83.ドレス選び
淡い紫色の、花みたいに広がるドレスと、パステルブルーの少し大人っぽくはあるけど基本可愛らしいドレス、緑と紫と青をポイントに取り入れてある、シルバーのドレス。
本来通りにしっかり着るのは大変との事で、大分ゆったり着させてもらっている。
本当は体型を整えるところからするらしい。キュッと腰を縛ったりとか。
とにかく、ドレスなんて前世合わせても初めてで、ドギマギする。
鏡を見て、自分の顔にがっかりするハメになるのではと思っていたけど、顔がドレスから浮いていなくてホッとした。そして、やっぱり嬉しい。
トラン様に見せるために、試着用の部屋を出て少し歩く。
ヒールの靴なんてなれないから、ルティアさんが傍にいてくださってなお、ヨロヨロするけど。
「トラン様」
と小さく声をかける。トラン様が、小さな子を愛でるような顔をした。
あれ、そんな反応ですか。
ちょっとおかしくて笑ってしまう。
「きみの小柄さが際立つな」
「それ、褒めてません」
と苦笑する。
「実は、知り合いの女の子がそんなドレスを好んでいて。今5歳だったかな」
「だからそんな反応なんですね」
「気を悪くしたか?」
「いいえ」
「気に入ったら買うぞ」
とトラン様。
「私には勿体ないですよ」
「数着買いたい」
「どこに来ていくんですか?」
「持っていたらどこかで使うものだ」
「そう、ですか?」
真面目に不思議に思って、首を傾げる。
「あぁ。でも、やはり5歳の子を思い出してしまうから、良かったら他のが良いかな」
トラン様が少し笑いながら首を傾げている。
はい。じゃあ・・・。
「着替えてきますね」
***
シルバーに緑と紫と青をポイントに取り入れてあるドレスは、5歳の子の趣味では無かった様だ。
「それ良い。似合っている。買わないか? 買って良いか」
とトラン様。
「本当に、使うところを思い浮かべないのですが」
「そんなはずはない、最低数着いるはずだ。きみ、貴族令嬢と友人関係になったらお茶会などに誘われるぞ。用意しておいた方が良い」
「ご令嬢の方とお友達になれそうには思えませんが・・・」
「スミレ・ヴァイオレット嬢とは友人関係になるのかと思ったが」
うーん。
それはあるかもしれないけど、お茶会にまで誘われるかなぁ。
マナーが酷いって、長期にお休みされる前にハッキリ言われていたし・・・。私のマナー、トラン様とランチして少しは進歩していたら良いけど、絶対『ちょっとマシになった』程度だろうし。
「買いたいので買わせてくれ。俺の自己満足だ」
「・・・はい」
トラン様のお金です、こう言われたら拒否なんてない。
「役に立つ時が来たら、『ほら言っただろう』と言ってやる。得意そうに」
そんな事を言うので、思わず笑ってしまった。
「ふふ、分かりました。じゃあ、トラン様、買って、貰って良いですか?」
「あぁ。それから、あと数着欲しい」
トラン様は、お店の人を見た。
それだけで、お店の人は心得たように次の品を見せて来る。
***
最終的には、何が良いのか判断基準が分からなくて、トラン様は基本的にどれでも「買おう」と言うので、本当にこれ全部買うのか不安になり、ルティアさんたちに助けを求めた。
結果、とりあえず3着を購入。
私の場合、ふわふわしたものより、ちょっとしっとりした生地のドレスが良いそうだ。
よく分からないけど、そうなんだろう。
古典的なエレガントなタイプ、というシルバーに金茶の刺繍がたくさん施してあるもの。
緑と紫と青をポイントに取り入れてある、ちょっと大人目のシルバーのドレス。
そして光沢のある真っ赤な大胆なデザインのドレス。最後のは、夜会用だそうだ。使う事あるのかなぁ・・・。
「私って、シルバーが合うのですか?」
とルティアさんに尋ねてみると、
「似合われているという事もありますが、貴族では色そのものをシンボルマーク代わりに使う家もありますので、被らないようにといたしました。シルバーは神聖な色の一つですので誰が使っても問題ありませんし、レッドは皆が使える人気色ですわ」
「なるほどー」
ドレスの色も、いろんな注意がいるんだ・・・。
覚えているのがすごい。でも覚えていなくちゃいけないんだろうな。
***
さて、仮面舞踏会用の衣装もこちらで頼むらしい。
よく分かっていないのと、トラン様のご希望で、私のテーマは『ネコ』にすることに。
一から作る時間も無いので、ベースとなるドレスを買って、それに装飾を付けてくださるそうだ。
なんだか全部やってもらっていて、本当に良いんだろうか。
不安になってチラ、とトラン様を見るけど、ニコニコしているので、良いんだろうな・・・。
「顔には、口元だけ出る仮面をつけるのが多い。ベースを選んで、装飾する事になる。ベースはどれが良い?」
仮面舞踏会があるとお店は分かっていて、仮面も用意してあるそうだ。
とりあえず、顔の大きさに合うものを選ぶ。
「トラン様はどうされるんですか? 本当に木こりですか?」
「他に思いつかない。それで良いだろう。仮面はこれで良いか」
ご自分のは適当だなぁ。
「斧とか持つんですか?」
「本物は持たない。危ないからな。デザインに取り入れる」
「今から作って間に合うのですか?」
「俺はそこまで気合を入れない。正体がバレなければいいだけだからな。間にあうレベルで作る」
トラン様が優しく笑った。
「パーティに楽しく参加すればそれで良いんだ」




