93.依頼されたこと
どうしていいのか分からない空気と時間を持て余していたら、
「皆様。お待たせいたしました」
やっと神官の方から説明があった。
***
この中央神殿の地下には、この国を守る大事な神聖なアイテムが収められている。
というのは、この国の周辺、もともと魔物がうようよ湧いて出るような危険な土地だったそうだ。
それを勇敢なものたちが、アイテムを使って魔物が出てこないような土地に変えた。
そして、将来の安定を願い、女神さまの加護も貰って、湧いてくる部分にそのアイテムを設置したのだ。
なのに、数百年単位で、そのアイテムが古くなって修復が必要になるという。
だけど神殿は警戒をしているから、被害の出はじめぐらいで、修復の時期が来たと気付くそうだ。
そして適任者が選ばれて、修復にあたる。
ただ『被害の出はじめ』とは何か、というと、弱い魔物が地下に出てくるようになること、だそうだ。
だから、『修復する人を守る人』も必要だけど、中央神殿には選ばれた人しか行けない。
だけど、修復する人が一番信頼し気持ちを通わせている人、だいたいが夫婦とか恋人とか、なら例外で行けるらしくて、だからそういう人たちが『守る人』として選ばれるそうだ。
「ですので、専用の武器をお渡しいたします。それぞれ、使いやすいと思われるものをお選びください」
「うあ」
と、見せられた武器に、トラン様が驚いている。
なぜなら、銃とかが並んでいるから。
この世界、中世ヨーロッパ的乙女ゲームじゃなかったの?
「大丈夫ですか、トラン様?」
「あぁ。まさか・・・いや、大丈夫だ」
小さな声で聞いてみると、小さな声で、大丈夫だ、と頷かれるトラン様。
メーメ様は、首を傾げている。
「狩猟に使うものだが私は使ったことが無い。経験のないものを非常時に持たされても役立つと思えないが」
「では、剣や鎌はいかがでしょうか。少しでしたら、魔法用紙もございます」
メーメ様は真剣に見つめている。
一方、アウル様たちは速やかだ。
「俺はライフルで」
「私も持って良いのかしら?」
「良いんじゃないか。どれにするんだ?」
「あなたがライフルなら、接近戦の武器が必要だと思うの。あ、これ、レーザー銃」
「レーザー?」
「えぇ。特別管理されているはず」
「きみは何でも知ってるよな」
「ふふ、精霊たちが色々教えてくれるのですもの!」
やけに慣れておられる感じ。
サファイア様は魔法使いらしいので、戦ったりとか今までご経験があるのかも。
それで。トラン様も、手を伸ばされた。
「ピストルがあるのか」
と不思議そう。
「狩猟に銃身の長い銃を使うんだが、この形は・・・見たことがない」
と、言葉をどこか選んで私に言ってくださった。
今世では見たことが無い、ということかも。
「使うの、難しそうですか? 大丈夫ですか?」
「あぁ。大丈夫だ。むしろ重いライフルより、俺はこちらの方が良い」
そしてメーメ様は、ミルキィ様に、どれが良いか適当に選ばせるようにしたようだ。
ミルキィ様、チラチラとメーメ様を見つめて、小さな本を指差された。
魔法がいくつか使えるようになる冊子のようだ。
「なら、これにしよう。使う必要が無ければいいが」
「では、皆様、早速で申し訳ございませんが、地下にご案内いたします」
***
「ここからは適性のある方しかいけません。どうぞご無事でお戻りください」
そんな言葉と共に、パタン、と重厚な扉が閉められた。
「・・・『無事で』だと? 間際にとんでもないことを言われたが」
トラン様が驚いて、背後、閉められた扉を見て呟いている。私に視線を向けるので、私も困った。
「実は危険なんでしょうか? 簡単に連れて来られてしまいましたが」
「大丈夫! 私がいます! 守りますわ!」
サファイア様が髪の毛を後ろに払う仕草で、宣言してくださる。自信満々。頼りになる。
「そうだな。俺もいる。俺たちが年長者だ、指示に従ってもらおうと思うが、良いか?」
とはアウル様。
「はい」
メーメ様とトラン様が同様に返事をした。
***
「サファイア、どこに向かえば良いか分かるか?」
「んー、待って、そう、右から3つめの扉が正解だわ。だけど、向こうに魔物が3体いる」
「閉めたままで消せるか?」
「えぇ、任せて!」
年長組が頼もしい。私たちはついていくだけ。
とはいえ、ミルキィ様が不安そうにしている。演技じゃなくて、怖そうで、メーメ様の左腕に捕まっておられる。
私も不安。私とトラン様が最後尾で誰にも見られないというのもあって、いつの間にか手を繋いでいる。
トラン様の利き腕は右手だから、トラン様の左手を。
「消したわ!」
「さすがだ」
息の合った先頭のお二人は、声をかけあって右から3つ目の扉に進もうとした。
「お待ちください・・・」
と、ミルキィ様が声を上げた。顔が強張っていて、さらにギュッとメーメ様にしがみつきながら。
「どうした、ミルキィ・ホワイト嬢」
「大丈夫よ、向こうの敵は消したのよ」
「いえ、そちらは進んではいけないと、思いますの・・・メーメ様、私、あちらは嫌です」
泣きそうになって、ミルキィ様がメーメ様を見上げて訴えている。
演技じゃなくて、本気だと思う。
メーメ様が心配そうだ。
「ミルキィ。きみは現時点で最も聖女に近い存在だ。きみは自分の感覚を信じた方が良い。私はきみを信じる」
「聖女って・・・」
サファイア様が少し不満そうに呟いた。
「聖女って?」
私は、隣のトラン様に小さく尋ねる。
「3年に一度、神殿に選ばれる。女性には憧れの役割だそうだ。ミルキィ・ホワイト様は去年候補に指名されている」
「すごいのですか?」
「平和な時代だから、名誉職だな」
私たちの会話を、チラ、とメーメ様は見やったが、やはりミルキィ様を心配している。
ミルキィ様がメーメ様を引っ張るようにするので、メーメ様は立ち止った。
当然、その後ろにいる私とトラン様も。
「でも、ルートはこっちで間違いないわ。その、私ってこういうの勘が良く働くの。ね、じゃあ一度扉を開けてみる。大丈夫、何が出てきても、私とアウルなら対応できるの。任せて!」
サファイア様が自信満々にミルキィ様に答える。
「駄目・・・メーメ様」




