97.脱出を
「では、次は俺が」
「何? 私が行って駄目なのを、トランでは・・・」
メーメ様が眉を潜めてトラン様を見る。
私は説明に口を開いた。
「いえ、あの、メーメ様が行かれている間に、精霊と話をしていて・・・無事に済みそうにないと精霊も分かっているみたいで、代わりに、あの巨人から落ちてきた石、できれば大きい方が良いらしいのですが、それを避難させてほしいと頼まれました」
「だから、次は俺が行きます。まだ体力が余っている。俺は数発撃っただけです」
「・・・そうか。分かった。なら、トラン、頼んだぞ」
「はい」
決めた内容だけど、私も急に不安になる。
「トラン様、気を付けてくださいね」
「あぁ」
***
「危ない! 上、避けて!」
「サファイア・ブルー様! 魔法を打たないでくれ!」
「アウル・フクロウ様っ! 正気に戻ってくださいませ!」
離れたところで私とメーメ様、そしてミルキィ様までが叫んでいる。
戦闘が激しくなっていて、地面がグラグラ揺れている。
トラン様が転びそうになりながら、なんとか持ち帰れそうな石に向かおうとしている。
お守りに避難した精霊がシクシク泣いている。
トラン様、トラン様、無事で・・・!
両手を組んで心の底から祈りながらトラン様の動きを見ている。
『おねがい、トリーの核、取られちゃうわ・・・! おねがい、助けて・・・!』
えっ、核!
「どうすれば良いんですか?」
『私、トリーに伝えるから、持ってくる石に、核をうつして』
「意味が分かりません・・・!」
ミルキィ様に助けを求める。ミルキィ様も分からないようで首を横に振った。
「どうした?」
とメーメ様。
「核が取られちゃうから、助けてって精霊が言っています。持ってくる石に核を移してって」
「どういう意味だ」
「分かりません・・・!」
「くそ。持ってくる石に、核を移す? トランが取ってくる石か? つまり何でも良いのか? 移すのはどうやるんだ、方法は分かるのか」
『トリーの一部なら大丈夫、呼べば、私がそう伝えるから』
「呼べば、伝えるってどうするの?」
『わたし、トリーのところに戻りたい。でも、ねぇ、石に移したら、急いで、逃げたいの。逃げてくれる?』
わからないー!!
「ミルキィ様、どうしましょう!?」
「トランが戻ってくる!」
メーメ様の指摘に見る。トラン様がケガしてる!
「トラン様!」
「大丈夫だ、ちょっと掠っただけだ。すぐ治る。それより、石、これで良いのか」
『ありがとう』
「精霊がお礼を言ってます、ただ・・」
ポゥ、と精霊が飛んだように見えた。
石の上に着地する。なんだか、私のネコのお守りの時にずっと小さくなったけど、石の上に飛んで、さらに小さくなった。大丈夫かな・・・。
『このまま、トリーとはなしを、させて、お願い・・・たすけて・・・』
「どうやって? 話って、どうするの? ここからできないの?」
『近づいてほしいの・・・ごめんなさい・・・』
「トラン様、この石を持って近づいてって言ってます」
「はぁ!? どこまでだ」
「次は私が行こう。トランは休め。交代だ」
「いえ、私が、行きます」
と私が申し出た。
「駄目だ、危ない」
とトラン様。
「でも、声が聞こえる人が行った方が良いです、だから私の方が良いです」
「・・・なら一緒に行こう」
「トラン様は戻ってきてお疲れです」
「大丈夫だ、行こう。俺が行きたい」
***
また二人で派手に魔法が繰り出されている空間に出て行く。
私とトラン様で石を持っている。トラン様は片手にピストルも。器用だ。
『トリー、聞こえる? 私は無事よ。一緒ににげましょう・・・! 壊されちゃう! 早く!』
「トリー!」
私も呼んだ。
「トリー! ヴィクトリーが呼んでいるわ!」
後ろから、ミルキィ様の声もした。
「伏せろ!」
メーメ様の声がした。トラン様が私を抱き込もうとした。
バチバチッと周囲に音がして、金色の火花が散る。
その上を炎が走っていった。ギョッとする。炎の龍みたいなのが宙を走っている。
「くっそ、周りが見えていないみたいだな」
トラン様も周囲を見て舌打ちをしている。
「これ、サファイア様の魔法ですか?」
「そうだろうな。それより、精霊はどうだ?」
『トリー! トリー! 早く、逃げましょう・・・!』
精霊が泣いて訴えている。
頭上を見ると、グルン、と目が合った。岩の中の、大きな丸い赤い瞳。
「と、とりー・・・」
赤い目が閉じた。
「成功か!?」
トラン様の声に下を見る。石の真ん中に、赤い丸いものが埋め込まれている。
『トリー! 良かった、逃げましょう・・・! 逃げなくちゃ・・・!』
『あぁ・・・でも、なんて酷い世の中だろう』
初めて聞こえたのは、カラカラにかすれた、男の子の声だ。
「トラン様、逃げましょう!」
「よし!」
***
メーメ様の魔法が大活躍で、私たちはメーメ様とミルキィ様の待つ場所に戻った。
「早くここから逃げなくちゃって言ってます」
と精霊たちの言葉を伝える。
ミルキィ様も、コクコクと頷き、メーメ様を促した。
「だが、アウル様たちが」
「アウル様たちが勝つはずだ、核がこちらに移ったのなら、あのお二人が攻撃されることも無いのでは」
「確かにな」
こうして、私たちは急いで、巨人と戦うアウル様とサファイア様から離れることにした。




