儚い恋〜彼の最後の願い〜
月が昇り、今日が終わりかけていた頃。私の元に一本の電話が掛かってきた。それは、タクヤの母親からの電話だった。
「タクヤの病態が悪化したの、今すぐ来て!」
私はお母さんにごめんとだけ言い、家を飛び出した。お母さんに理由をちゃんと説明したかった。でも今の私にそんな余裕はなかった。
「はぁはぁ……」
冬の夜のはずなのに、夏のように暑かった。それは、私が必死に病態まで走ったからだ。
病院に着くと、入口でタクヤの母親が待っていた。
「カナちゃん、こんな遅くにごめんね」
「だ、大丈夫です」
母親の目は、潤んでいた。
病室へ着くと、タクヤが色々な器具に繋がった状態でベッドの上に横になっていた。
「タクヤ!」
私は思わず、叫んでしまった。いつものタクヤならカナと元気よく返してくれる。だが
「かな……」
彼の声は、今にも消えそうな程に、か細い声だった。でもその声を聞くと、とても安心でき、涙が止まらなかった。
「タクヤ見て!満天な星空だよ」
そう言い、カーテンを開けた。雲一つなく、空には、大きな満月と星たちが輝いていた。私は、タクヤの手を強く握った。タクヤがどこか遠くへ行かないように。
「泣かないで、笑って、愛してる……」
彼は、微笑みながらそう最後の言葉を残した。
「バカ……」
私は、泣きながらそんな声を漏らした。