お百度参り??????
祈りも、呪いも、思いっていう意味では同じかも。
「へ?百枚っ!?百枚も描くの?ミランダの絵ばっかし?」
驚いて確認する陽太の言葉に、少年――砂羽和人は頷く。
「願掛け、してるんだ。おひゃくどまいり?って言うのがあって、神様に本気で百回お願いしたらかなえてくれるって聞いたから……」
「いや、でも、お百度参りって……」
その言葉で陽太の頭に浮かぶのは、頭に蝋燭差して、神社の境内で藁人形を釘で打つ姿だが――。
「誰がそんなことを?」
「クラスの女子が、好きな人の名前を百回ノートに書いたら両想いになるって、話しているの聞いて……」
それはいわゆる『恋のおまじない』だ。
(お百度参りとは言わないよなそれ……)
子供ながらの誤解というか、曲解というか……。
願いを込めるという意味では同じかもしれないが――。
和人はそれを耳にしたとき、ただ名前を書くより、活躍している姿を絵に描いたほうが、もっと強い効果が出るはず!と、考えたと言う。
「こんな風に恰好良いんだって、神様に百枚見せれたら、優勝できるんじゃないかって……」
「優勝?もしかして、伝説の歌姫を探せコンテスト?」
「うん。僕、ミランダAに優勝して欲しいんだ」
最終審査に残っている七人は、今のところ全員ミランダ(仮)という体になっていて、それぞれにA~Gが振り分けられていた。
「ファンなんだ?」
「うん、ミランダAのファン」
「……ミランダ、のファンじゃないんだ?」
「今はまだ、ミランダじゃないんだって……。でも、コンテストに勝ったら、本物ミランダになれるんだ――」
イヤイヤ、コンテストに勝っても、本物のミランダじゃない――。
と、心の中で否定した陽太は、そんな自分に首を振る。
(なに思ってるの俺!ミランダは映画の中の人なんだから、本物も偽物もないって!元々が架空なんだってば!)
中二にもなって、空想と現実混ぜちゃダメだ!と、自分に突っ込みを入れる。
「わかった。じゃあ、俺もミランダA、応援するよ!」
一呼吸おいて、陽太はそう言った。
陽太的には偽物だと思ってしまうミランダA、でもその応援をして、もしミランダAがミランダになったら……。
少しくらい、何か変わるかもしれない――。
「ホント?」
和人が嬉しそうに問い返す。
「ああ、この絵を見せられたらねー。神様じゃ無くても、気持ちが動くって!」
実際、まだ小学二年生だというのに和人の画力はかなりのもの。
滑り台の上に立って熱唱するミランダ、ブランコに腰掛けしっとり歌う風情のミランダ等々、どれも額に入れて売り出しても可笑しくないレベルだ。
「すんげー、かっこいい絵だもん。願いの思いこもってるの、感じるよ」
(でも、偽物のミランダだけどな……)
描かれているのはミランダAだ。陽太が、これぞ本物!と信じるミランダではない。
(いや、だから俺っ!本物のミランダって、なんだよ、自分!)
心の中で突っ込んで、これは重傷だと、また一人で悶々とする。
「これ八十八枚目なんだ」
「え、後十二枚で目標達成じゃん!」
「うん!」
えへへへっと、スケッチブックを抱えて笑う。
屈託ない笑顔を見て、陽太は一瞬自分の悩みを忘れて嬉しくなる。
(平和だなー。いいわぁ……この感じ)
「そうだ、兄ちゃんもファンクラブ入ってよ!」
「え?ファンクラブってもう有るの?まだデビューはしてないのに?」
和人はミランダA~Gの七人すべてに、公式ファンクラブがあるという。
「じぜんちょうさ?に必要なんだって」
「あー、なるほど……。一般投票の目安になるのか……」
コンテストの事前投票は、投票券がついているミランダグッズを買うことでできるのだが、ファンクラブ会員になればそれにも一枚権利があるのだそう。
事前に一般投票の流れを知るにはちょうどいいだろう。
が……。
「グッズの数のちょうせい?って言ってた」
「そっちかよ……。世知辛いな……」
優勝決定選の会場で、コンサートグッズが売られるので、その調整のためだそうな――。
不良在庫を抱えたくないのはわかるけど――。
(思いっきし、出来レースの臭いがするんですけど……気のせい!?)
少しスレた感想を持ちながらも、ファンクラブの登録窓口になっているアミューズメントショップに行く。
店内に張り巡らされた選挙ポスターさながらの、ミランダA~Gのポスターにドン引きしながらも、ファンクラブ登録と事前投票を完了するのだった。