第四章 生きるか死ぬか。②
二組の方向に向けて手榴弾を続けざまに投げると、とてつもない轟音と粉塵が、しばらくの間荒木たちの視界と聴覚を奪った。
「くっくっく。今ので何人死んだかな」
やっぱり、手榴弾だと、人の死ぬ瞬間が見れないな。
「少し、惜しいことをしたぜ」
荒木はショットガンを担ぎ直すと、クラスメイトに向き直り、不気味な笑みを覗かせた。
「さあ、反撃といこうぜ」
そこからの荒木は、まさに修羅そのものだった。
手榴弾で道を切り開き、後はひたすらに銃を撃ちまくる。
相手がひるんだ一瞬の隙に、あっというまに撃ち伏せる。
情けなど無い。
弱っている者も傷ついている者も、見境無く、容赦なく射殺した。
手榴弾を投げた二組の教室は、既に見る影も無く無惨に破壊された後だった。
机や椅子もその原型をとどめていない。
黒こげの、人だったと思われるものが、そこらじゅうに散らばっていた。
荒木とともに二組にやってきた四組の生徒は、その光景に、みな一様に吐き気を覚えた。
「ああ、こりゃ、ねえわ。きたねえ」
荒木だけが、悠々と教室内を歩き回り、自分が起こした爆発の衝撃を確認していた。
「駄目だな、こりゃ。やっぱ、爆弾は面白くねえ」
六組の生徒は、荒木たちに恐れおののいたのか、なにも仕掛けてこない。
「荒木、見てくれ。一組もどうやら全滅のようだ」
「あん?」
クラスメイトに呼ばれ、荒木は廊下に出て一組のほうを覗いた。
そこには、教室は既になかった。
天井と床が崩れ、瓦礫の山が広がっていた。
二組に投げた手榴弾の巻き添えをくらったらしい。
一組の向こう側にあるはずの階段も、渡り廊下への通路も、完全に瓦礫で塞がれていた。
「たす……。けて」
瓦礫のなかから微かに声がした。
二組と違って、手榴弾から発せられる高熱の影響はあまり無かったらしい。
黒こげの死体になるかわりに、多くの生徒が、生きたまま瓦礫の下敷きになっているようだった。
「あん? 助けてだ?」
荒木は瓦礫を冷たい目で見ると、声がした方向へ唾を吐いた。
「助けて欲しけりゃ、自分のクラスの生徒に頼むんだな」
「どうする? 荒木?」
心配そうに声をかけるクラスメイトを荒木は睨むと、ジャキッと不気味な金属音をたててショットガンに弾を込めた。
「お前。助ける気なのか? やめとけ。こんな世界だ。どこまでも非情にならなきゃいけねぇ。非情になれた奴だけが、生き残るんだ」
クラスメイトたちは頷くと、荒木の次の言葉を待った。
「さあ、一組側の退路は経たれたぜ。逆に言うと、後ろから不愉快な不意打ちをされる心配がなくなったわけだ。進む先には、敵しかいねえ。次は六組に報復してやる! 前だけ見て、突き進め。いいな!」
荒木が右手でショットガンを高々と掲げると、クラスメイトたちはそれに倣ってそれぞれの武器を掲げた。
「行くぞ! 俺たちが生き残る!」
「おおっ!」
荒木に続いてクラスメイトたちは雄々しく声をあげた。