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その日、僕らの日常は崩れ去った  作者: 九頭竜 大河
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1章 はじまり

「おはよう」

「おっす祐也おはよう。またねねちゃんと登校したのか。羨ましいぜ」

 教室に着いた僕とねねは、それぞれの友達のところで朝の僅かな時間を楽しんでいた。

 ねねは文月姉妹や女友達と、校門での事件について話している。

 僕はといえば、いつものように男子生徒にねねのことで冷やかされていた。

「羨ましくない。幼馴染みだぞ?」

 全くこいつらは何回同じ話をすれば気が済むんだ。

「毎朝毎朝、同じ事ばかり言うよな」

「毎朝毎朝、ねねちゃんと登校するなよ。俺たちにも代われ」

「そうだそうだ日替わり制にしろ」

「そうだそうだ!」

「俺もねねちゃんちの隣に住みたいぜ!」

「はいはい、好きにすればいいだろう」

 面倒臭くなって僕はいつものように話を濁した。

 いつもいつも同じ話ばかりで、よく飽きないものだ。

「言うよなーこいつ」

「余裕かましやがって! 俺たちにも分けろ!」

「ねねちゃんはクラスの人気ナンバーワン女子だぞ」

 以前行われたクラス男子による女子の人気投票で、ねねは堂々の一位を獲得していた。もちろん人気投票が行われたことは、女子には内緒である。

「でも僕は、南が気になるなぁ」

 話をねねから反らすつもりで、僕はかねがね気になっていた女子の名前を口にしてみた。もちろん、異性として意識してるわけじゃないけど。

「あの地味な女が? お前やっぱり変わってるよなぁ」

「裕也やっぱ変わってるよなー」

「俺なら、ダントツねねちゃんだぜ!」

 いつも誰とも喋らずにただポツンと座っているだけの南が、実は美少女だということを知っているのはクラスで僕だけだろう。南のファンってわけじゃないけど、もっと評価されてもいいと思うぞ。

 雰囲気で可愛らしく見せかけている女子や、他の女子との交友関係のせいでちやほやされている女子とは違い、彼女はまちがいなく本質的に可愛い。長く伸ばしたその髪のせいで、他の男子は彼女の顔をまじまじと見たことは無いだろうが、彼女の素顔を見たことがある僕としては、クラスでの萌えキャラ属性の上位三位にランクインされている。

 なのに男子たちに見向きもされないのは、南が友達を作ろうとせず、いつも一人で本ばかり読んでいるためだ。普段は真面目で大人しく、控えめで目立たない。そのくせに、クラス委員長を決める際には、誰よりも早くに立候補して委員長に抜擢された。

 まあ、あんな早く手を上げなくても誰も立候補なんてしなかっただろうけど……。

 よくわからい子だ。

 そんな二律背反な南が気になって、毎日何となく観察しているうちに、彼女の美貌に僕は気づいたのだった。

「いやでも、俺はねねちゃん派だぜ!」

「俺も俺も」

「俺も、やっぱりねねちゃん派だな」

 確かにねねは可愛いけどさ。

 でも、幼馴染みなんだぜ?

