助っ人召喚!
大舞台を前に緊張しているところに、色々トラブルが押し寄せ、パニックになり、わけがわからないまま陽太に引っ張られていってる和人母です。
ミランダAこと佐羽ひとみ――和人の母とはすぐに合流できた。
目星をつけた関係者出入り口で待ち構え、出てきたところを即捕獲し、手近な物陰に隠れて追っ手のスタッフをやり過ごした後、和人の絵を見せたのだ。
最初は和人を攫った一味と疑われたが、待ち合わせに来ない和人を探しに出てきたと説明する。
「ああ、聞いてるわ……。わたし達、ミランダとして何もかも不詳のままで活動してるから、家族のためのチケットも用意できなくて――」
「そうなんですね……。まぁ俺も、和人君のお母さんがミランダAなんだって、わかったの今なんですけどね」
(お母さんだったとはね……。そりゃ、お百度でも何でも、やってやろう!って思うよなぁ……)
「……」
とりあえず身を隠そうと、ひとみのスタッフパスを使って、出てきたばかりの関係者エリアに二人で戻り、人の気配を避け、地下の倉庫へ入り込んだ。
追いかけてる方は、外に逃げたと思っているんだから、中に戻った方が見つかりにくいだろうという判断だ。
上の方から派手なオープニングの音が聞こえてくる――。
選考コンサートは何事も無いように、ミランダA不在のまま始まっていた。
「これが、届けられた写真と手紙――脅迫状、ですか……」
写真を見て陽太はうめく、暗い水場で和人が胸まで水に浸けられている写真だった。
口にガムテープが貼られていて、壁についている鉄製の梯子にロープで拘束されていた。
目隠しはされていなくて、怯えて、パニックになっている様子が写真からでもわかる。
こんなの見せられたら、親が取り乱すのは当たり前。さっき聞こえた感情的なひとみの声を思い出す。
「コンテストに出るなって……。最後まで出なければ、居場所を教えるって……」
「きったねぇなっ!」
ミランダAは最有力候補と言われる二人のうちの一人。
残り一人の候補関係者が犯人の可能性が高いが、その他にも動機を持つ人間は多くいる。
「最後までって……。三時間もあるのよ、このイベント!七人のパフォーマンス披露、採点結果途中経過発表、映画の概要説明他にも色々!相手の言うこと聞いたって、その間中あの子はずっと水漬けなのよ!」
声を落とさなきゃいけないのだが、ひとみの声はどんどんヒステリックになる。
「歌なんか歌ってられないっ!でも、ミランダにもなりたいの!私はどうしたらいいのよっ!」
「……うん、とりあえず、落ち着いてもらっていいですか?」
感情をむき出す大人の女性の相手は、中二男子である陽太には荷が重い――。
「ああ、ごめんなさい……」
ひとみは泣きそうな顔で、自分の髪をグシャグシャかき乱す。
「まず、一番大事なのは、和人君を無事に取り戻すこと。それもできるだけ早く――。人は体が冷えすぎると命に係わるって、聞いたことあるんで……」
ひゅっと、ひとみが息を吸い込む。
「んで、できれば、犯人も捕まえたい……。和人君をこんな目に遭わせたヤツ…ヤツ等かな?許せないからね」
「……でも、どうしたらいいの?あ、ああ……警察に連絡――」
ひとみは自分が逃げるのに必死で、警察への連絡をすっかり忘れていたらしい。
よくある『警察に連絡したら、命は――』の文言は、脅迫状には書かれていない。
「それも大事だけど、警察だと時間がかかるんで、その前に有能な助っ人召喚します」
自信満々に言い切る陽太だが、不安な顔を隠せないひとみだった。