91.適任者選び
不安な気持ちのまま、しばらくそこに留まっている。
ミルキィ様はじっと周囲を見つめておられる。
サファイア様はなぜか微笑みさえ浮かべて余裕のご様子だ。
「お待たせしました。前の方から、順番にこの金属を持っていただきたい。地下神殿に異常が見つかった件、お聞き及びの方もおられることと思いますが、この金属で、適任者か判断いたします。適任者と私たちが判断した方には、残っていただき、修理の依頼をさせていただきます。また、今回適任では無いと判断された方は、すぐにお戻りいただきますので、ご安心ください」
神官の男性が6人も現れて、一人がこんな説明をした。
皆が不安そうにざわざわと動く。
「どうぞ」
一番前にいた女の人に、さっそくその金属を持たせたみたいだ。
「なるほど、ではあなたは戻っていただいて大丈夫です。この度は急な招集に応じていただき有難うございました」
「え、あ、はい」
拍子抜けしたような安心したような声があがる。
それでも一人の神官さんに誘導され、私たちの後ろ、小さな丸が描いてあるところに立たされる。
「忙しいところ申し訳ありませんでした。ご協力感謝いたします」
「いいえ、どういたしまして・・・」
少し苦笑を浮かべて、女性が笑う。
トン、と神官の人が壁を叩くと、女性の姿はスッと消えた。
驚いたけど、状況から考えると、きっと初めにいた場所に送られたんだろう・・・。
私たちが学院から突然この部屋にきたのと同じ仕組みだ。きっと魔法。すごいな。
***
前にいた人から順番に金属を渡されている。そして、今まで全員が帰っている。
ドキドキしてきた。
まさか残ってしまったらどうしよう・・・。
「あら? あなたは、白系統ではありませんのね・・・」
帰る事になった一人が、私たちの傍を通り過ぎながら、不思議そうにサファイア様を見つめた。
サファイア様は困ったように微笑んでいる。
不思議そうにしながら、どこかおっとりしたその人は、神官の人に促されるままに白い円の中に入り、姿を消した。
チラ、とサファイア様を見る。
私の視線に気づいて、サファイア様は気まずそうに視線を逸らせた。
それから、ミルキィ様を私は見た。
サファイア様を、不思議そうに首を傾げて見つめている。ちょっと睨んでいるかのようだ。
あれ。そういえば、今まで帰って行った人たち、なんだか雰囲気が似ているなぁ。
ちょっと独特にのんびりしているようなところがあるというか。マイペースというか。
「もしかして、全員、白系統なのでしょうか?」
気になって、呟いてみる、が誰に聞いて良いのか分からない。
サファイア様もミルキィ様も黙っている。
先ほど女性を送った神官の人が私の呟きを拾ったようで、私にニコリと笑んだ。
「そうだよ。神殿に関わる人は、白系統に決まっている」
え。サファイア様は違う系統らしいです?
そう思って、チラ、とサファイア様を視線で示すようにすると、その神官の人も、少し首を傾げつつ、笑みを浮かべたまま前に戻っていった。
「サファイア様って、ものすごいのですか?」
と話題にした手前、気まずくなってサファイア様本人に聞いてみた。
「え、えぇ、まぁ、色々と功績を上げたので、その結果ですわ」
とどこかツンツンしてサファイア様は答えてくださる。
『フフ』
小さな笑い声が聞こえた。
え。
聞き間違い? 驚くと、サファイア様の左肩に・・・。
「! 精霊!」
「え、あ、駄目よエーリテ!!」
私の驚きに、サファイア様はハッと驚いた。
「精霊ね・・・? 時の精霊、エーリティシモ。どうして?」
ミルキィ様も目を丸くしている。
「偶然! 仲良くなったの! 友達なの!」
「まぁ・・・」
サファイア様はどこか必死で左肩を抑えようとしたが、エーリテという名前らしい、半透明のお星さまみたいな形の精霊は、ふわっと嬉しそうに前に出てきた。
『あれ? きみ、なんて名・・・』
私を、キラキラした目で見つめてくる、この精霊は・・・。
「エーリテ! 戻って!」
サファイア様の悲鳴じみた声に、ヒュッと精霊の姿は消えた。
驚きのまま、私はサファイア様を見つめていた。
だって、今の精霊・・・乙女ゲームの、主人公をサポートしてくれるお助け精霊、そのままだった・・・。
「驚かせて、ごめんなさい、好奇心の強い子なの、それで、その、そうなの、私がここにいるのはこの子と仲良しだからだと思うわ!」
「そ、そうですか・・・」
なんとかそう答えながら、信じられない気分でサファイア様を見つめてしまう。
サファイア様は慌てている。
「ほら、あ、もう私たちの番ですわね、白系統なんでしょう、でしたら先にアイテムを受け取られてはいかがですの、ねぇミルキィ・ホワイト様!」
「・・・」
ミルキィ様は未だに不思議そうにサファイア様を眺めていたが、サファイア様が言ったことも事実だった。
つまり、神官の人がアイテムを持って傍に来ている。
ミルキィ様が無言で、滑らかに光っている金属の板を受け取ると、途端に、ミルキィ様の周りに、白いフワフワしたものが現れた。
雪のよう。だけど、もっと大きくて毛玉みたい。
「ケセラン・・・」
思わずつぶやいた。
ミルキィ様の婚約者の、メーメ様が、私に教えてくださった存在だ。
「おぉ。ミルキィ・ホワイト嬢。あなたが適任者でしたか。どうかこちらへ」
「・・・」
ミルキィ様が神官の人に前に連れていかれる。
ミルキィ様の周りにフワフワ現れたケセランが、そのままミルキィ様の周りに浮いている。ちょっと可愛いな。
そして、じゃあ、もう私は違うから、帰るんだよね?
と思ったのだけど、神官の人が私にもその金属を持ってきた。
一応受け取る。
ふわ、と風が吹いたみたいになって、辺りが白く光ったように感じて。
私の周りには、ミルキィ様と同じくケセランが浮いていた。
「・・・!」
「おお。えーと、きみは・・・名前は?」
「キャラ・パールです。平民です・・・」
「いや、身分は問わない。ではキャラ・パール。きみも適任者らしい。こちらへ」
「いってらっしゃい」
と言われてみれば、サファイア様だ。面白そうに私を見ている。
そんなサファイア様にも、金属が渡されて・・・。
「!」
パァッと光り、サファイア様の周りに3重の虹が現れた。