 そんな感情にはならないって。

 こいつらを論破するのは諦め、ぼーっとねねの方を向いた。

 ねねは、ももを膝に乗せて 髪の毛を結ってあげていた。

「ももの髪はさらさらで羨ましいなぁ」

「もももねねの髪、栗色でとっても羨ましい」

 ねねのスカートの裾を引っ張りながら、ららがおねだりしている。

「ねね。ららも髪の毛結って」

「はいはい。順番ね」

「うちがやったげよか?」

 横から口を出したのは、友風柚葉。囲碁将棋部に所属する、元気な女の子だ。

 その赤い髪の毛から、一部生徒からは不良だと陰口を叩かれているが、本人はそんなことどこ吹く風で、いつも自分のしたいように生きている、ちょっと羨ましい奴。

 ちなみに、クラスの副委員長でもある。

「いやだ! ねねがいい」

 ららはねねのスカートを力いっぱい引っ張った。

 おお……。今にもパンツが見えそうだ……。

「らら、そんなにスカートを引っ張らないで」

 ねねが優しくたしなめる。

「あらーー、うち嫌われてもたわー」

 柚葉は笑いながら肩ををすくめた。

「らら、柚葉のことも好きだよ」

「ももも! ももも!」

「はいはい、ありがとう」

 そんな賑やかな女子達を見ていると、一人で読書をする南が余計に目立つ気がする。

「あ! 変態がこっち見てる!」

「変態に襲われる!」

「変態がうつる!」

「ももも変態になっちゃう!」

「ららも!ららも!」

 目ざとくららとももが、そんな僕の視線に気づいた。

「だーかーら、僕は変態じゃないってば!」

 本日二度目の叫びが教室に響いた。

「ねね、らら。いいかい? 人を変態呼ばわりしちゃいけないんだよ? わかった?」

 男子生徒のもとを離れ、つかつかと双子に歩み寄ると、僕は先生のように人差し指をたてて、たしなめるように双子を諭す。

 二人は、妙に大人しく押し黙った。

「よしよし、良い子たちだ」

 と、思ったのは一瞬だった。

「ねね。裕也がいじめる」

「ねね。裕也が変な声で喋りかけてくる」

「変な声がうつる!」

「うつる!」

 ねねは苦笑しながら二人の頭を撫でた。

「あいかわらず、大人気やなぁ裕也は。羨ましいわ」

 柚葉がにやにやしながら僕を見る。

 なんなんだよ、一体。

「お前たち、早く席につけ」

 担任の谷センが教室に入ってきた。

 丁寧に分けられた七三にメガネ。いかにも教師って感じの風貌の男性教員だ。

「もう授業の時間か」

 退屈で憂鬱な一日が始まるなぁ。

 そんなことを思いながら、僕は自分の席についた。

「はいはい、静かに静かに! 席に着け!」

 ざわざわと落ち着きの無い生徒たちを自分の席につかせると、谷センはいつものようにホームルームを始めた。

 出席確認を終えると、谷センは青色の、金属でできたブレスレッドを全員に配った。ブレスレットには大きく一の文字が彫り込まれている。

「今日は一時間目の授業を変更して体育館での全校集会になった。校長先生の指示だ」

 え〜。っと、一斉にブーイングが巻き起こる。

 授業が潰れるのは嬉しいけど、全校集会は、面倒だ。

「はいはい静かに。今配ったブレスレットは、学年とクラスを示すためのもので、一年生は青色、二年生は赤色、三年生は緑色で、彫り込まれてる数字はそれぞれのクラスを示す。このブレスレットをつけて全校集会に出るように」

 なるほど、一年一組だから、一の数字が彫り込まれてるのか。でも、なにに使うんだ?これ。

 僕は手の中でブレスレットを弄びながら考えた。が、面倒なのですぐにやめた。どうせつまらない理由だろう。

「ちゃんとブレスレットをつけたか確認するから、ブレスレットを付けた者から先生のところに来なさい」

「せんせー。これ、なんなんですか?」

 柚葉がブレスレットを腕に装着しながら質問する。

「さあ? 先生にもわからん。それも全校集会で説明されるんじゃないか? そんなことより、早くこっちに来なさい」

 教室の出入り口で先生にブレスレッドを確認された人から順に廊下に出て、体育館に向かった。

 何なんだろうこのブレスレットは。

 腕に装着したのはいいが、なんだかとても不気味だ

 冷たい。

 冷たい感じがする。

 鉄の冷たさが手首から背筋を凍らせる。そんな冷たさだ。

『全校集会です。皆さん体育館に集まってください』

 放送部の南出奈々子ちゃんの麗しい声に促されて、僕はクラスのみんなと体育館へ向かった。

「昨日の筋肉バンカー見た?」

「見た見た。あれすごかったよな」

 がやがやと廊下でクラスメイトと交わすどうでもいい話。いつもの、くらだなくて、次の日には話の内容すら忘れているような、それでも楽しい世間話だ。

「お前たち、喋るな。もっと早く歩け」

 先生たちの怒鳴り声も効果はなく、生徒たちは、まるで処刑場へでも歩いて行くかのよ うにのろのろと歩いている。

 それもそうだ。

 校長先生のとてつもなく長くて、どうしようもなくつまらない話を聞くために足を動かしている今が、ルンルン気分なわけがない。

「やっほー。裕也。相変わらずつまらないって顔してるね」

 走ってきた勢いそのままに後ろから僕の方をバンとたたいてきたのは、ねねだった。

「校長の話なんて、人生でもっともつまらない長話ベスト三にランクインされるよ」

「ふふっ、そうだね」

 言いながら、ねねは僕の顔を覗き込んできた。

「なっ、なんだよ……?」

 また朝ご飯でもついてるのか?

 僕がわたわたしていると、ぷいと前を向いて、「別に」と歩き出した。

「な、なんなんだよ……」

 ときどき、どうしてねねは、何のとりえもなく目立たない僕に、こんなに話しかけてくるのか疑問になる。

 幼馴染だからかな?

