89.サファイア・ブルー様
ちなみに、このお店、基本的にお客様は店内にはいない。
必要があれば、品物を持ってお屋敷に行く事の方が多いからみたいだ。ちなみにその際は、カレンさんではなくて、ちょっと怪しげな雰囲気の旦那さんが行くそうだ。いかにも、って感じが良いらしい。
それはさておき。
「すみません、お待たせしてましたか・・・?」
「いいや、良いんだよ。あんたに起こったことも聞いて知っているから余計にね。だけど今日は伝えておきたいことがあったんだ。来て欲しいと願ってたから、来てくれて良かったよ」
なんだろう?
カレンさんは私を見て、それからルティアさんたちを見た。
「地下神殿に異常が見つかったって言う話は、聞いているかい?」
「え、いいえ・・・」
「少し」
私は否定したけど、ルティアさんは何か知っているみたいだ。
「そうかい。地下神殿は知ってるかい?」
「いいえ・・・」
「そうだろうね、普通は知らないでいるものだからねぇ」
カレンさんがため息をつく。
えーと・・・?
「先に大切なことを言っておくよ。今日、神殿の使いがうちにも来てね、誰か候補になりそうな人を知らないかって言われて、キャラ・パールっていう平民の子も優秀だと思うよ、って推薦しておいたんだ」
「え?」
「まぁ。困りますわ」
ルティアさんが驚いてカレンさんに抗議する。
「だけど、神殿と仲良くなるのはこの子にとって自然な事だから、良い事だと思ったんだ。白系統で女神の加護まで持ってるんだからね」
「あの、推薦って何が、えっと、どうなるんですか?」
「神殿の手が足りない時に、人手として呼び出されてしまいますわ」
とルティアさんが困った様子で教えてくれる。
「まぁ、作業しながら聞いておくれ」
カレンさんが、私にいつもの作業の場所を指差すので、とりあえずアルバイトをしながら話を聞く事に。
***
どうやら、神殿には地下に重要な部分があって、そこが壊れたり異常が見つかると、神殿にいる人だけでは手が足りなくなる時があるらしい。
その際、適任者を募集して選んだ人に、異常を直すように依頼するんだそうだ。
ただ、数百年に一度ぐらいの頻度で、詳しい事がカレンさんにも分からない。
「責任を取って、キャラ・パール様に身の安全を保障するような呪いのアイテムをくださいませ!」
ルティアさんが訴えるようにカレンさんに伝えたところ、
「そんな危険じゃないだろうよ、神殿なんだから」
と言いつつ、カレンさんは私に『幸運アップの呪い』というものを即席でかけてくれた。
何事も無かったら良いんだけど。
***
翌日。
今日も迎えに来てくださったトラン様と一緒に教室に。
「キャラ・パール、やっと来たか!」
「すぐに学院長室に行きなさい」
先生2人が私を待ち構えていたようだ。
全員の視線が私に集中する。私は思い切り動揺した。
「あの、私、何かしました、か・・・?」
「良いから早く行きなさい」
「俺も行こう。恐らく、先生方も細かく伝えられないんだろう」
トラン様が、顔をしかめ、真剣な顔でそう言ってくださった。
***
学院長室に行くと、なんと、ミルキィ様がお茶を飲みつつくつろいでおられた。
えっ、なに!?
「あら。キャラ・パールさん。あなたも?」
とおっとりと美しく笑うミルキィ様。
「は、はい、先生に急いで学院長室にって言われて・・・」
私の言葉に、ニッコリ笑んでくるミルキィ様。相変わらずお美しいけど、言葉による返事が少ない人なので、状況がやっぱり分からない。
「おはようございます、ミルキィ・ホワイト嬢。どのような理由で呼び出されたか、あなたはご存知なのでしょうか」
一緒に来てくださったトラン様が、ミルキィ様に確認してくださる。
が、ミルキィ様は優雅に首を傾げられた。
ご存知ではないのかもしれない。
「トラン様、トラン様は授業に行かれなくて大丈夫ですか?」
一緒にいて欲しいけど、呼ばれたのは私だけだ、あまり迷惑をかけたくもない。
「安心できない。状況が分かるまで俺もいる」
「お二人は、仲が宜しいのですね」
割り込んできた声に驚いて、扉の方を振り返る。
扉の横に、ものすごくキツイ顔立ち、だけど美しい人がいた。深い青色のドレス。
あれ、このご令嬢、特徴ある美人過ぎる気がする。
トラン様が驚いたように、丁寧な礼をされた。
「おはようございます。サファイア・ブルー様。紹介させてください。こちらは、キャラ・パール嬢。平民ですが、学院に通う事を許された生徒です。ポニー・ウゥーマ様とスミレ・ヴァイオレット様と同じクラスです」
「ごきげんよう、キャラ・パール様。出会えたこと光栄ですわ」
とサファイア・ブルー様はどこか上から目線で私に笑いかける。
トラン様が、次に私に紹介してくださった。
「キャラ・パール嬢。こちらはサファイア・ブルー様だ。すでに数々の領地改革に成功され、一方で災害を未然に防いで下さるなど、先見の明のあるお方だ。俺の2つ上、きみの3つ年上のブルー家のご令嬢だ」
私も礼をした。
「サファイア・ブルー様。どうぞよろしくお願いいたします」
サファイア・ブルー様が私にどこか澄ましたように笑んで見せられた。
「トラン・ネーコ様と懇意にされていると噂ですわ。本当にその通りですのね」
「き、恐縮です。いろいろあって、困った時に助けていただいているのです」
私は慌てて、そんな風に返事をした。
サファイア・ブルー様、なんだか私を値踏みしている・・・。
そんなサファイア様に、トラン様が尋ねれた。
「サファイア・ブルー様。理由をご存知なら教えていただけませんか。どうしてサファイア・ブルー様、ミルキィ・ホワイト様、そしてキャラ・パール嬢が呼び出されているのでしょうか」
「あら。神殿で異常があったという話は、聞いておられませんか?」
と、サファイア・ブルー様は意外そうに目を丸くしてトラン様を見た。




