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08.私の前世紹介と

トラン様の前世のお話が一段落した様子なので、次は私が前世紹介。


「岐阜県民の、紀藤きとう すず、でした。17歳で病死しました。4年ぐらい入院生活で、健康羨ましいと思いながら学校行けないままでした」

前世の事だけど、話すとちょっと滅入ってしまう。


そして、話すことはこれだけだ。


トラン様を見ると、少し動揺した様子で、私をじっと見つめていた。


私は首を傾げた。

「なにか?」

「あ、いや。17で病死、か、そうか・・・」

と言ったトラン様は、少しガッカリしたように見える。


私は首を傾げたまま、じっと様子を観察する。

トラン様は気づいて、少し硬い笑顔を見せた。

「いや、なんでもない」


「何か・・・違う答えを、期待していました?」

例えば・・・。

例えば?


ん? 私が、その前世の彼女さんの生まれ変わり、とか?


確認してみようか。


「・・・私、ひょっとして、前世の彼女さんに似ているんでしょうか? 違うと分かって、がっかりしました?」

「・・・。ごめん」

トラン様は私に詫びた。


「そんな事起こるはずがないと分かってる。けど、俺がトランに生まれ変わってるのなら、彼女がいて、だから俺は彼女の好きな顔して生まれてきたのか、とか・・・ごめん。勝手に」


そっかー。


「いいえ。すみません。人違いで」

「いや、きみが謝る事じゃない。俺が、申し訳ない」


あ。

「でも、私もトラン・ネーコ様も日本人から生まれ変わってるから、他にもいる可能性はあると思いませんか? だから、彼女さんも、ひょっとしているかもしれませんよ」

あんまりにも落ち込んでいるように見えてしまうから、そうフォローを入れてみる。


トラン様は、苦笑してから、顔をあげた。

そんな奇跡あるはずない、と自分に言い聞かせるみたいに、だけど希望を持つみたいに。


余程、運命の赤い糸とかで繋がってたら、そういうこともある、かも、しれない・・・。


***


前世紹介が一旦完了したので、私への嫌がらせ対策の緊急性を訴えて、特に『寮の自室さえ安心できなくて不安だ、良い案求む』を切り出したところに、お片づけを終了したトラン様の使用人、ジェイさんが、私がうっかりテーブルの上に忘れていた不細工な出来のクッキーを持って部屋に来た。


そんなわけで、話の流れで料理の授業で起こった出来事も話しつつ、クッキーを齧りながら相談事を続ける。

あ、クッキーはたくさんあるので、控室に待機になったジェイさんたちにも差し上げた。

貴族令嬢様が形を作られたクッキーです。と言ってみたところ、畏れ多くもそんな貴重なものを、と辞退しようとされたけど。


さて。

「日本人的感覚からすると、犯罪行為だな・・・」

と私の話を聞いたトラン様が悩んでおられる。自室の事以外にも、頭にバケツ降ってきたり体操着隠されたり色々あるから。


だけど、困ったように私を見るだけで、解決法とか何もない。


「トラン様、お願いします。貴族だから私よりずっとできることが多いはずです!」

「・・・だけどなぁ。現時点で、俺がきみに深くかかわると、色々勘違いされる上に、問題も出る」


「例えば?」

「一番の心配は寮の部屋の安全なんだろう? 正直、誰か貴族の庇護下に入るのが安全だが、俺の庇護下というのは・・・不味いだろう。愛人を囲ったと邪推される」


「うーん・・・」

だけど、どうせ嘘なのだし、愛人疑惑でも良いから支援して欲しいというのも正直なところだ。


「まぁ・・・問題ないと言えば問題ないか・・・」

悩みながらトラン様がそんな事を口走る。

「え?」

なになに!?


「俺にも婚約者がいる。ただし、他言無用だが、一時的なものだ。家同士の都合での婚約ではあるが、幼少時に互いに、合わないと直感したようだ。俺は俺でダダをこねたし、状況から見て向こうもそのようだ。だから、『どちらかに結婚を考える別の者ができたらこの婚約は解消できる』という一時的な婚約関係にある。双方適齢期を迎えて特に何もなければ結婚になるがな」

「そうでしたか」


「・・・もしきみが、」

と話かけて、トラン様は途端に言い淀み、何かを堪えるようになった。

あ、違う。泣きそうなんだ。泣きそうなのを堪えてる。


もし私が?

なんだろう。


もし。


もし私が、きっとそんなはずはないけど、もし、前世の彼女さんの生まれ変わりだったら・・・


なんてことを、ふと考えた?


考えたっぽいなぁ。

悔やむような泣きそうな表情だし、トラン様が慌てて顔を右手で隠した。


すごく好きだったんだろうなぁ・・・


見てるだけで切なくなる。


辛さに耐えようとしてか、動きを止めたトラン様に、私は少し困ってしまった。

「彼女さん、そんなに想ってもらって幸せですよ・・・私なんか恋も無かったですからね・・・好きな人ができたっていうのだけで、良いなって思うぐらいです・・・」

「ごめ、」

と言いかけて、途中で終わった。声を出したのがトラン様的にまずかったらしい。


見ていられない。どうして良いのかも分からないけど、人として。

私は立ち上がり、テーブルを回って、トラン様の背中に軽く触れようとした。


瞬間。ゾッした。


黒いイメージが頭の中に降ってきた。



――― 夕焼け空、星が、暗い空


――― 怒って、面白がってきた友人に返事、聞いてあいつ酷いよ、って、


――― 学校に

――― ザワザワと、

――― 先生が、来て・・・


――― “キノウ・・・




嘘 本当に?





どうして、

わたしは昨日、


そとで』って





「―――ぅ、あ、




涙が。次から次から溢れて来る。身体が震える。



***



「しっかり!! ジェイ! 医者を!」




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