 ねねの少し前をうつむいてただ黙々と歩く女の子は、美少女系無口キャラ南。

 ねねと並ぶと、南がねねと対照的な存在であることに改めて気付いた。

「裕也。誰のこと見てるの?」

 気付くと、ねねの怒った顔が目の前にあった。

「い、いや、別に。誰も見てない」

 いつの間に横に来たんだ?

 それに、なぜだか責められている。

 慌てて、僕は弁解した。

「ふぅん。なら、いいけど」




 体育館は二階の渡り廊下から繋がっているため、四階に教室がある一年生は最も距離がある。だが、どんなにゆっくり歩いたところで、五分程で体育館についてしまう訳で。

 体育館につくと、いつものように学年・クラスごとに整列させられた。

 三学年が八クラスづつあり、一クラスが四十人なので、全員が体育館に集まるとなると、暑苦しくてむしむしして、僕は好きになれない。

 いつもの場所、いつも見る景色。体育館の冷たい床。

 いつもと違うものは、クラスごとに置かれた謎の段ボールくらいの大きさの黒い箱ぐらいだ。

 なんなんだろう。

 ぐるっと周囲を見渡すと、教員席が目にとまった。

 いつもの先生の暗い顔。

 いつもの校長の……あれ?

 あいつ誰だ?

 知らない黒ずくめの男が校長先生と話していた。

 見知った先生ではない。

 臨時教師かな?

 それとも新しく赴任してきた先生?

 どちらにしろ、いつもより長く、校長の発する呪文を聞かなければならないことは確定した。

 ふう。美少女転校生とかなら大歓迎なのにな。

 全校生徒が集結したようで、全校集会開始のアナウンスが流れた。

 教頭が舞台の階段下の定位置に立ってマイクで怒鳴る。

「静かにしなさい!」

 生徒たちが静かにするのを待ち、こほん、と咳払いをして、「それでは、校長先生の挨拶です」と、いつものようにアナウンスした。

 促され、いつものように一礼して壇上に上がる校長。

 体調でも悪いのか? いつもより顔にしわが増えて余計に老けこんだように見える。

 禿げあがった頭に反射する光も、いつもより心もとない感じがする。

 そんなことを思いながら僕はいつものようにぼーっと立って、苦行に耐える心の準備をしていた。

 さっきの黒ずくめの男も一緒に壇上に上がっていく。

 なんだ、やっぱり新任の教師か……。

 いつもの長ったらしい挨拶に、新米教師の挨拶が加わるな。

 

 しかし、ここからがいつもと違った。

 

 予想に反して、先にマイクを握ったのは謎の男の方だった。

 男は淡々とした口調で、驚愕の事実を告げた。

「みなさんこんにちは。私は、バルト政府軍特殊作戦部隊隊長の蓮坊時要だ」

 男は言葉を切り、冷たい目で体育館を見渡した。

「早速だが、只今から、君たち生徒諸君の選別を開始する」

 一言でざわざわとしだす生徒。

 なんなんだこれは?

 何を言っているんだ?

 僕と同じように、多くの生徒が現状を把握しないまま、落ち着き無く隣の生徒と話し合っている。

 意味が分からない。

 それでも、僕らの日常が崩れ去る音が、僕には確かに聞こえた気がした。

 男の隣に立つ校長は青ざめている。唇を紫色にして、ガタガタと微かに震えている。

 先生たちの方を見やると、先生たちは生徒以上にざわざわと落ち着きなく現状を把握しようとしていた。校長以外は、状況が呑み込めてないようだ。

 僕も僕なりに現状を把握しようと頭を動かした。

 バルト政府?

 バルト国って……、もしかして……、今朝のニュース???

 僕は頭の中を必死に検索する。

 一ヶ月前、世界情勢を憂い、日本にも軍隊を設立することを願い出た自衛隊員のニュースを思い出した。それはすぐに却下されたが、諦められなかった彼らが、自衛隊の武器を奪って設立したのが、今朝のニュースで報じられていたバルト国。

 頭の中でそこまで繋げて、改めて驚愕する。

 奴らがどうしてここに?

 あれは、遠い所で起こっている話で、僕の目の前にいるあいつは……。

 あいつは、テロリスト……。

 僕は殺されるのか?

