プロローグ He didn't die
「死んでくれ」
心の底から沸き上がった怒りの感情。
生まれて初めてこんなにも人を憎んだかもしれない。
吐き気がするほどおぞましく、身体中の細胞が泣き叫ぶような恐怖の感情。
「お前はどうしていつもー」
ありったけの罵声を浴びせかけてやりたいのに、喉元から溢れ落ちた言葉はテンプレ通りのヒーロー気取りなセリフで。
嘲笑とともに自分が嫌で仕方なくなる。
そんな自分もまた、目の前の悪魔と似た者同士なのだと。
左手の甲に刻まれた赤い線が物語っている。
ただ殺したかった。目の前にいる悪魔を。
そして自分も消えたかった。悪魔の亡骸を抱いて。
刹那
俺は咄嗟に刃を向ける。
美しく弧を描いたナイフは薄く皮膚を削ぐように旋回すると、
床にポトリと一滴の赤い雫が落ち、染みが広がった。
そしてまたこう思う。
ああ、勝てない。と
僕は自分をものの数秒で組伏せた悪魔を見る。
悪魔は何も感じていないようだった。
辛くも苦しくも悲しくも嬉しくも、
ないようで。
全く本当に心底気味が悪い。
ー頭上に降ってくる死の感覚を目の前に、僕はぼんやりとそんなことを考える。
熱をもった死が、額に触れる。
......
....
..
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静寂が訪れ、やがて物語は始まる。