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その後しばらく、「酔ったときしか人を好きになれないんだよね」と小林が言ったこともあり、それ関連の会話が続いた。ほとんど小林は聴く耳を立てるだけだった。自分の感情を抑えきれなくなったかのように、珍しく比奈は自分から話題を振った。
「格好いいの、格好いいんだけど、気に入らない部分もあって……」と、意中の男性について語っていた。
「そんなの人間なんだから当然でしょう?」と小林は言ってやった。「気に入らない部分があってもやっぱり格好いいって部分が拭えないんだよね。そこに立っているだけで色気放ってる芸能人みたいな人、いるでしょう?」小林は頷く他なかった。
「仕方なくないか。完璧な人間の方が嘘くさいし、人間なんてみんなそんなものでしょう。二次元のアイドルに惹かれるのもそういう意味じゃよく分かるし」
「いや、でもほら、一人の人間が一生のうちに関わる人間の数なんて限られてるでしょう? そう考えると私の視野は狭いのかなって。まだ出会っていないだけで自分にぴったりはまる男性がいるかもしれないじゃない。私は自分の狭い視野の中だけでこの人よりはこの人の方がいい、みたいに無意識に選別作業をしてて、って選別って言葉はあれだけど、とにかく自分の狭い視野の中だけでいい人を見つけようとしてるんじゃないかって思ったのよ」
「そういうものじゃないか? 比奈も言った通り一生の中で関わる人なんて限られてくるんだし。それに世界中から自分の懐にぴったりはまる人を探すなんて、八十年じゃ到底足りないよ」
「そっか」比奈は納得しようとするように何度か頷いた。
「昔漫画で読んだけど、政府が勝手に理想の婚約相手決めるみたいな制度あればいいよな。今なんてAIが普及し始めてるんだから、そのうち夫婦やカップルの統計取り始めてガチでやり始めるかもな」
「ありそう。でも統計取り始めたら、世の中の大半の人たちの夫婦仲が冷え切っていて、みたいなの浮き彫りになりそうじゃない?」
「それはそれで面白いな」
「え、そう? そんなことばれちゃったら、夢がなくなるじゃん。世の中には好きな人同士で結婚する人って少ないんだあ、ってわかっちゃったら恋愛する気失せるでしょう」
「いや、みんなもうすでに知ってるでしょ。お互いに愛しているのに結婚できないことぐらい。だから不倫が絶えないんだよ」
「違うよー。不倫が絶えないのは、さっき私が言ったやつだよ。狭い視野でいい人を探してるから、結婚するときはその人が最上だったけど、結婚した後で出会った人が今の旦那より自分に嵌まる人だったから不倫するのよ」
「態々(わざわざ)不倫する理由は? 離婚すればいいじゃん」
「生活があるでしょうがー」ああ確かに、とそこで小林は納得した。男の人はこれだから、みたいな視線で見つめられ「いや、なんかすみません」と謝ってみると、実はそんなこともなかったらしく、「え、何が? あ、いや、私こそごめん」と比奈は完全に気を抜いていたみたいだった。