 退屈な授業を受けることはもう、できないのか。

 様々な考えが一瞬で頭に浮かんでは消えていった。

「裕也」

 袖を引っ張るねねの声で我に返った。

 勝手に整列をぬけて、僕の側までやってきていたのだ。

「裕也。これって一体……」

 振り返ると、ねねの袖には、ららがひっついている。

「裕也、怖いよう」

「裕也、どうなってるの?」

 ももは柚葉に抱きつきながら潤ませた目を僕に向けてくる。

 柚葉はももの頭を撫でながら落ち着かせようとしていた。

「裕也。これは一体なんなんや」

 僕に聞かれましても……。

 口を開こうとしたそのとき、再び男の声が体育館に響いた。

「静粛に」

 低く、太く、冷徹で良く通る声だ。

 生徒たちは喋るのを止め、壇上に注目が集まる。

 男はおもむろに懐から拳銃を取り出すと、校長の頭に向けて引き金を引いた。

 パン。

 甲高い音が響いて、校長の頭がトマトのようにつぶれ、魂のよりどころをなくした体はそのまま倒れた。

 更に静かになる体育館。

 いや、恐怖のあまり声も出ないというのが実態だ。

 静寂の音がしばらく響いたのち、

「ご協力ありがとう」

 にこりともせず男は言った。

「それでは、我々の優秀な仲間を紹介しよう」

 男が無造作に右手を上げると、完全武装をした男たちが体育館になだれ込んできた。

 二十人……、いや、三十人はいるだろうか……。

 テレビや映画でしか見たことの無い、防弾ジョッキを着込みマスクをした真っ黒な男たち。

 まぎれもない現実を突きつけられた気がした。

 手にマシンガンを持った男たちは、体育館の二階部分にも表れ、またたくまに僕らは包囲されてしまった。

 先生たちの頭には、一人一人に銃口が突き付けられている。

 助けは期待できそうにない。

「さて、君たちに今からしてもらうことは、さっきも言ったように、殺し合いだ。それもクラスごとの……ね」

 再び要が話しはじめた。

「一年生、二年生、三年生。各八クラス四十名、全二十四クラス対抗の選抜大会だ。範囲は学校の敷地内。壁に囲まれた内側のみに限定する。郊外への脱走者は、即、処刑する」

 冷静に、平然と、淡々と語る要。

 しかし、その声は有無を言わせない。

 生徒たちに批判をさせる隙を、与えない。

「さて、君たちの腕にはブレスレッドがついているね。そのブレスレッドには生命探知装置と、発信機がついている。そのブレスレッドから発せられる生命反応が全員分なくなったクラスは脱落とする」

 つまり、ホームルームが始まる以前から、この学校は奴らに支配されていたわけか。

「なお、他クラスへの命乞いなどは認めない。クラスは全滅させる必要がある。生き残りたければ、最後の一クラスに残るしかない。わかったかね? 武器は我々が支給するものを使用してくれ」

 わからない。

 理解できない。

 したくない。

 僕の心が全力で現実を否定する。

 体の芯が震えだす。

「死は、常に君たちの間近にある!」

 突然、男は悦に入ったように大声をあげ、両手を広げた。

 僕の腕をぎゅっとつかむねねの腕を、僕は引き寄せた。

「人を殺すという行為自体は非現実的なものだと思うかもしれない。確かにその通り! 現在日本では人を殺すという罪は非常に重く問われる。紛争や戦争や内戦はどこか国の話だとどこか人ごとのように感じているだろう。しかしその実、死はとても身近なものでもある」

 ああ、確かにそうだ。

 こいつの言うとおりだ。

 違うと言いたい。

 否定してやりたい。

 でも、確かに僕はそう思っている。

「君たちは明日が必ず来ると信じているかもしれないが今日帰りに車に轢かれて死ぬかもしれない。危険は常に隣り合わせなのだ。しかし、やはりどこか非現実的なものと捉えてしまっている。死は君たち自身にとって、とても身近なものだというのに」

 そうだろうか。

 いや、きっとそうなのだろう。

「映画やアニメなど、様々な作品の中では、人の命がとても軽く扱われることが多い。その映像を、君たちは普段から見ている。君たちは人が殺されている映像を見ながら、友人と食事をしているのだ。人生の終わりである死と、生きるための行為である食事が同じ空間に存在することはとても不思議で、皮肉な現象である。しかし、君たちはそれを理解せずに、当たり前の光景として捉えている。極端に言えば、生きることが他人を殺す行為であるというのに……。だから、君たちは今からやろうとしていることに何ら罪悪感を感じる事は無いのだよ。わかったかね」

