90.神殿に
「少し。それに関わっているのでしょうか」
「えぇ。誰かが、助けないといけないでしょう」
「サファイア様。どうして、サファイア様も神殿に?」
ふとミルキィ様が会話に入られた。不思議そうな声だけど、どこかじっと観察するようにサファイア様を見つめておられる。
「どうしてって、どういうことかしら、ミルキイ・ホワイト様?」
「サファイア・ブルー様は魔法使いですわ。神殿と関わるのは白系統のみ。白は魔法使いにはなれませんの」
え、魔法使い!?
驚いてサファイア・ブルー様を見ると、私の視線に気づかれたようで、ちょっと焦ったようにサファイア・ブルー様は目を逸らし、けれどツン、と顎を上に向けて澄ませた。
「秘密にしておりますのに、軽々しく人前で言わないでくださいませんか。淑女にあるまじき思慮のなさです、ミルキィ・ホワイト様」
サファイア・ブルー様がツンツンしている。
「サファイア様は、神殿とは関われない系統のはず」
ミルキィ様は、睨んでいる。
なに、このお二人、仲が悪いの?
どうしよう。どうしようもできないけど。
困ってトラン様の腕をつついて、トラン様と視線を交わす。トラン様も困った様子だ。
「学院長はどこに。呼び出しておいて先生方がおられないとは」
「すぐに戻るはずですわ」
とサファイア・ブルー様。
どうやら、サファイア・ブルー様が一番、何が起こるのかを知っている様子だ。
だけど、まだ誰も来ないし、動かない。
なんだか緊張して、私はこの空気を変えたくて、後、実はやっぱり興味があって、口を開いた。
「あの、私、魔法使いに憧れていて・・・」
皆が、ピク、と私の言葉に反応して私を見てくる。
「その、本当に魔法使いなのですか・・・?」
恐る恐る、そうサファイア・ブルー様に尋ねてみる。
サファイア・ブルー様は偉そうに髪を肩のところで後ろに払いつつ、どこか自慢げに私に答えた。
「そうよ。その、いろいろ、私は幸運だったの。その・・・そう生まれついたのよ」
「すごいです」
「ふん」
サファイア・ブルー様が、なぜか気まずそうに見える。どうしてだろう。
そして、ミルキィ様がなぜかサファイア・ブルー様を睨みつけている。
怖いよー。トラン様も困惑している。
***
やっと学院長の先生が来た、と思ったら、急かされて移動するように言われて、ついて歩く。
棟を出て外の道を歩いて、入ったことのない場所に連れていかれた。
白い廃墟みたいな建物があった。なに、怖いんだけど。
「昔の教会だな。今は使われていない建物だ」
私の傍にいてくださるトラン様が教えてくださる。
「まずいな。俺が傍にいれない状況になるかもしれない。お守りはきちんと持っているか?」
「はい。ポケットに」
「サファイア・ブルー様は実力のある方だ。もし俺やルティアたちが傍にいれない場合、サファイア・ブルー様を頼れ」
「はい・・・」
「数々の武勇伝も持っておられる。隠しておられるが、英雄なんだ。きっと助けてもらえる」
「はい」
***
白い建物の中に入る事になった。
先生2人があわただしく動いている。
部屋の一つ、床に白い大きな円が書いてある。
「ここから、中央神殿に移転できる。緊急指名されたのは、ミルキィ・ホワイト嬢、サファイア・ブルー嬢、キャラ・パール。円の中に入り給え」
と先生。
「待ってください。使用人や護衛は」
トラン様が焦ったように、学院長に尋ねた。
「移転先は中央神殿だ。不安になる事はない」
「まさか。せめて1人、いや、俺も行きます」
「馬鹿な事を、トラン・ネーコ様。これは、神殿が指名した者にしか働かない。つまりそれだけ安全だという事だ。それほどキャラ・パールが気になるのなら、別の手段で行く他ない」
学院長がトラン様を窘めている。
トラン様が硬い顔をして私を見た。
「すぐ行く」
「無理されないでください」
トラン様の言葉に、そう伝える。だけど不安だ。ルティアさんとも離れてしまう。どうしよう。
「トラン・ネーコ様。キャラ・パール嬢と最も懇意にしているのはきみか?」
部屋の準備をしている先生の一人が、そうトラン様に尋ねた。
「・・・はい」
と、トラン様が真剣に答えてくださる。私も頷いた。
「なら、時間がかかるような場合、きみも呼び出されるはずだ。それに呼び出し先は神殿だ。そこまで心配するな」
「これはどのような呼び出しなのですか」
「トラン・ネーコ様。それほど心配なさらずとも、私がなんとか致しますわ」
サファイア・ブルー様が声を上げた。胸に手を当てて堂々としている。
「神殿といっても人の手で継がれてきたもの、数百年経てば綻びも出てしまいます。それを正す必要があるのです」
「そうなの、ですか?」
トラン様が不安そうにサファイア・ブルー様に確認されている。
「えぇ。私、こうみえて、神殿についても、少し詳しいのですわ、各地の書籍を読んでいた時期がありますので」
「先生? もう動かしてくださいませ」
と、ミルキィ様。なんだか詰まらなさそうだ。
「あぁ」
先生も、ミルキィ様のそんな態度に驚いたようだけど、頷いて、床に手を伸ばして、そこにあった平たいスイッチを入れた。
ピカッ!
急に光った、眩しい!
思わず目を閉じる。
それからそっと目を開けると、さっきまでいた部屋と景色が変わっていた。
広い部屋の中だ。
隣にはミルキィ様とサファイア様お二人ともそろっている。
目の前には、10人ぐらいの、女の人。私より小さい子もいるけど、年上が多い。
みんな困った様子で、私たちに気づいて視線を向けてくる。
「中央神殿よ」
と、サファイア様が教えてくださった。
サファイア様、ここに来たことがあるのかもしれない。




