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81.チョコレートを味わう

トラン様の使用人の方々が作って下さったというコースにそのまま乗っかる。

まず、ランプ専門店。

オシャレ!


わぁ、と気分が盛り上がる。


とはいえランプなんて壊れない限り買ったりしないので、その店は見ただけ。

次は、チョコレート専門店。


カフェが併設されていて、貴族用のテラススペースで、ホットチョコレートを飲ませてもらう。

ちなみに、トラン様はコーヒー。


「チョコレートは苦手なんですか?」

「いや。俺は、コーヒー飲んで、チョコレート齧るのが好きなんだ。ほら」

砂糖かな、と思っていた銀食器のフタをトラン様が持ち上げると、そこに小粒のチョコが行儀よく並んでいた。


「皆にここの土産を頼まれたぐらい人気なんだ。小さい頃から食べていて飽きない」

「そうでしたか」


少しのんびりチョコレートを味わう。

うわー、贅沢だなぁ。

チョコレート、複雑な味がするなぁ。美味しいんだけど、甘いだけじゃないプライドを感じるって言うか。

うーん、貴族だ。


「俺、こっちの世界のチョコレートの方が好きだ」

「そうなんですね。チョコ、きっとこれが高級な世界のだからかもですね」

前世、最後の方、チョコレートなんて食べられなかったから、どんな味か覚えてない。

私が覚えているのは今この世界の、平民が月に1度ぐらい買っても良いような、チョコレート。


「そうだな。俺、贅沢な暮らししてるなぁ・・・」

しみじみとトラン様が言って、少し遠くを見ている目をした。前世の事を思い出しているんだろう。


「トラン様、前世は、幸せでしたか? 亡くなった時は別で」

「んー・・・そうだな。でもそれ考えると、どうしても最後の悔しさが優る」


「・・・」

馬鹿な事聞いてしまった。

気まずくなったのを、トラン様が私の方に動かれたのでつられて様子を見てしまう。

「正直、今の方が良い。こうやって過ごせて。・・・きみと」

「・・・ありがとうございます」

カァと照れる。


「きみは?」

「間違いなく、今が、良いです」

とても大変だけど、でも、前世は恋に憧れて死んだから。好きな人と一緒に過ごせている今は神様がくれたご褒美の時間に違いない。

「昔、憧れたことが、今、できてます」

トラン様と、と付け加えようとしてチラ、と様子を見て激しく恥ずかしくなってとても口にはできなかった。


二人ともしばらく黙って、美味しいチョコレートを口にしていた。


***


無言を終わらせたのはトラン様だ。

「そういえば、昼休みのことなんだが、聞きたいか?」

「あ、はい!」

聞こうと思っていたのに、自室で滅入ったりしてちょっと忘れてしまってました!


「話すのに、もう少し近づいて良いか?」

「はい」

キョトン、とすると、トラン様が二人掛けソファーへと促すので、並んで座る事に。


ヒソ、と小さな声でトラン様が話し出された。

「大きな声で話しづらい」


そう言う事か。一応公共の場で二人掛けソファーに並んで座るというこの状況に照れてしまいましたが、本気の理由があったんですね、すみません、なるほど!


ちょっと反省して、照れて赤くなったままの顔で、真面目な顔をして頷いたら、トラン様が一瞬動きを止めて、少し笑った。

「まずいな」


なにがですか。


またヒソヒソ声に戻る。

「昼の事だ。結局俺はほぼ間に合わず、聞き取った話だが」


は、はい。コクコクと頷く。無言ですむから。


「レオが、懲りずに現れたモモ・ピンクー嬢に腹を立てた。昨日、きみが酷い目に遭ったことについて、モモ・ピンクー嬢は現場にいたのに助けなかったと廊下で怒ったんだ」


「・・・」


「モモ・ピンクー嬢は大勢の前で泣いてしまい、最後は使用人に囲まれて立ち去った。午後の授業は欠席だったそうだ」


「・・・」


「・・・と、言うわけだ」

トラン様、囁き態勢を解除して、普通の音量でそうおっしゃった。


私は困り顔でトラン様を見た。


「どうした?」


「どうしてそんなに怒られたんですか? レオ様。モモ・ピンクー様、これからどうされるんでしょう。相当ショックだと思います。私でも、モモ・ピンクー様はレオ様が好きだって知っているぐらいなのに」


「・・・きみを助けられる場所に居たのに、個人の小さな嫌がらせを優先した。きみは死にそうな目に遭ったのに、完全な第三者を装うとした。彼女には大きな問題がある」

「・・・でも、モモ・ピンクー様が私を助けるなんてありえないと思います」


トラン様が眉を潜めた。

「そこが大問題だ。人格に指導を入れるべきだ。レオに怒鳴られてショックだっただろうが、レオに言われないと堪えないだろう」

「立ち直れ無さそう・・・」


「どうして同情するんだ。きみはもっとモモ・ピンクー嬢に対して怒るべきだ。きみは被害者だ」

「・・・」

叱られてしまった。視線を下げる。


少しして、トラン様が謝って来られた。

「心配で、つい。キツイ言い方ですまない」

「・・・こちらこそ、すみません。有難うございます」


トラン様が困った顔で笑おうとしている。

「元気出してくれ。俺のチョコレートも食べないか」

「・・・いただきます」


「良かった」

トラン様がほっとした。

示してくださるので、並んでいる中、一粒貰う。


食べてみる。苦くて甘くて、あれ、ちょっとお酒はいってる?

「お酒・・・」

「あ。しまった。きみ、弱いのか?」


「いいえ、まだ飲んだこと無かったです・・・」

「そうか。なら1粒だけな。味はどうだ?」


「大人の味がします」

「はは。酒な」


「複雑で、甘いだけじゃないぞっていう感じが」

「そうか。口にはあったか? まだ早かったか?」


「美味しいです」

「それは良かった」


これをトラン様は小さな頃から食べていたんですね。大人だなぁ。

ちょっとのお酒で、なんだか耳が熱くなるのを感じた。

ちょっと浮かれた気分で、笑う。

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