 もしかしたらその矛盾が、要たちがバルト国を設立する理由の一つになったのだろうか。

 要は興奮した自分自身をいさめるようにマイクを持ち直すと、今度は落ち着いて喋り出した。

「ニュースで知っている者も多いと思うが、我々は今朝、日本国から独立した。我々が独立したのは、このような現状を重く見たからなのだよ。荒れてゆく世界情勢を鑑みても、今のままで日本が世界に太刀打ちできるとは考えられない。日本は武装し、世界にも負けない軍事力を行使すべきなのだ。シビリアン・コントロールなど、時代遅れの産物は、もう、必要ないのだ。我々は日本国を救うために立ち上がった。我々こそが、真に日本を憂う者なのだ。そして、君たちに行ってもらうこの戦いは、軟弱な日本からの脱却の栄えある第一弾なのだ」

 こいつは一体何を言っているんだ。

「さて、わけもわからずに我々の命令に従うのは不服だろう。今回の作戦意図について説明しておく。本作戦は、生命力・知力に溢れた我々の兵士を発見するとともに、日本の底力を見るための作戦である。君たちが所属している学校という組織は、能力的には同格になるようにクラス分けしてある。日本のほとんどの学校がそうだろう。そのクラス同士の戦いこそ、全国の学校の縮図、強いては全国の縮図になるのだよ。我々は日本にどれだけの可能性が残っているか確かめたい。現代日本に我々が命をとしてまで守るべき価値があるのか、それとも、長年の平和ボケで、生きる力を失っているのか……。その場合、我々は日本全国を征服して日本国民を鍛え直さなければならない。それを知るために、この学校を日本の代表として、テストする。我々を失望させないでくれ」

 混乱した頭で真っ白の頭半分以上は理解できなかったが、つまりは今から僕たちは殺し合いをしなければならないらしい。

 その結果如何では、全国の学校で同じ悲劇が繰り返されるのだという。

 なんという。

 なんということだ。

 耳に入って頭の中で、要の言葉がぐるぐる回り、胸にストンと下ろすことができない。

「さて、それではそろそろ始めようか。説明はこれくらいいいだろう。くれぐれも我々に逆らおうと思わないこと。逆らう者は容赦なく始末する。彼らのようにね」

 要がすっと右手あげると、教師に銃口を向けていた兵士が銃を構え直した。

 まさか。

 パン。パン。パン。パン。

 思う間もなく、教師の頭から一斉に血が吹き出した。

 鈍い音をたてて、崩れ落ちる。

 悲鳴を出すことも許されず、止めることさえ出来ず、生徒たちはその惨状を見守るしか無かった。

「さてそれでは、何か、質問あるかね」

 要はご満悦そうに僕らの顔を一周見つめた。

「さあ! 殺し合いを始めよう!」

 誰からも手が挙がらないことを確認すると、要はそれだけ言い残して壇上から降り、そのまま体育館の外へ去って行った。

 それもそうだ。この状況で、手をあげることのできる生徒などいるはずがない。

 要に続いて、武装した兵士たちも去っていく。

 全員がいなくなってからも、生徒たちは、石になったように動かない。

 動けない。

 しかし、一瞬の沈黙は直ぐに破られた。

 けたたましい音をたててクラスの間に置かれている黒い箱の蓋が開き、中から黒々とした拳銃が現れからだ。

 おそらくクラスの人数はあるだろう。

「取りたまえ。クラス全員分の銃を用意した」

 校内放送で要の声が聞こえてきた。

 放送室が乗っ取られたのだろうか。

 がらがら大きな音をたてて、今度は天井から様々な種類の大型武器が落ちてきた。

 ショットガン、ライフル、日本刀……。

 それらがまるで凶悪な雨のように、生徒たちに降り注ぐ。

 武器が直撃して、頭から血を流している生徒もいる。

「それはプレゼントだ。受け取りたまえ。早い者勝ちだ」

 半分の生徒が、反射的に、一斉に銃を手にした。

「今から一時間だけ作戦を練る時間をやろう。今からきっかり一時間、自分が所属するクラスの教室をセーフゾーンとする。他クラスの生徒は、セーフゾーンを襲って他のクラスの生徒を殺すことはしてはならない。わかったかね。ただし、クラスの教室外での殺し合いは大いに結構。やってくれ。殺されたくなければ、体育館から自分のクラスまで、走って逃げ帰るんだな。せいぜい、命を落とさないように。一時間後にはセーフゾーンは解除して、学校中を戦場とする。それでは」

 放送はそこで途切れた。

 一瞬の沈黙の後、何人かの女子が悲鳴をあげた。

 続いて聞こえた甲高い銃声。

 一瞬で、体育館は大混乱になった。

 僕たちの非日常が始まったのだ。

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