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死を覚悟した人間の顔は美しい。それは廃屋に置いて来た担任の顔を見て思ったことだった。美人は化粧しない方が美人だと聞いたことがある。その二つの理論を組み合わせると、美人は死にたがり、ということなのかもしれない。美と死はセットだ。そもそもが、だ。美しいと抱かせる人たちには、必ず死が絡んでいるのだろう。
裏拍手をしてでもあなたに会いたい。舞い降りてきたあなたが、ムンクの叫びのような、ヘイホーみたいな絵面でも構わなかった。あなたに会えるまでのモラトリアム。シンギュラリティが何だと解説する学者が溢れかえる中、それよりも先にカタストロフィが来た。
世の中は一概に否定できないことばかりだ、と何年か前の担任は言った。ラベリングして人や物の価値を量る。狂犬病を知らない若者は、「それは犬の病気じゃないの?」と疑問に思うかもしれない。角刈りで眼鏡にスーツの男性が、度を超えて礼儀正しい。風俗のボーイのようだ。そう話せば、風俗を知らない女性は「最低」「汚い」「女性軽視だ」と嫌悪を抱くかもしれない。
嫌とかそういうことじゃない。ただ、なんとなく自分の中にできてしまった邪悪な感情を、外へ排出したかった。
でも誰かに意地悪をするのは悪徳だと世の中は言う。だから発散させる方法がわからなかった。だから考えた。意地悪なのに意地悪だと思われない方法。寧ろ「ありがとう」と感謝されるぐらいの思惑を。
「アイスクリーム、か……」滑稽だと思う。鼻で笑ってしまうくらい。
明日、大嫌いで大好きな二人に業務用のジェラートを送ってやろうと思う。「アイスを送った」その事実に、好きも嫌いも、善意も悪意も、くだらないだろう。アイスはおいしい、と、ラベルに書かれた名称と透明なトレイの向こうに見えるラムネ色が、我々にそう抱かせるのだから。
だけども、もうそんな味覚も感情も、持ち得てはいなかった。




