伝説とは
異世界の伝説のせいで召喚され、魔王を倒す羽目になり、挙句の果てに人生やり直し中の陽太。
『伝説』という言葉の扱いの軽さが不満です。
「と、言うわけで。伝説の歌姫を探せ!プロジェクト始動だそうよ?」
あんたの読み、当たったわね。と、外出から帰ってきた美蘭が陽太にチラシを渡す。
「はい?何が『と、言うわけで』?てか、どこでもらってきたの、こんなチラシ!」
陽太は渡されたチラシを、グシャ!っと握りしめようとして、寸でのところで思いとどまる。
チラシには『伝説の歌姫を探せ!』のポップ文字とともに、ミランダの写真が印刷されていたのだ。
美蘭はどうやらそこのところを考慮して、陽太のためにくれたらしい。
「本屋さんで雑誌買ったら、袋の中に一緒に入ってたのよ。店内に募集ポスターも張ってあったわよ」
チラシと同じ柄のポスターだと聞いて、思わず欲しいと思ってしまう陽太。
「さっきテレビでもこれのニュースやってたけどさ。これって『探せ!』じゃなくて『決めろ!』だろって、俺は思う」
「うん、その主張に関しては、あんたの言葉であってるとは思う。まぁ、インパクトの問題ねー」
「くそう…、やっぱり最初っから、番宣がらみの偽物騒ぎだったんじゃん!こういうの、ステルスって言うんじゃねーのっ!?」
「まあまあ……」
憤慨している陽太を、美蘭がなだめる。
単純に言えば、映画キャスト選出公開コンテスト。
それが決まったというチラシだ。
ルールは簡単。
自称ミランダたちの地方選を行い、最終審査に七名を選出し、その中でトップとなった者が、『伝説の歌姫ミランダ』として映画に出演となる。
映画出演とともに、歌手デビューも約束されるという。
芸能界デビューを夢見る人間にとって、ものすごーく!魅力的な話だろう。
が……感じ方は、人それぞれ。
「なるほどね……。今度は逃げられないように、最初から歌手デビューまでセットにしちゃうんだ」
「なんか、ミランダに対する当てつけみたいで気にくわない……」
ぶっすりと陽太は言う。
「それにしても、ミランダって、いつから伝説になったんだろうね?」
美蘭は首をかしげる。
「伝説って、古くからの言い伝えってことなのにねぇ……。つい数年前のことなんて伝説とは言えないわ。だいたい、実際に現れたらその時点で伝説とは言えなくなるんじゃない?」
「うん、なんか伝説が軽いよね。伝説って、こういうもんじゃないと、俺は……」
言いかけて、ふっと陽太は言葉が止まる。
(伝説が軽い?じゃあ、重い伝説ってなんだ?)
自分で言った言葉が、頭の奥の深いどこかにひっかかる――そんな、気持ちの悪い感触がした。
「陽太?」
「うん?なんでもない。とりあえずー、俺はミランダに会いたかったけど、なんかこれは違う!ってことで!」
「いやいや、『ってことで』って言ってもね?もう、募集されてるからね?」
「うう……始まったら始まったで、楽しんで見てしまいそうな自分がいる……」
チラシを見つめ、微妙なファン心理をつぶやいてしまう陽太だった。