画伯ですか?
自分が記憶を失っていることを知らないので、なぜミランダにこだわってしまうのか、自分で自分がわからない陽太。一般にこれは恋と呼ばれますが――。
悩んでいるうちに、新しい友人ゲットです^^v
「なんか、違うんだよなぁ……」
学校帰り、陽太は家を目指してぽくぽく歩きながら、ついぼやきを口にしてしまう。
歌姫を探せ!企画が発表されてから、すでに数か月が過ぎていた。
地域大会は大盛況の元に終了し、本選に臨む七人が選出されている。
激戦となった各地の戦いを勝ち残った七人は、いずれ劣らぬミランダっぷり。
七人は映画のような特殊メイクは経費の関係で施せないというのと、公正を期すためということで、全員同じ猫耳&顔上半分を隠す仮面着用となっている。
来月には某ドームで七人のパフォーマンスが披露され、その後、結果が発表がされる運びだ。
その様子はテレビの全国ネットで、ライブ放映されることになっている。
地域大会の盛り上がりも含め、番宣としては大成功だろう。
映画会社の本気をめちゃくちゃ感じる――。
「でもなぁ、なんかなぁ……」
足を止めて地面を見つめる。
「違うんだよな……」
どうしてなのかわからない、もやもやする。
『伝説の歌姫を探せ!』が、どうしても気にくわない。
所詮、作り物の映画キャラ、演じる力があるのなら誰が演じることになっても良いはず。
でも、気に食わない。
――あのミランダじゃなきゃ、ミランダじゃない……。
どうしてこんなにも頑固に固執してしまうのか、自分で自分がわからない。
「……なんなんだ?この、俺のわがまま感情――」
ため息をつきながら、歩道をそれて脇にある公園へ入っていく。
ぐじぐじ悩んだまま帰宅すると、母に心配されてしまうのだ。
「つか、なんでうちのオカンって、あんなに勘が良いんだろう……?」
レンガ造りの花壇のふちに腰を掛ける。
だいたい、ぶちぶち言ったところで、一般人の陽太にはどうしようもないこと。
わかっているのに、ついつい不満が顔に出てしまって、美蘭に変に心配されたり、からかわれたりしていた。
「・・・・・・」
理解できない自分の感情を持て余し、息を吐きながら天を仰ぐ。
コンクリート製変わり滑り台、ブランコ、雲梯などの遊具と、ベンチがいくつか点在しているこじんまりとした公園。
昼間にくると、保育園や幼稚園などの活動場に使われているが、中学生の陽太が帰る時間だと、もう片手で数えるほどしか人影はない。
夕方でも、昼でもない中途半端な時間。
一人で考え事をまとめるには良い時間なのだが、一向に靄は晴れない。
「……空見てたって、答えはないよなー」
空を見上げて今の自分を理解しようとするも失敗し、諦めて帰ることにする。
と、数歩行きかけて、何気に視線を向けた先にいた少年が気にかかって足を止めた。
花壇の脇にあるベンチに座り、スケッチブックを抱えて、一心に何かを描いている。
座っているので背の高さなどはわからないが、顔の幼さからしてたぶん小学校二、三年生。
学校帰りらしく、ランドセルがその子の脇に置いてあった。
低学年の帰宅時間から考えると、かなり長くこの公園にいたってことになる。
そういうのも気になるが、それよりも――
「なに、あの、めちゃ鬼気迫る感じ……」
幼い顔に似合わない、真剣な眼差しと引き締まった口元。
一生懸命――というより、決死の風情で手を動かす様子と、身体全体から感じる強張った気配。
(子供が纏うような気配じゃないんですけど!?)
そう思う陽太自身が、今は中学二年生という、子供の範疇に入る存在なのだけれど、本人はそこのところに気が付いてはいない。
気が付けないまま、惹かれるように陽太はその少年へ近づいた。
「ん?ミランダ?」
「えっ!?」
座っている少年よりかなり視線が高かった陽太は、自然にスケッチブックを覗きこむ形になった。
そこに描かれていたのは、滑り台の上で熱唱しているミランダ――。
振り向いて、滑り台に目を向ける。
もちろん、滑り台の上にミランダの姿はなかった。
絵のうまい人って、羨ましい。