も忙しいようで、長期出張や残業が多く、家に夫がいないのが当たり前、イヤ居ないほうがいいという雰囲気になってきた。
休日に夫が家にいると、娘たちは露骨に顔を顰め、クマは動物園に行けばなどと言うようになった。
夫はあまり意に介さず、マイペースで私や娘に接するが、健太にはあまり構いたくない様子が見える。
これは時間の問題だなと思っていると、とうとう健太が3歳の誕生日を迎えた後のある夜、帰宅するなり、親子鑑定の結果を突きつけられる。
そして「離婚しよう。」と、私がこんなことをした理由も聞かずに、結論を言われる。
夫は敵と決めたらとことん追求することは知っていたが、自分に向けられると怖い。
あとは、親権や財産分与、健太との親子関係の取り消しを言われる。
その後に、慰謝料と相手を追求してきた。名前を言えば、夫は徹底的にやるだろう。愛情を持っている訳でもないが、騙したことは心苦しい。
しかし、名前を言わずとも、夫はもう見当をつけていた。あの晩、私と小畑が消えたのは多くの人が見ている。
私は白状させられた。
動機も話すと、呆れられた。
そして夫はアドバイスをくれる。
健太を父無し子にしたくないし、養育費も貰いたい。
私は、小畑が子供を作れといったというウソに乗ることにした。
夫は、そのまま家を出てホテルに向かうという。
「まだこの家で泊まればいいじゃない」という私に、理解できないものを見るような目を向け、「何を考えているのかわからない相手が一番恐ろしいんだ。」と言って逃げるように去る。
別に夫に何もしようと思ってないのに、その態度には傷ついた。
次の日に夫は再びやってきて、娘たちに離婚とその理由と、どちらに付いていくかを尋ねる。
娘たちは私に付いてくると言った。
昨晩、娘には、理由は言わずに離婚することと、自分についてきたら近くの祖父母の家で今までの学校に通え、家事も私がやるので今まで通りの生活ができるが、夫についていくと、転校や家事手伝いをするよと囁いたのが効いたようだ。
これで養育費は手に入る。
実家の父母にも昨晩話した。
家に置いてもらって、援助してもらわなければならない。
両親は資産家で孫も可愛がっている。
私は離婚をいわれても実家を頼れば大丈夫と計算していた。
両親は不倫と他所の男の子供を産んだことには怒っていたが、仕方ないと受け入れてくれた。
離婚はしたが、生活は変わらないし、夫にいつバレるかとビクビクしなくていい分、改善したかもと、その時は思っていた。
小畑へは、慰謝料とともに認知と養育費も夫が言ってくれるそうだ。
その代わり、小畑が子供を産めと無理に中に出したという証言を紙に書き、動画でも撮られる。
息子のためだ、彼もわかってくれるだろう。